36話 忍者
サンクトゥスの各地で同時に発生した大規模テロ。
それらは、タケ、パキラ、アイリスによって沈められた。
聖騎士を殺戮する集団を壊滅さた。
家々を破壊し、暴れ狂う怪物を拳で黙らた。
殺戮の波を予言し、爆破させた。
それらは、それぞれ西部、東部、中央部で起こっていた。
だが、この国で最も目立ち、人が避難する場所は、何も起きていない。
怪物が来るわけでも、人為的な罠があるわけではない。
その場所は、教会本部。
教会本部は、山脈の内部を掘って造られている。
その技術は、魔法があるにもかかわらず、現在未解明。
記録には、聖神が神権にて創造したとされるが、やはり真偽は不明である。
それは置いておいて、構造は複雑だ。
アリの巣のように張り巡らされて、幾つもの部屋がある。
神聖の間もその内の一つだ。
他にも祭具の保管庫などがある。
保管庫の警備は厳重であり、常に聖騎士が入り口を見張っている。
そして現在、聖騎士はテロ騒動により、出払っていた。
◆
タイムは、走って通路を進む。
本来は、教会内で走ることなど、言語道断だが、今回は非常事態なので、仕方がない。
タイムと共に走る者がいる。
「………………本当にこちらに来るべきだったのでしょうか?」
彼女が呟く。
彼女の名は、ヴェロニカ。
タイムたちの案内役としてタイムに付いて来たが、今になってテロの収拾へ向かった方がいいのではないか、と疑問を持ち始めたのだ。
「解りません」
タイムは、正直に答える。
「解らないって………………」
「でも、ヴェロニカさんは、あっちへ向かうより、こっちへ来た方がいいと思いますよ」
「根拠は?」
「勘です」
タイムは、真顔で答えた。
『本当に大丈夫か?』
ヴェロニカの疑惑は、より深まった。
少し進むごとに、曲がり角があるたびに、階段を下りるときに自問自答をする。
その結果、全てにおいてタイムへ付いて行くという答えをとった。
本当に何かあるのかもわからず、そもそも起こったとして、行く先でそれが起こっているとは限らない。
それだというのにタイムの走る方向は、迷いが一切ない。
通路の材質が変化する。
そこは紛れもなく、神聖の間へ続く道だった。
『あの複雑な道を一回で覚えた? 私は、丸一日かかったのに………………』
タイムの記憶力を羨む。
ヴェロニカは、数十回行き来をして、やっと覚えたというのに、タイムは往復一回で覚えた。
そのまま二人は、その通路を進んで行く。
「もうそろそろ、神聖の間に着くが、ここで何が起こっているんだ」
ヴェロニカは、半ば諦めている。
「そうですね。一体何が………………どうやらここに来たことは、間違っていなかったみたいですよ」
タイムが言った。
視線の先には、神聖の間への扉、そして一人の人間がいた。
その者は、扉の鍵穴を弄っている。
「そこの者! その扉は、立ち入りが禁止されている!」
ヴェロニカは、そう言って歩み寄る。
だが、おそらく建前だろうと、タイムは考える。
ここまで深く、複雑な場所に辿り着くことは困難だし、一人でいることも不可解だ。
タイムは、いつでも臨戦態勢へ切り替えることのできるよう構える。
「え~、拙者は、怪しい者ではありません」
彼は、両手を上げて、言う。
そして、ヴェロニカに一歩一歩、ゆくっりと歩み寄る。
「無我夢中で逃げていたら、ここに辿り着いてしまいました」
「………………その扉を弄っていたのは?」
ヴェロニカが問う。
「避難しようとしていただけで焦っていただけです。でも、聖騎士の方が来たのなら安心です」
「………………そうか」
ヴェロニカとタイムは、警戒を解かない。
明らかに無理がある。
「えぇ、ですから、案内をしていただきたいのです」
ヴェロニカの目の前に男が立つ。
ヴェロニカは、腰に携帯する剣を抜こうとする。
「さらば」
その時、男は、何処からともなくナイフを取り出し、ヴェロニカに切りかかった。
ヴェロニカは、回避、防御ともに間に合わない。
衝突音。
ナイフは、受け止められた。
受け止めたのは、タイムだ。
呪剣を使って、受け止めた。
反射的にそれを使った。
「まさか、受け止められるとは………………」
男は、後退する。
「貴様、何者だ!」
ヴェロニカが剣を握って、問う。
「本名は言えない。今は仕事中である」
男は、ナイフを投げ捨てる。
「拙者の役職名は、〈忍者〉!」
男は、何処からともなく刀をとり出し、構える。
「………………このテロの首謀者か?」
タイムが険しい顔で問う。
「いや、拙者らは、依頼されただけである」
「依頼主を白状する気は?」
「拙者は、口が堅いので、無理である」
自白は、期待できそうにない。
「“ら”って、今暴れているのが、お仲間か?」
「ノーである。その者たちは、仲間の用意した者たちである。実際、来ているのは拙者だけである………………」
男は、少し落ち込む。
一人が少しこたえたようだ。
「兎に角! もう命は、取らぬからそこを通してもらえないか! 道に迷ったのは、本当である!」
忍者が我慢できずに言う。
『案外、人間だな~』
タイムは、心の中で考える。
仲間がいないことで音込んだり、迷子になったり、と極悪非道な犯罪者より切り難い。
「通すわけが、なかろう!」
ヴェロニカが叫び、切りかかる。
「はぁ~、そうであるか………………では、無理やりにでも通らせてもらおう!」
忍者は、ヴェロニカの剣を避ける。
そして、腕を引く。
投げ捨てたナイフが、ヴェロニカに向けて飛んでいく。
タイムがよく目を凝らせば、細い糸が結ばれている。
タイムが影魔法で糸を切断し、剣で弾き飛ばす。
「これも防ぐか」
忍者は、クナイを虚空から出す。
何らかのスキルだろうとタイムは、考察する。
タケの【盗人】のように道具を出し入れするスキルか、それか武器を作り出すようなものだろうと考える。
前者ならば、種類も数も未知数でありながら限りがある。
後者ならば、種類に限りがないが、何かしらの限りがあるだろう。
魔力などのエネルギーが代償になるはずだ。
忍者が複数のクナイを投擲する。
ヴェロニカは、剣を振って、薙ぎ払う。
タイムは、剣と影魔法を器用に使って、回避する。
二人は、案外容易に避けられた。
タイムは、【影移動】を使い、投擲物を無視して接近する。
「はぁ!? 何であるか! それ!」
忍者が嫉妬する。
タイムは、剣を振りかぶっている。
そして振るう。
刃を傾けて、平たい部分で叩くように振る。
忍者が避ける。
「危ない。危ない」
忍者が手に持っていた刀を投げつける。
「闇雲では、意味がないのなら………………戦闘を放棄させていただく」
そう言って、消えた。
消えたのだ。
正確には、見えなくなったという方が近いだろう。
暗闇へ溶け込むように見えなくなった。
タイムは、直後の発言から考える。
そして、通路を振り返る。
そこには、走って通路を引き返そうとしている忍者がいた。
タイムが走って追う。
「待て!」
タイムは、呼び止めるが、忍者は止まらない。
ただ、一直線に走っている。
ヴェロニカも走り出した時、タイムが追いつく。
そして、組み技のように押さえつける。
忍者が丸太に変わった。
森に生えている木へ横に二回、刃を入れたような切り口の丸太だ。
タイムとヴェロニカの二人は、一時的に硬直する。
目の前の人間が物体へ変わったら、誰でもこんな反応をする。
二人の背後――――――つまりは追いかける前、元々向いていた方からガチャガチャと金属音が聞こえる。
振り向けば、そこには丸太へ変わった忍者がいた。
タイムは、察した。
『騙された』
この丸太に変わった方はダミーであり、本人は潜伏し続けていたのだ。
それを認識した後、二人はもう一つのことを認識する。
鍵だ。
神聖の間へ続く扉を開くのに必要な鍵が忍者の手にあり、それは鍵穴へ刺さっている。
「馬鹿な!」
ヴェロニカが鍵を探す。
だが、何処にもない。
さっきまで持っていた鍵は、無くなっている。
「聖騎士さん。スリには、注意したほうがいいのである」
忍者がヴェロニカに助言する。
『盗んでおいてこいつは、何を言っているんだ?』
タイムは、そう考える。
今は、もっと考えるべきことがあるが、余計な思考が入って来る。
タイムは一度、大事な物をすられたことがあるためだろう。
ヴェロニカは、止めようとするが、間に合わない。
忍者が扉を開ける。
開かれた瞬間から光が漏れ出した。




