34話 シンスト
パキラは、魔剣「閃く焔」を携えて、屋根から屋根へと飛び移る。
彼女が向かっているのは、サンクトゥス西部で最も目立つ場所。
建物が崩れ、瓦礫の砕ける音が聞こえる場所だ。
それに混じり悲鳴も聞こえている。
パキラは、急いだ。
◆
パキラの目的地。
その場所には、三人の聖騎士がいた。
彼らは、勇敢に聖騎士としての役割を果たそうとしたのだ。
サンクトゥスを守るため。
市民を守るため。
だが、その結果は、無慈悲な物だ。
一人目は、その怪物に立ち向かった。
「聖騎士の名の下にお前を討伐する!」
そう言って、剣を握り斬りかかった。
「覚悟し――――――」
だが、切り傷は瞬時に治癒され、振るわれた前腕によって瓦礫へ叩きつけられる。
そのまま、動かなくなった。
「は?」
二人目は、その行動に激情。
「覚悟しろ! 悪しき者!」
神聖魔法の神撃を発動させようと詠唱を開始する。
だが、半分を唱えた所で瓦礫を投げられた。
もう一人が腕を引き回避させようとするが、無事だったのは上半身だけだった。
最後の一人だが、目の前の相手に絶望していた。
その怪物は、三人を見ていなかった。
邪魔な物としか感じていない。
目の前の建物と同等か、それ以下の認識だ。
それほど、強さに差があった。
格差。
絶望の理由は、それで十分だった。
聖騎士の役割は、サンクトゥスを守ることである。
それは、サンクトゥスの地、サンクトゥスの民が含まれる。
それが果たせない今、彼は何をすべきだろうか?
仲間を集めるか? それともここで少しでも足止めをすべく犠牲になるか?
彼がそう考えていると怪物が破壊を止め、彼の方を向き、近づき、前に立つ。
それは怪物の気分からなる方向転換だった。
「ヒッ!」
聖騎士は、怯えることしかできない。
そして、怪物が破壊活動を再開しようとした瞬間だった。
天から赤い炎が下る。
そしてそれは、怪物の頭上に降る。
怪物は、振り返る。
自身に降ったそれを確認するため。
聖騎士が目をやる。
それは人だった。
赤い髪をなびかせ、炎を剣に纏っている女性。おそらく冒険者だろう。
「あたし、参上だ!」
彼女は、そう言い放った。
◆
『さて』
パキラは、決め台詞を言った後、思考をすぐに切り替える。
『とりあえず………………こいつが原因か?』
パキラは、目の前の相手を見る。
巨体の獣人。
しかもアンデットになっている。
そして、今にも襲われそうな聖騎士。
さらに周囲にある二つの死体。
「おい、そこの! こいつが暴れてる奴で間違いないか?」
パキラは、問う。
「ああ! その通りだ」
聖騎士は、パキラの問に答える。
「そうか」
パキラが返事をした瞬間、目の前の怪物――――――シンストがパキラへ腕を振るう。
「じゃあ、戦っていいな!」
パキラは、そう言うと魔剣で迫っていた腕を切り落とした。
シンストは、再生を始める。
だが、とても遅い。
それもそのはず、パキラは魔剣で切り口を焼いている。
「うがぁぁぁぁぁぁ!」
シンストが唸る。
そして、焼けた傷口を食いちぎる。
「おぉ! そこまでするか!」
パキラは、その判断に感嘆する。
二人の遺体を抱えて、その場から去ろうとする聖騎士は、その様子を不気味がって逃げていく。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
シンストは、再生した腕を振りかぶり、パキラへ向けて打撃を放つ。
「それ!」
パキラが先ほどと同じように腕を切る。
再生したばかりの腕だ。さっきより脆く簡単に切断される。
「グルァァァァァァ!」
腕を切断されたシンストは、勢いを止めることなく殴る。
パキラは殴り飛ばされ、建物にめり込む。
シンストは、近くの建物を破壊するため向きを変える。
「おい、痛いだろうが!」
直後、シンストが今まさに破壊しようとしている建物へめり込む。
パキラが仕返しにやったのだ。
壁から抜け出し、接近。続けて拳で一撃を見舞った。
シンストが壁から抜け出す。
「どうしたよ? もうお終いか?」
パキラが煽るように言う。
「グルルルル………………」
唸りながらもノソノソと歩き、パキラの前に立つ。
「………………」
「………………」
二人が向かい合う。
パキラは、相手を観察する。
シンストが無言でパキラに掴みかかった。
パキラは、涼しい顔で両手を押さえつける。
『何か知ってるよーな?』
パキラは、シンストを見る。
顔などは、明らかに知らない顔だ。
パキラの知る獣人にこんな人はいなかった。
『何だっけなー?』
パキラが思い出そうとする。
実は、パキラが子供の頃。バーベナに悪い獣人として聞かされていたのだが、本人は全く覚えていない。
◆
パキラが6歳の頃。
「パキラ。ナンテン。今日は少し怖いお話をしてあげよう」
「ぇー」
ナンテンは、残念がる。
「バーベナー、どんなおはなし?」
パキラは、前のめりで聞く。
「むかしー、むかしー、あるところにシンストと言う獣人がいました」
バーベナが語り始める。
シンストは、子供の頃から悪さばかりしていました。
人々が注意しても直さず悪さを続けました。
ある時、シンストが村長さんを家に招きました。
村長は、怪しみながらもシンストの家へ行きました。
村長さんの考えた通り、家でいたずらをされました。
シンストは、村長さんに赤色の花びらを浴びせました。
このことで村の人たちは、カンカンです。
何故なら、その花びらは、村の人たちが大事にしていた花からむしった物だったからです。
シンストは、二度と悪さができないように洞窟に閉じ込められましたとさ。
「お終い、お終い」
バーベナが話を締めくくった。
「そのひと、ずっととじこめられたの?」
ナンテンが尋ねる。
「そうだよ。暗くて、誰も来ない洞窟に一生閉じ込められたんだよ~」
バーベナが怖がらせようと答える。
「ひぃ、もう眠る!」
ナンテンは、逃げるように去っていった。
「あれ? パキラは、逃げないのかい?」
「うん」
パキラは、うなずく。
「怖かったろう?」
「うんうん、ぜんぜん」
パキラが首を振る。
「そうか、パキラは、強いな~。私が子供の頃は、ナンテンみたいに怖がったのに………………」
バーベナがパキラへ関心する。
「バーベナ」
パキラが呼び停める。
「そのひと、いまもとじこめられてるの?」
パキラが尋ねる。
「そうだよ。悪い事をしすぎたからね。パキラも悪いことをしたら閉じ込められるかもしれないから、いい子に過ごすんだよ」
「うん」
◆
「う~ん」
パキラが唸る。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
シンストが吠える。
「ダメだ! さっぱり思い出せない」
パキラはあきらめる。
次の瞬間、シンストは壁に埋まっていた。
これで二度目だったので、さっきと同じ様に腕を使って抜け出そうとする。
だが、何度動かしても抜け出せない。
シンストは、足も使い抜け出す。
シンストの腕は、無かった。
肩から引きちぎられていた。
「この腕、まだ、掴むのか………………」
パキラが千切れたシンストの腕を引き剥がす。
シンストは、その状態を確認した後、腕を再生する。
『再生は、自動じゃないのか………………』
埋もれている状態で再生しなかったということは、痛覚も無く、確認してから発動しなければいけないスキルの力だろう、と考える。
パキラは時折、頭が足りない所がある。
だが、戦闘に関しては、冴える。
パキラの優れている所の一つだ。
そしてもう一つ、優れている部分。
「もう一回、埋まっとけ!」
パキラが蹴り飛ばす。
パキラの優れている部分、それは肉体の性能だ。
耐久力も申し分ないが、桁外れに筋力が強い。
力だけならば、『勇気の形』を発動したタイムを上回る。
埋められたシンストは、抜け出そうとするが、パキラが防ごうとする。
魔剣をシンストの胸部に刺し、杭の役割をさせる。
動き難くなった所を殴打、殴打、殴打。
殴り続ける。
魔剣を使えば、確実に倒し切れるが、パキラは殴打し続ける。
シンストも最初、その胴に付いている四肢で抵抗するが、その内、動かなくなる。
アンデットが倒された。
本来、このような倒し方はされず、する者もいないが、パキラはした。
不死族を打撃で殺し切った。
「ふー、終わった終わった」
パキラが締めくくった。




