33話 アゲラタム
タケは、身構える。
すぐ後ろには、暗殺団の団員たちが気絶している。
その状況は、タケがつくった状況だと言える。
事前に購入していた薬品をナイフに塗布、後は少しでも切りつければ、数秒で気絶する。
本来は、ラットの討伐に使おうと購入した物だが、思わぬ使い道だろう。
毒物など耐性のある者では、上手くいかなかっただろうが、運良く耐性を持つ者がいなかったことが幸運だ。
そして残るは、目の前の暗殺団の統領ともいうべき、アゲラタムの一人だけだ。
「何で手出しをしなかったんですか?」
タケが純粋な疑問としてアゲラタムに問う。
タケが団員の相手をしている間、団長である彼は、傍観するだけで口出しもしなかった。
あまりにも他人事のような対応だ。
「何でって………………十分な観察をした方がいいと判断したからだが?」
アゲラタムは、当然だと言うように答える。
「でも、あなたが入れば、楽勝だったはずです」
タケが反論する。
「あぁ、その通りのようだ。今の君の発言で確心したよ」
その返答にタケは、首を傾げる。
「確かに私が参戦すれば、勝率が高かっただろう。だが、君に切り札がないとも言い切れない」
アゲラタムは首を傾げたタケに説明する。
「何て言ったって、君は手持ちの道具が外見から解らないからね。だから十分観察させてもらった」
タケは、説明を理解した。
『要は、臆病なのか!』
そう話をかみ砕いた。
臆病と言ってもタケにとがめる発想は微塵もない。
自身はよっぽど酷い臆病者だし、それは同時に慎重であるということだからだ。
「まぁ、そんなことは、どうでもいい」
アゲラタムは、話を切り上げる。
「それじゃあ、仕事の続きだ」
アゲラタムはナイフを握り、タケへ接近する。
対するタケは、そのナイフを盗むために構える。
速さに反応すべく、視覚を研ぎ澄ます。
そして、その勝負が開始された。
アゲラタムは、間合いに入った直後、タケの首筋へ目がけてナイフを振るった。
タケが反応し、軌道上に右手を移動させる。
そのまま、ナイフの刃がタケの手に触れた瞬間、ナイフは消えた。
後には、手の平に浅い切り傷が付いている。
勝負は決した。
勝者は――――――
「残念だったな」
アゲラタムは、タケにそう告げる。
タケの左肩にナイフが深々と刺さっている。
盗んだ方とは、対称の手に握られているナイフだ。
タケは、傷口を押さえるが、そのまま転倒する。
「そのナイフには、毒が塗ってある。即効性はないけど、四肢を痺れさせ、時間をかけて殺す毒だ。もうじき死ぬよ」
アゲラタムは、最後に教える。
「それじゃあ、皆を回収して、優雅に逃げるとするよ」
そう言って、タケから離れる。
「………………待て」
タケが口を開いて、少しばかり距離のあるアゲラタムを呼び停める。
「何だよ。もう喋るのも疲れるだろ? それとも最後に介錯してくれとでもいうのかい?」
アゲラタムは、死ぬかけのタケに耳を貸す。
「残念でしたね。僕の勝ちです」
そう言った直後、アゲラタムが爆ぜた。
詳しく言えば、彼の胴体の右側がはじけ飛び、その周辺の部位も衝撃からか損傷する。
アゲラタムの肉体が大きく破壊される。
彼は最後に言葉も発すことなく、息絶え、前かがみになるようにうつ伏せで倒れた。
タケはあの一瞬、右手でナイフを防ぐと同時に左手でアゲラタムの懐にクラッカーボムを忍ばせた。
どうせ、攻撃は避けられないと踏んだからだ。
さらにただ懐へ入れるだけでは、すぐに気付かれてしまう。
だから、団員から盗んだ黒いローブを使った。
黒いローブでクラッカーボムを包み、目立たないようにしようと捻り出された考えだ。
さらにタケの知らないことだが、魔道具としての効果でアゲラタムの意識から完全に外れ、露見することも無かった。
そして、時間差。
アゲラタムがタケから離れたことでタケは、毒こそ受けたものの、爆発を免れた。
当初タケは、一矢報いる気持ちで実行したので、まさに棚から牡丹餅だ。
勝者は、タケだった。
タケは、傷口を押さえる。
しかし、押さえる手には、力が入らない。
毒の麻痺で筋肉が思い通りに動かない。
出血も多い。
このままだと、本当に聖騎士たちの後を追うことになるかもしれない。
『皆さんは………………大丈夫でしょうね』
皆の心配をしようとするが、それが無用なことだと止める。
それは信頼ゆえ。
タケは、何とか体を動かし、仰向けになる。
そして、周囲の無音と経過を感じながら空を仰いだ。
~おまけ~
暗殺団団長アゲラタムの装備品
「黒いローブ」
認識阻害効果を持つローブ。団員の着用している物より性能がいい。
「黒いナイフ」
黒いだけのナイフ。黒いから光を反射せず、暗闇だと全く視認できない。アゲラタムは四本常備している。
「透過ナイフ」
刃が透過する魔道具。柄は透過しない。
「毒」
魔物から採取された二種類。四肢の痺れと時間をかけて殺害する二つの毒がある。
アゲラタムがナイフへ塗布した物は、観察中に混ぜた物。
時間をかける理由は、食事に盛ってもすぐには気付かれないから。
「クラッカーボム」
紐を引くと五秒で爆発する三角錐の爆弾。




