表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/37

30話 配置

 悲鳴が響く。

 至る所から嫌でも耳に入る。


「ひっ! 助けてくれ!」


「誰かぁ!」


 人々が叫びながら逃げ惑う。

 人々は何から逃げているのか?


 ◆


 サンクトゥスの西部。

 その場所は、どの地区よりも建物の損壊が激しい。

 町を守るための壁には、門のように穴が荒々しく開けられている。


 そこから道筋のように続いて建物が崩れている。

 それは生物の通った後だ。

 それも一匹――――――否、一人である。


「何なんだ! あいつは!?」


 その者は、馬車ほどの巨体で破壊をする。

 そこに理性は存在せず、魔物と何ら変わらない。


 その者は、魔物に成り果てた獣人族であり、同族から忌み嫌われるほどの罪人。


「こいつ! 攻撃が効いてないぞ!」


「切ったそばから再生する!」


 死してなお、アンデットに変わるほどの意地汚さ。

 重罪人の名を「シンスト」。


 被害規模は、建物の損壊が最も多く、それを止めようとした聖騎士、そして建物の瓦礫に巻き込まれた市民が犠牲になっている。

 その暴乱を誰も止めることはできていない。


 ◆


 サンクトゥスの東部。

 そこでは西部に比べ目立った被害はない。

 建物が派手に破壊されているような目立った被害は、ない。


「何なんだ、これは………………」


 近くに居合わせた聖騎士が周囲の光景に混乱する。

 目の前にあるのは、死体、死体、死体、死体。

 赤い水たまりの中に聖騎士の死体が倒れている。


「一体何が………………」


 そう呟いた瞬間、彼の喉元にナイフが突き立てられる。


「え………………」


 聖騎士の最後の言葉は、驚嘆の声となった。

 死体が一人増え、血が広がる。

 この惨状を引き起こした者は、黒いローブを身に纏っている。

 そして、この光景は、東部の至る所で発生している。

 ゾロゾロと黒い集団が建物から出て来る。


「リーダー、ここら一帯は終わりました」


 一人が統率を執る者に報告する。


「依頼通り、このまま続ける。中央部と西部は避けて、南部へ移動しろ」


 リーダーと呼ばれた男がそう指示すると、一斉に移動を開始する。

 彼らは、このテロの外注先だ。

 その業者は、実に簡単で解りやすい名称で呼ばれている。

 暗殺団というのがこの集団の名前だ。

 そしてその団長の名を「アゲラタム」。

 彼らは、着々と犠牲者を増やしている。

 依頼が終わるまで、その行為は終わらない。


 ◆


 サンクトゥス中央部。

 そこは、テロが発生するまで何もおかしなことは無かった。

 冒険者や市民が普段通り、行き交っている。

 平和な日常だった。


 だが、テロが発生した瞬間、そこは地獄に変わった。

 ある意味、一番被害が大きいかもしれない。

 その主な被害は死傷者。

 人が集まるからこその被害だった。


「ひぁぁぁぁ!」


「来るなぁぁぁぁ!」


 人々に迫るのは、鼠の魔物。

 ラット。

 それも数匹や数十匹ではない。

 何百から何千の大群が灰色の液体のように迫る。

 飲み込まれた者は、数秒も経たずに齧り尽くされ、骨も残らない。

 無尽蔵に地下水道から湧いてくる。

 数日前から異変はあったが、誰もここまでのものだと考えていなかったのだ。


 そして地下水道からそれが出てくる。

 地下水道の奥底でラットを増やし続けた原因。

 一際大きい特殊個体。

 名前は………………無い。


 ◆


 このテロ、突然の発生により、国を守るはずの聖騎士たちは、パニックに陥っている。

 もちろん、テロを想定した訓練などはされている。

 市民の避難誘導や原因の排除を頭に叩き込まれている。

 だが、今回は場合が違った。

 テロに魔物が参加することが通常ではありえない。

 神聖結界がある限り、魔物は侵入しないのだ。

 そして強さも規格外だ。

 聖騎士一人あたりの強さは、おおよそ冒険者ギルドの規定したランクでAランクほどだ。

 大抵の相手ならば、制圧が容易だ。

 だが、今回の相手はAからSランクという異常な強さ、勝ち目は限りなく少ない。

 そしてその目的も不明確であり、前代未聞の大規模テロとなったのだ。


 その惨状を高所から目の当たりにしているタイムたちは、言葉を失い………………

 

「助けに行こう」


 タイムが反射で言った。


「え? タイム、これは………………」


 アイリスがタイムを諭そうとする。


「パキラは、あの建物を壊してる奴を。タケはあの被害の少ない場所で避難誘導。アイリスは、中央のあれをどうにか………………」


「チョット待って! タイム」


 指示を出すタイムを遮って、アイリスがいう。


「タイム。確かに人助けは、重要だよ? でも、規模がおかしいんだよ。あの大群だって、スタンピードと何ら変わらないんだよ?」


「一回も二回も変わらない」


 アイリスの言葉にタイムは、そう言う。


「アイリスさんの言う通りです」


 タケが口を開いた。


「前も命賭けでしたし、今回はどうしようもないわけでもありません。逃げ道もあります」


 タケは続けて言う。


「ですが、僕はタイムさんの指示に従います」


 タケが意外にそう口にした。


「本気!? タケは、一番弱いんだよ?」


 アイリスは、ハッキリと言い切る。


「少し悲しくなりましたが、ここは事実なのでいいでしょう」


「タケ。何故だ?」


 タイムが問う。


「一番は、吹っ切れたのがありますね。危機感の麻痺です。それに僕は元々、泥棒でしたから妥当な人生かなぁ~と」


 タケが怯えも無く言った。


「あたしも従う」


 タケに続いて、パキラも言う。


「そもそも死ぬ気がしないね」


 こちらは、本当に理由がないようだ。

 ただただ、命知らず。


「はぁ~。私だけ?」


 アイリスが呟く。


「アイリス。できれば、手伝ってくれ」


「できれば、ね? できれば………………はぁ、解ったよ。やるよ!」


 アイリスが宣言する。


「アイリス。ありがとう!」


「いや、もう知ってたしいいよ」


 アイリスが言う。


「それじゃあ、さっきの指示通りに頼む。俺は………………」


 タイムが言おうとするのをアイリスが止める。


「タイムは、あっちへ行って」


 アイリスが指す方向は、彼らが来た道――――――つまり、教会だ。


「え? 何で?」


「知らないよ。占いで出ただけだし、今回のテロみたいに詳細は解らないけど、とりあえずあの扉まで戻って」


 アイリスが指示する。


「解った」


 タイムは、アイリスを信頼して了承した。


「それじゃあ、皆、死なずにな」


 その言葉が合図になって皆は、散っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ