3話 登録試験
タイムは目を覚ます。
夢などは見ておらず、特に異様な朝ではない。
タイムは起き上がって、背を伸ばす。
窓を開いて外を見る。
朝の町は、夜より人が行き交っている。
タイムは部屋を見るが、アイリスは部屋の中にいない。
タイムは支度をして部屋を出る。
部屋を出るとアイリスが宿の人と何か話していた。
「ありがとうございます」
アイリスがお礼を言って、その会話は終わったようだ。
アイリスがタイムに気が付く。
「タイム、起きたの? 良く眠れた?」
アイリスがタイムに聞く。
「あぁ、良く眠れた」
タイムは返事をする。
「さて、まずは朝食を食べに行こうか!」
アイリスはそう言い、宿から出る。
タイムはそれに付いて行く。
二人が朝食として購入したのは、大通りの屋台の一つで売られていたサンドイッチで、野菜が数枚と焼かれた肉少しだけ挟まれている。
二人は、大通りの端に腰を下ろし、それを食べる。
食事中、二人の間には会話がなく、黙々とサンドイッチを食べている。
食べ終わると二人は立ち上がり、会話を始める。
「よし、鍛冶屋に行くよ」
「場所を知ってるのか?」
アイリスの言葉にタイムが言う。
「宿の人に聞いておいたんだよ」
二人は、鍛冶屋に向かった。
◇
鍛冶屋の中には、剣や槍、盾や鎧などの武具が綺麗に並べられており、高熱の鉄を叩く音が聞こえている。
「すみません。剣を売ってください」
タイムが鍛冶屋の店主らしき人物に言う。
「おう、そこら辺に置いてある」
そう言って、剣が置いてある棚を示す。
タイムが棚の方を向き剣を見ようと歩きだす。
「あと防具も見せてください」
アイリスがタイムの補足をするように付け足す。
「防具はあっちに置いてある」
そう言って、剣の置いてある棚の隣の棚を示す。
「防具もいるのか?」
タイムがアイリスに言う。
「決まってるでしょ。逆にどうやって身を守るつもりだったの?」
アイリスが言葉を返す。
「それは、避けたりして…………」
タイムが剣を手に取りながらアイリスに言う。
「――――タイムが凄いのか、間抜けかの二択だね」
アイリスが皮肉も込めて言う。
タイムは皮肉の意味に気が付けず、剣を眺める。
眺めるが、タイムにはその違いが解らない。
タイムの目には、全て普通の鉄の剣に映る。
「違いが全く解らないんだが? アイリスは解るのか?」
タイムはじっくりと防具を見ているアイリスに聞く。
「いや? さっぱり解らない。全部、鉄で硬いなぁ、って思う」
アイリスが表情を変えずに答える。
そう、タイムとアイリスの二人は、武具を見る目が無かった。
記憶のないタイムと、武具とは無縁のアイリス。
二人は結局、適当な物を選んだ。
タイムは自身で選んだ剣を腰に提げ、アイリスの選んだ防具を身に付ける。
剣は鉄製の物で、防具は部分的に装備する軽量な物である。
二人は、装備品を購入した後、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドは、多くの冒険者が出入りしてそれなりに立派な建物である。
二人は扉を潜り、冒険者ギルドの建物に入る。
そして冒険者ギルドの受付へ直行する。
「すみません。彼の冒険者登録を登録をしたいのですが」
アイリスは、受付の人に言う。
「はい、登録の手続きですね」
受付の人は、背後の棚から書類を取り、タイムの前に置く。
タイムはその書類に情報を記入する。
情報と言っても記入するのは、名前くらいで他の項目は任意記入でだった。
そもそもタイムは、記憶喪失なので記入したくともできないので、どっちにしろだった。
なので記入も一瞬で終わった。
書類を受け付けの人に提出すると、次は奥の部屋へ案内される。
タイムは促されるままに移動する。
◇
少し長い通路を抜けると、そこには広場があった。
「それでは、試験内容を説明します」
広場に辿り着くと、案内をした職員の人が説明を始める。
「この広場では、ある程度の戦闘能力を判断します。中央をご覧ください」
広場の中央には、一人の男性が立っている。
男性はがたいがよく、人間ほどの大きさの戦斧を背負っている。
「あの人は、冒険者ランクBの冒険者ゴウランさんです。これからあなたには、ゴウランさんと模擬戦をしてもらいます」
それを聞いて、タイムはゴウランと呼ばれた冒険者の男を見る。
ゴウランは、強者の風格を纏っており、堂々と立っている。
「いつでも始めてかまいません。武器、魔法、スキル、何でも使用してかまいません」
タイムは、スキル? と思いながら剣を抜く。
タイムにとってスキルという言葉に聞きなじみがなかった。
魔法は何となく理解できるが、スキルと聞いてもピンとこない。
タイムは剣を構え、ゴウランに向けて駆けだす。
そして剣を振る。
剣は、ゴウランの防具を狙う。
防具を狙ったのは、流石に生身の部分を狙うと大怪我をさせる可能性があるからだ。
剣が防具に届こうとした瞬間、ゴウランはそれに反応し、跳躍してその斬撃を回避する。
斬撃を避けられたタイムは、距離をとるために後方へ下がる。
「ふむ、次の相手はお前さんか?」
「はい、お手柔らかに」
そうゴウランに答えて、タイムは剣で攻撃を仕掛ける。
ゴウランは背負っていた戦斧を手に持ち、正面からタイムに向かう。
ゴウランはその体格に似合わずそれなりに素早い。
タイムは攻撃を防御に切り替え、その一撃を受け流すことに集中する。
ゴウランの重い一撃を剣を使用し、受け流す。
受け流したものの、その衝撃は大きく、後方に吹き飛ばされる。
タイムは受け身でその衝撃を殺す。
「おい、お前さん、名前を何と言う?」
「タイムです」
タイムは正直に名前を答える。
「タイムか、では私の十八番を見せてやろう」
タイムはその十八番に警戒し、身構える。
その時、タイムを覚えのある衝撃が襲う。
タイムは予想外の攻撃に受け身が遅れ、地面に倒れる。
「どうだ? これが私の十八番だ。【二連撃】というスキルだ」
タイムはその言葉を聞きながら、立ち上がる。
そしてそのスキルを警戒して、その効果について考える。
【二連撃】という名前や続けて発動させないことから考え、与えた衝撃を一度だけ再現する、という効果だと結論付けた。
その結論は正しく、効果に間違いはない。
タイムはその結論に至るとゴウラン―――否、スキルという存在に対して羨む。
自分はそんなものを持っていないというのに、相手は使える。
その差という不公平。
タイムは自分もスキルが使えればどれだけいいかを考えた。
そう考え続けながらゴウランと攻防を繰り広げる。
基本的にタイムがゴウランの戦斧による重い一撃を回避し、時には隙を見極め攻撃を仕掛けた。
ただ、回避をするのは、ゴウランも同じなので、タイムが押され気味であった。
そんな攻防の最中だというのにタイムはスキルのことばかり考えていた。
その時だった。
タイムの願いに反応したかのように声が聞こえた。
女性の声だった。
もちろんタイムの周囲はおろか、この広場にその声の主らしき人物はいなかった。
その声はこう言った。
『願いを聞き届けました。あなたにこの子を与えましょう』
タイムに与えられたもの、名を【勇者】、固有能力である。
タイムはこの一連の出来事に少々混乱するが、すぐに落ち着かせる。
そしてこの事象で起こった結果について考える。
スキル【勇者】を獲得した。
以上である。
タイムは、これは幸い、とスキルを発動させた。
発動させた瞬間、ゴウランさんの動きがほんの少しだけ遅くなった。
『勇気の力』、それが発動させたスキルの機能―――技のようなもの―――の名だ。
その効果は単純、身体能力の強化である。
タイムがこのスキルを獲得したことにより、押されていた戦いに優位性を獲得する。
身体能力が強化されたことにより、回避率が上昇、さらに剣の速さと威力が増したのだ。
タイムは徐々に勝利へ近づいていく。
そして、ついにその剣がゴウランに届く、という場面で…………
「模擬戦、終了!」
ゴウランがそう宣言した。
「お前さん、合格だ」
タイムは、そう言われる。
そして押されるようにして受付の前まで戻された。
試験が終わってから受付に戻されるまでの流れはとてもスムーズで、タイムは勝敗が決したという事実が飲み込めず、不完全燃焼に終わった。
受付に戻ると、アイリスが待っていた。
「おぉー、終わった?」
「終わったらしい」
タイムは答える。
らしい、と言ったのは終わったという実感が少ないが故だ。
「結果は?」
「試験で戦った人には、合格だ、って言われた」
タイムは正直に言われたことを言う。
「それなら結果については、大丈夫かな」
アイリスが安堵する。
その反応から本当に合格と知って、タイムも続けて安堵すした。
◇
「こちらが、冒険者カードです」
そう言って受け付けの職員は、タイムに一枚のカードを渡す。
「このカードは?」
タイムはアイリスに聞く。
アイリスはタイムの貰ったカードと同じカードを取り出す。
「このカードは冒険者登録をした証だよ。これがないとギルドで依頼が受けられないから絶対に無くさないように気を付けてね」
そのことを聞いて、タイムのカードを持つ手が少し強まった。
「さて、冒険者登録も完了したことだし、早速依頼を受けようか!」
「依頼っていうのは、どんなものなんだ?」
タイムがアイリスに質問する。
「依頼は大まかに、魔物の討伐と素材の採取が主で、それらは依頼者がいるものもあるよ」
アイリスは説明を続けながら依頼が張り出されている掲示板の前まで移動する。
「よし、これがいいね」
アイリスはそう言って、掲示板に張られている数枚の紙の内、一枚を指差す。
タイムはその紙に書かれた内容を読む。
「怪鳥の素材入手。食用。解体すれば追加報酬あり」
「これにしよう」
「解った」
タイムはアイリスの意見に納得し、その依頼を受けることになった。
二人は、依頼を遂行するためにギルドをあとにした。




