28話 招待状と手紙
神聖国サンクトゥスで信仰されている宗教は、聖神を神として、祈り、感謝するというものだ。
大半の大陸に存在しているが、この世界の絶対的宗教でもない。
ただ、信者が最も多いだけで、他にも宗教はいくつも存在している。
そしてこの宗教には、神の教えを広めるために信者の代表として、皆から尊敬されている三人の神官がいる。
その内の一人がタイムたちの目の前に立っているハチスだ。
「とりあえず、三日後くらいには、招待できるはずです」
ハチスはそう説明する。
「そんなに早く」
日取りの早さにタイムは、驚いている。
「早く解呪しないと、何が起こるか解りませんからね」
にこやかな表情で伝える。
「ありがとうございます」
タイムはハチスに感謝を伝え、頭を下げる。
「いえいえ、これも神官の務めのようなものですよ」
ハチスは、ここで思い出す。
「細かい連絡は、冒険者ギルドを通しますが、そう言えば、皆さんのお名前は?」
ハチスが尋ねる。
「俺はタイムです。こっちはアイリスで、彼はタケ。そしてパキラです」
タイムが代表して答える。
「タイムですか………………なるほど」
ハチスは納得したように呟き、繰り返す。
「それでは皆さん。また後日、お会いしましょう」
ハチスはそう言って、四人の前から去って行った。
◆
「この剣って危険物だと思ってたけど、かなりヤバイ方の危険物なんだな………………」
タイムが剣を手に乗せて、眺める。
呪剣は、普通の剣と変わらない見た目で存在している。
「セピアさんが抑えなかったら、敵も味方もない無差別兵器みたいな物ですし………………」
タケが言う。
「それよりも何かの拍子に暴走する可能性があるって方がヤバイでしょ」
アイリスが言う。
「使うのは、控えた方がいいかな………………」
タイムが悩む。
この剣は、タイムの一番の武器だ。
「それじゃあ、閃く焔を使うとか!」
タケが呪剣の代わりを提案する。
「いやいや、手放せないから他の武器を使ってないんでしょ?」
「………………そうでした」
タケが思い出す。
アイリスの言う通り、この剣を所持している限り、他の武器は扱えなくなっている。
持つ程度なら問題ないが、使おうとした瞬間、腕の痺れや激痛に襲われる。
「魔法なら使えるし、それでどうにかしよう」
タイムが結論のように言う。
そして練習がてら、手のひらに影でつくった刃を出現させる。
「アイリス。魔法を使う上で大事なこととか、コツって何かある?」
タイムが尋ねる。
「発動できればほぼ無いって言ってもいいけど、強いて言えば、面白さと気合じゃない?」
アイリスが答える。
あまり参考にならない、とタイムは思った。
つまりほぼ独学で技術を磨かないといけない。
発想、応用、仮定が肝となる。
そもそも影魔法の技術は、盗んだものなので、一般的にはズルをしているのだ。
タイムは、手の平に出した影の刃を消した。
◆
それから次の日、四人は地下水道にて魔物の調査を続けた。
驚くことに何匹狩ったとしても日をまたげば、数を増やしている。
それ以外に、おかしな所は発見できなかった。
タイムは応用力を発揮してラットを狩る。
まず、影の刃を影から分離して、飛ばすことを行った。
これは容易に実現した。
次に離れた場所に影魔法を行使し、遠隔で攻撃すること。
これはそう簡単なことではなく、タイムは苦戦した。
そして調整の結果、それは可能になった。
ただし、発動に時間がかかり、魔力の消費が大きい。
まず戦闘で役立てるのは、難しい。
そしてタイムはその他のアイデアを試行するが、どれも形にならなかった。
その間、呪剣は静かに腰へ携帯されている。
タイムが歩くたび、金属の衝突音が鳴る。
それでも呪いは、かかっている。
狂人の霊とそれを封じる鎖。
狂気と良心の呪い。
セピア以外の誰も気が付いていない。
呪いに意思があるなんて夢にも考えないのだ。
◆
三日後、ギルドから招待状が渡された。
教会からの正式な物だ。
招待状は二枚に分かれている。
装飾の書かれた物と普通の紙に書かれた物だ。
タイムは、まず装飾の施された招待状を読む。
冒険者一行、タイム、アイリス、タケ、パキラの以上四名を三神官ハチスの名の下に教会へ招待し、神聖の間への入室を認める。
と記されていた。
タイムは、次にもう一枚の紙に目を向けた。
皆さん。いかがお過ごしでしょうか? 少し待たせてしまいましたね。急いで手続きをすませましたが、少々手こずってしまいました。神聖の間への案内役を任せることのできる者が極めて少なかったのです。ですが、安心してください。厳正に選んだ結果、腕のいい聖騎士が引き受けてくれました。彼女ならば、何も心配することはありません。日時ですが、この招待状を受け取った翌日の夕方ですので、遅れぬようお気を付けてください。私は生憎、所用があり、同行はできません。とても残念ですが、無事に剣の呪縛から逃れられることを願っています。三神官ハチスより。
タイムは手紙を読み終えると手紙をしまった。
そしてこの日の調査を開始した。
タイムは気にしていなかった――――――と言うより、意識の外だったが、手紙には魔法で書いた文字を消すという修正の加えられた痕があった。
魔法についての知識が浅いタイムでは、気が付けず当然だった。
◆
アイリスは、招待状の届いた夜、次の日のことを占っていた。
そして、その結果に従い、準備をする。
アイリスの占いは、未来が解るわけではない。
おおよそを知ることができるにすぎない。
だからこれは、必要にならない可能性もある。
とても重要な仕掛けになる可能性もある。
「面倒だなぁ~」
準備は、アイリス一人で行う。
同室のパキラは、すでに熟睡していて、別室の二人も同様だろう。
たとえ起きていたとしても協力は望むことができないが………………
アイリスは、サンクトゥスの道に仕掛ける。
占い結果に従い、位置も決定する。
役立つかは、運試しなのだ。




