27話 教会
四人は、冒険者ギルドへ向かう。
それから昨日と同じように地下水道へ潜る。
そこで昨日と同じように魔物を狩る。
原因の調査に進展は、この日もない。
おかしな点と言えば、昨日あれだけ狩ったラットが一晩で数を戻しているどころか増えていることくらいだ。
そして、正午を回ると調査を止める。
食事の意味もあるが、この日はもう一つ理由がある。
「手掛かりあるかなぁ~」
タイムは食事の食器を前に呟く。
「あるといいですね」
「あるといいな」
「あるといいね」
三人は、タイムの呟きを励ますように返す。
タイムたちの言う手掛かりとは、何の手掛かりか?
それはタイムにとって重要であろう物だ。
何故断定できないのかというと、それは失ってしまった記憶の手掛かりだからだ。
それを求める場所は、教会本部。
この情報は、ギルドの職員から聞いた。
「教会であれば、病気の情報もあり、記憶喪失の実例の記録があるかもしれない」
その情報により、尋ねることになったのだ。
記憶喪失は、実例の極めて少ない症状だ。
病原菌が原因なのか、魔法などに関係があるのか、この世界ではまだ解明されていない。
もし、そのこと自体の情報がなくとも、人の大勢出入りする教会ならば、自身について何らかの情報が得られるかもしれない。
タイムたちは、食事を終えると希望を抱いて、教会へ向かった。
◆
教会本部は、この国で最も巨大であり、最も目立ち、最も豪勢な建造物。
何処にいても、山の方を見れば、目に入る。
その建物の内部は、見かけ通り広い。
そして奥行きは、見かけ以上にある。
山に隠れている内部がアリの巣のように続いているのだ。
タイム、タケ、パキラは周囲をキョロキョロと見回す。
物珍しさゆえだ。
ある程度、見物した後、近くにいた神父に話しかける。
そして用件を伝える。
記憶喪失の対処方法、また過去の事例の記録などがないか、と。
「解りました。探してみましょう」
神父は、文献を探すために行ってしまった。
少し待つと戻って来て結果を伝える。
「もうしわけありませんが、記憶喪失に関連する書物はありませんでした」
「そうですか………………」
「まだ、古い書物の山を探していないので、可能性は残っていますが………………」
とても低い、とタイムに告げる。
「ありがとうございます。もし何か解ったら、ギルドから俺に伝えていただけますか?」
「はい。それでは神の御加護があらんことを」
神父にそう伝え、四人は去ろうとした。
教会本部の入り口を潜ると広がる空間は広く、多くの人が行き交っている。
そのほとんどが教会に関係のある聖職者の方々だ。
少し混雑していて、衝突を避けるために注意を払わないといけない。
タイムたちは、一人の老人とすれ違う。
背筋の伸びて少し若く見え、周りの神父よりも少し煌びやかな衣服を纏っている。
タイムたちは、そんなことに注目せず、通り過ぎようとする。
「そこの君、待ってください」
そんなタイムを老人は、振り返って呼び停めた。
「?………………何ですか?」
タイムが聞くが、老人はしばらく黙ったままタイムを眺めている。
「………………あの、何でしょうか?」
次は少し声を大きくして、タイムが聞く。
そして老人は、ようやく耳に入ったようにハッとする。
「いえ、すみません。少し、その剣が気になりまして………………」
そう言って、タイムの腰にかける剣を指す。
「あ~、なるほど」
タイムは納得する。
タイムの装備する剣は、呪剣「悪魂」という本来ならば危険な武器だ。
セピアが呪いを弱めなければ、周囲に害を撒き散らしている。
「その剣――――――呪剣でしょうか、強力な呪いがかけられていますね。それも二つ。一方はもう一方を封じこめるためのものでしょうか、上手く呪っていますね」
老人は、興味深そうにタイムの呪剣を分析する。
「ですが、悪い方の呪いが強すぎます。このままでは、何かの拍子に暴走するかもしれませんね」
老人は突然、険しい顔でそんなことを告げた。
「え? そんな不味いですか?」
「はい、とても不味いですね」
タイムの問にも淡々と答える。
「じゃあ、どうすれば?」
タイムが対処方法を聞く。
「対処法ですと、解呪や物理的な破壊がメジャーですが、ここまで強力だと並みのシャーマンでは無理でしょうし、暴走しそうですし、破壊も辞めておいた方がいいでしょう」
「えぇ、でしょうね」
タイムも同意する。
「この国の結界の内部でこの呪いを維持できているとなると、普通の神聖魔法でも効果は薄いでしょうね」
老人が言う。
彼の言っているのは、この町全体に張られている神聖結界のことだろう。
「やっぱり完全な解呪はできないんですか………………」
落ち込むタイムに追い打ちをかけるように話を続ける。
「それにこのレベルの呪いは無視できませんので、追放になるでしょう」
「それは困りますよ!」
追放というワードを聞いて、黙ってタイムの後ろから聞いていたタケが声を上げた。
「落ち着いてください」
老人は、タケを制する。
「私もこんな危険な物を世に投げるなんてことは、したくありません。なので………………」
老人は、四人に向けて言う。
「皆さんを神聖の間へ招待しましょう!」
「神聖の間………………」
四人はそれを聞いて、首を傾ける。
「それは何ですか?」
「………………ご存知ない?」
「存じません」
「………………そうですか」
老人は調子が悪そうに言う。
「神聖の間は、簡単に言うと入るだけで病や呪いなどが浄化される部屋です。この教会の奥にあります」
「そんな部屋があるんですか?」
タケが疑う。
そんな場所があれば、記憶喪失のタイムも案内されるはずだからだ。
万が一、呪いなどの原因が考えられるのに、案内されないのはおかしい。
「ありますよ。特別な場所で、関係者でも入るのは難しく、普通はほとんど入ることはできませんが………………」
四人は、ほぼ同時に「へぇ」と声を漏らす。
「それじゃあ、お爺さんは、どうしてそんな凄く珍しい場所に招待できるんですか?」
アイリスが質問する。
「あぁ、それは私がこの教会で最も偉い三人の内の一人だからですね」
老人は、質問に答えた。
「え?」
皆はその言葉に困惑する。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね」
老人は、思い出したように自己紹介をする。
「私の名前は、ハチス。三神官をやっています」
老人は、とんでもない情報を何でもないように言った。




