25話 獣人の村
「もしやとは、正直考えたよね」
「あぁ、パキラならだろうなって」
「薄々、察してましたよね」
タイム、アイリス、タケが口々に言う。
パキラは反省しているように黙っている。
「始めは、思い出と照らし合わせてたんだけど、途中から全く違うことに気付いて、ごめん」
申し訳なさそうに謝る。
責める者がいないのは、彼女にとって幸いだっただろう。
「まずは、位置が解らないといけませんね。パキラさんの故郷どころか、目的の神聖国にもたどり着けませんし………………」
「せめて方角を把握しないと」
タケとタイムが行き方を考える。
「方角なら多分あっちが北だよ」
アイリスがある方向を指差す。
「………………よく解るな」
タイムが不思議そうに言う。
「太陽の位置でおおよそ、予想がつくんだよ。もっと正確にするなら夜まで待たないといけないけどね」
方角が解れば、問題は無い。
北に向かえば、最低でも神聖国へ辿り着ける。
「問題はパキラの故郷だね」
「ですよね………………」
「だよな………………」
皆は、最後の課題を考える。
三人は、パキラの故郷への興味が強すぎて、パキラの村へ寄らないという選択しを端から除外している。
「パキラ、思い出せないのか?」
再度、パキラに聞く。
「いや~、どうにも思い出せないんだよ。思い出の場所を思い出しても、そこがどこにあるか分かんないんだよ」
パキラは首を傾けながら必死に思い出そうとする。
それもただ唸ることしかできていない。
皆で打開策を考える。
四人全員がパキラと同じような恰好になった。
その唸り声を切り裂くように一つの咆哮が轟く。
全員の視線は、その主に向けられる。
毛深い体表、顔から飛び出た口と鼻、ピンと立った耳、そして最も目立つのは、口から伸びる牙だ。
鋭く立派な牙を持つ魔物、牙狼だ。
討伐難易度は、Bランクでタイムたちには余裕のある魔物だ。
とは言っても、何もしなければ、普通に襲われるので、武器を構える。
ファングが襲いかかろうとする。
だが、それは実行できなかった。
一本の矢がファングウルフの頭を貫いた。
皆が地面に転がった死骸を見る。
まだ、手には武器を持っていて、ファングウルフが死んだことで、その勢いのやり場に困っている。
「おい! そこの君たち、大丈夫か?」
その声で皆、我に返る。
そして声の方向を見る。
少し離れた場所で弓を持った人影が見え、近づいてくることがわかる。
「バーベナ!」
パキラが声を喜ばしいような上げる。
「その声は、パキラか!」
パキラにバーベナと呼ばれたその人は、タイムたちの目の前に姿を現した。
動物のような耳が頭にあり、尾も付いている。
パキラの話通り獣人だった。
◆
「なるほど、パキラの仲間………………」
バーベナは、皆から説明を受ける。
「家のパキラがご迷惑をかけていなければいいのですが………………」
バーベナは気の弱そうに言う。
タイムたちは、想像との違いに驚いている。
「バーベナさんは、パキラのお父さんなんですか?」
アイリスが質問する。
「えぇ、血は繋がっていませんが、親です」
バーベナはその問に答える。
「あれは十六年前だったかな、いつも通り森で狩りをしていたら、泣き声が聞こえて来て。誰も居なかったし、魔物に襲われたら大変だと思って、拾ったんですよ。それから二年くらいは、本当の親を探したけど、結局見つからなかったんだよなぁ」
思い出すように説明する。
「赤ん坊を森の中に………………捨てられたのかな?」
「魔物とか、山賊から逃がしたのかもしれませんよ」
「何にせよ、何かしらの事情があったんだろうな」
三人は、そんな話をする。
「そう言えば、バーベナ。イチゴやナンテンとよく遊んだ開けた場所って何処だっけ? それが思い出せなくて迷ったんだよ」
パキラが聞く。
「よく遊んだって、あそこは、少なくともここから村の反対側にあるんだから、あるわけないだろう」
バーベナが呆れたように言う。
「でも、子供の頃のことならパキラが忘れても不思議ではないんじゃ?」
アイリスがパキラのフォローを入れる。
「いや、パキラは村を出る当日もその場所で棍棒を振っていた」
そのフォローもバーベナの情報により、撃沈した。
「そんな細かいことは置いておいて、皆に説明しないとな」
パキラが話題を切り替える。
「あたしの育った村について」
遠くの木々の隙間から明らかな人工物が覗く。
「あたしの育った村は、あたし以外獣人しか住んでいない。珍しい獣人の村だ」
近づけば、微かに生活音らしき音も聞こえてくる。
「その村であたしは、バーベナや皆と一緒に過ごして、育ってきた」
そして木々を抜ける。
「ようこそ、獣人の村へ!」
パキラが歓迎するように言った。
そして、三人の目に飛び込んできたのは――――――
「小屋?」
一軒の小屋だった。
丸太を重ねたような小屋だ。
皆は、パキラを見る。
『これの何処が村?』
一同は同じことを考える。
「………………? 何だ。この小屋?」
パキラも困惑している。
そこへ言いにくそうにバーベナが告げる。
「………………村は、あともう少し先だ。この小屋は、仕事用の狩猟小屋だ」
パキラは、それを聞いて、気を取り直し、村への案内を始めた。
◆
獣人の村は、特別な点もない。普通の村だった。
あえて挙げれば、住民が全員獣人であることくらい。
それも全く気にならない程度の要素だ。
一行は、パキラとバーベナの案内で実家に向かった。
「初めまして、パキラの母のサルビアです」
パキラの実家に着くと女性の獣人が言った。
パキラの母親に皆は、自己紹介する。
「パキラがこんな立派な方々と冒険できるなんて、泣けてきます」
サルビアは、涙を拭う。
「嬉しさ六割、心配四割という感じで、ご迷惑をかけていなければいいのですが………………」
「安心してください。もしもの時はどうにかしますので、娘さんのことは我々に任せてください」
タイムが気持ちを代弁する。
横にいる者も頷き、同調する。
パキラは、誇らしげに腕を組んでいる。
「そうえば、サルビア。ナンテンとイチゴは?」
パキラが思い出したように言う。
「あの子たち? ナンテンは木こりに行って、イチゴは友達に会いに行ってるわよ」
ナンテンとイチゴと言うのは、パキラの言っていた兄妹のことだろう。
「二人とも元気か?」
「二人とも変わらず元気よ」
「そっかー」
パキラは嬉しそうに言う。
「そう言えば、皆さん。今日は泊まっていかれるんでしたね。次はどこに行こうと?」
バーベナが言う。
道中に話したことだろう。
「明日には出発して、サンクトゥスへ向かう予定です」
タケが答える。
「サンクトゥスならここから近いですね。あそこはいい国ですよ」
「行ったことがあるんですか?」
「いいえ、近くまでならありますが、国の中へは………………特に用もありませんから」
バーベナは、そう答える。
「では、何故いい国なんですか? 行ったこともないのに?」
タケが疑問を問う。
「………………実は月に一度ほどでしょうか、サンクトゥスからわざわざこの村まで来て、貴重な薬なんかを置いて行く方がいまして、どなたか存知ませんが、親切な方だと感謝しているんですよ」
「そんな人が………………」
タケは良い人もいるものだと考える。
「そんな人がいたのか!?」
パキラは驚愕の真実を知った。
「その人がくるのは、大抵夜遅くだからな。お前がグッスリ寝ている時だ」
「そうなんだ………………」
「お前がよく怪我をしていたが、あの消毒液もその人が置いていった物だぞ」
「そうなの!?」
パキラは、その真実に口を開け、驚いている。
「母さん、ただいま~」
玄関から声がした。
それと同時にパキラは、素早く動き、帰って来た者の前に出た。
「ナンテン! 久しぶりだな!」
「え!? パキラ!? 帰ってたのか!?」
「仲間と一緒に寄ったんだ!」
それを聞いて、ナンテンは家の中に入り、タイムたちの目の前に立った。
「始めまして、パキラの兄のナンテンです。パキラがお世話になっています」
そう言って礼儀正しく挨拶をする。
「本当に家のパキラが問題を起こした時は、よろしくお願いします」
「「「任せてください!」」」
三人は同時に返答した。
「母さん! こんなにいい方々がパキラの仲間なんて………………嬉しすぎて泣けてくる」
どうやら、考えることは家族で一緒らしい。
それからしばらくして、パキラの妹であるイチゴが帰ってきて、夕食の時間になった。
「パキラが小さい頃は、よく走って追っかけっこをしていたんだ」
ナンテンが語る。
「まぁ、大体追いつけなかったよ。パキラは子供の頃から大人並みに動けていたから」
「昔からだったんですか………………」
頭に普段の魔物とじゃれ合うパキラの姿が浮かぶ。
「お兄さんたち。ここで言う大人は、獣人族の大人のことだよ」
イチゴがタイムたちに伝える。
獣人の大人が基準ということは、人間的には大人を軽く超えているということだ。
「皆さんにお聞きしますが、パキラは普段、どういった様子でしょうか?」
サルビアが聞く。
タイムたちは、顔を見合わせる。
「普段は、依頼で魔物を狩ったりしていますよ。強い戦士ですからとても助けられていますよ」
「ふふふ、そうだろ、そうだろう!」
パキラは嬉しそうだ。
「そうですか………………強いでしょうね。パキラは」
バーベナが呟く。
「昔は互角だったのに、今や競うことすらままならい。成長を感じる」
その言葉は寂しそうに聞こえるが、目は誇らしくパキラを見ている。
「皆さん。改めて、パキラをよろしくお願いします」
バーベナは頭を下げて言った。
◆
翌日の朝。
四人は、村から出発しようとしていた。
その姿をパキラの家族は、手を振って見送る。
「じゃあなー。皆、またいつか帰るから、元気でなー!」
パキラは大きく手を振って、四人で村を出発した。




