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24話 里帰り

 五人から四人へ減った彼らは、セピアのことを憶えておくことを心に決めた。

 そして次の日から人数が減ったというのに魔物の撃破数は格段に増加した。

 それは四人のモチベーションの問題だ。

 寂しい別れだったが、それが彼らを奮い立たせた。


 そして彼らの功績は、いつまでも日の当たらない木陰にあるわけではない。


「こちらが新たな冒険者カードです。ご確認ください」


 ギルド職員が四人にカードを手渡す。

 そのカードには、大きくAの文字が刻まれている。

 彼らの功績は、ランクアップという形で認められた。

 と言っても、呪木を倒した件は、証拠もないので功績にはならなかった。

 認められたのは、スタンピードでの魔物たちを討伐したこと、そしてその後の特別依頼の成果だ。


「Aランク………………! まさか、僕がここまでいけたとは!」


 タケは感動で涙を流す。

 つい数日前にも泣いたばかりだというのに、そこまで嬉しいことなのだろうか? とタイムとアイリスは考える。

 パキラは、そのカードを両手で持ち、掲げ、眺めている。

 全員はカードに不備がないか確認し、冒険者ギルドを後にした。

 建物から出れば、スタンピード以前の町並みが戻っている。

 大きい損害も無かったので、復興自体は簡単だったのだ。


「Aランクか、これで私たちも一人前の中でも結構上の人になれたってことだね」


 アイリスが言う。


「それはそうですよ! ギルドが認定する冒険者ランクでは、最高位ですよ!」


 タケが言う。


「凄いことなのは、確かだけど………………最高位は言い過ぎだよ。実際、Aランク以上の冒険者ランクは存在しているし」


「Sランクのことですか? あれは、ほぼ取得不可能で存在しているだけしょう?」


 タケは、そう反論する。


「そんな事ないよ。実際、魔物以外にSランクを付けられた冒険者は少なからずいるからね」


 その言葉にタケは口ごもる。


「その人って人間ですか?」


 何とか言葉をひねり出す。


「一応人間らしいよ。もっとも、化け物級の強さを持っているらしいけどね」


 そんな大して意味のないやり取りをしたりする。

 そんな彼らは、Aランクにランクアップする際に特別依頼を任せられた。

 その内容は、まず指定された場所へ向かわなくてはならない。

 その場所は、集落や村や町程度の場所ではない。

 国家だ。

 彼らは国家へ向かうことを命じられている。

 その国家というのは、この町から遥か北の山脈付近に存在する。

 名を神聖国「サンクトゥス」。

 国家規模で神を信仰する国だ。


「それで準備は万端?」


 アイリスがタケに問う。


「はい、食料も道具も十分に買えました。これなら明日にでも出発できます」


 それは今日一日タケが歩き周った結果だった。

 準備の八割をタケが請け負い、残り二割を他の仲間が行った。

 タケの負担が大きいが、二割も任せられるようになったのは、皆の成長だ。


「それじゃあ、明日に備えて休もうか」


 もう夕暮れ時だ。

 皆は宿に戻り、眠りに落ちた。


 ◆


 タイムはこの日、夢を見た。

 実際には、彼の忘れてしまった記憶だが、それを知る術はない。

 その夢はいつもよりモヤがかかっていた。

 濃い霧のようにほとんどの光景を認識できない。

 そこへ誰かが来た。

 その人物は不思議とそこに居ると感じ取れた。


「神ほど嫌いなものはありません」


 その人物はタイムに向かってそう言った。


「そうか、でもいつか考えが変わるかもしれないぞ?」


 タイムが言う。


「絶対にありません。もし神が目の前に現れたら、文句を言いながら投げ捨ててやりますよ」


 その人物は、そう言い切った。

 それから場面が移った。

 何処かの建物の中で豪華な装飾がされている。

 そこでタイムは先ほどの人物に向き合っている。


「■■■、お前はきっと誰かの助けになるはずだ。だって――――――」


 その後の言葉は、聞こえない。

 口が開いたり閉じたりしている。


「そうですか、あなたが言うのならば、そうなるかもしれませんね」


 男性はそう言った。

 視点が遠ざかる。

 夢は、そこで終わった。


 タイムは目を覚ます。

 まだ、暗い。


『夜か………………』


 タイムは目を閉じる。

 また、眠りに入った。


 ◆


「タイムさん! 起きてください!」


 タイムの耳にその声が飛び込んでくる。


「………………ん?」


 タイムは起きる。

 窓から射した光が目を直接焼く。


「うっ………………」


 タイムは目を閉じる。

 そしてそまま眠――――――


「二度寝しないでください!」


 タケに阻止され、叩き起こされた。


 支度をし、いつも通りの朝を迎える。

 朝食を食べた後から変化がある。


「いざ、神聖国サンクトゥスへ!」


 アイリスが拳の握り掲げる。


「「おー!」」


 パキラとタイムは真似をする。

 一行は、出発した。


「そう言えば、思い出したんだけど」


 パキラは出発して数歩歩いたところでふと思い出す。


「どうしたんです?」


「大したことじゃないけど、北に故郷があるんだよ。だから一回寄ってくれないか?」


「どうします?」


 タケがタイムとアイリスに判断を仰ぐ。


「まぁ、いいんじゃないか?」


「別にいいんじゃない?」


 二人共に反対はなし。

 パキラの故郷へ寄り道することが決定した。


「パキラの故郷ってどんな所?」


 アイリスが聞く。


「私の育った村は、獣人の村でな。赤ん坊のころに拾ってもらったんだ」


「獣人の村って、珍しいですね」


 タケが言う。

 彼らも獣人の全く見かけなかった訳ではない。

 冒険者としてギルドに出入りする獣人の冒険者を数度見かけている。

 だが、その回数は決して多いわけではない。


 獣人族は高い身体能力を持っている種族だ。

 だが、人間に比べてその数が少ない。

 その村や集落なども目立たない。

 希少種族なのだ。


「皆、元気かなぁ~」


 パキラが懐かしむ。


「まぁ、旅に出てから少ししか経ってないけど」


 パキラは自分の冗談に微笑む。


「あのパキラさんを育てた獣人の親ですか………………」


「一体、どれだけ力が強い人なんだろう………………」


 タケとアイリスは遠い目で想像する。

 筋骨隆々の大男、さらに尻尾と耳の付いた姿。


『『気になる』』


 二人の興味は持っていかれた。


 四人の意識はしばらく、ありふれた話題を楽しんでいた。

 だが、その気の緩みは、すぐに引き締められる。

 彼らの行く手に数匹の魔物たちが立ちふさがった。

 鱗を持った爬虫類のような魔物――――――蜥蜴(リザード)だ。

 和気あいあいとしていた雰囲気が一瞬で殺伐とした空気へと変貌する。

 皆が臨戦態勢になる。

 魔物が一斉に襲いかかる。

 タイムは『勇気の形』のみで対応する。

 魔力を温存するためだ。

 だが、その身体強化のみでも相当の強さだ。

 そしてタイムの斬撃から奇跡的に逃れた個体は、パキラが豪快に両断する。

 全く問題ないかに思われた。


 皆の意識の外。彼らの背後から近づく一体のリザード。

 パーティの内、戦闘が可能な三名は、前方の大群に気を取られている。

 そしてその最後尾にいるのは、戦闘ができないタケだ。

 リザードが背後から襲い掛かる。


「え?」


 意外にも最初に反応したのは、襲われかけているタケだった。

 リザードがタケへ跳びかかる。

 タケは反射的に腕を振るう。

 それは、魔物を退けるわけでもなく、空振りする。

 リザードとの距離があと少しというところで火球が命中する。


「ふー、間に合った~」 


 アイリスが寸でのところで気が付き、火球を放ったのだ。


「後ろからも来てたのか………………」


 タイムも遅れて気が付く。


「ありがとうございます。アイリスさん」


 タケがアイリスに感謝する。


『………………ん?』


 タケが振った腕に違和感を覚える。

 腕は空振りしたまま動かしていない。

 握っていた手を開く。

 手には、小さく白い石が握られていた。


『何だ、ただの石か………………』


 タケは石を地面に落とした。


 ◆


 移動すること三日。

 何十体もの魔物と遭遇し、蟲系のものを除いて狩り尽くした。

 解体した素材も大量だ。

 特に魔石が多い。

 冒険者としては、満足気だ。


「もうそろそろ着くはずだ」


 パキラが言う。


「あと少しでパキラの故郷か~」


 アイリスやタケが想像を膨らませる。


「あぁ、あたしの道案内が正しければな」


 パキラは自信ありげに言う。

 その自信と裏腹に三名は不安な表情に変わる。


「道に迷う可能性、考えてなかったですね」


 タケが言う。

 村までの案内は、全てパキラが行っている。

 『故郷だから大丈夫か』と三人は考えていたが、『故郷だが大丈夫か?』という思考に変わっている。

 パキラならいくら故郷でも信用ならないのだ。


「パキラ、本当にこの道で合ってるんだよな?」


 タイムが問う。


「………………………………大丈夫!」


 パキラは振り返って、表情を変えず二秒ほど硬直した後に言った。

 皆の不安は深まるばかりである。


「確か、この先の少し開けた場所で、よくイチゴやナンテンと遊んだんだ」


 パキラは懐かしそうに話す。


「その人達は誰? 友達?」


 アイリスが登場した人名について聞く。


「う~ん、友達と言うか。兄弟みたいな感じだ」


「へ~」


 その説明を受け、三名は想像する。

 パキラと共に遊べる者など、どんな英傑なのだろうと。

 確かな事は、ただ者ではないということだけだ。

 一行は、森を進む。

 だが、一向にそれらしい物は見えてこない。


「皆、一つ思い出したことがあるんだ」


 パキラが言う。


「何を?」


 皆が耳を貸す。


「道を間違えたかもしれない」


 少し申し訳なさそうに告白した。

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