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勇者の旅  作者: カム十
19/22

19話 シャーマン

 タイムたちが依頼を出してから数日後、その間タイムたちはいつものように魔物を討伐していた。

 そんなある日である。


「タイムさん! シャーマンが見つかったそうですよ!」


 タケがギルドから知らされた情報を伝える。

 それは、タイムへの朗報である。


「それでその人は?」


 タイムが聞く。


「明日、会えるそうです」


 その言葉でタイムの気持ちが少し軽くなる。

 これで手放すことが物理的にできない呪いの剣からおさらばできるかもしれないのだ。

 タイムがここ数日、その剣にどれだけ苦しめられたことか………………

 魔物との戦闘でも、タイムが反射的に手をかけ、寝る際には、邪魔でしかたがない。

 しかも誤って抜けば瘴気で魔物も味方も命の危機。

 タイムたちの死活問題である。

 解決の糸口が見えただけでもいい知らせである。


 タイムは、少し胸を躍らせながら魔物の討伐へ向かう。

 この日は、いつもと違い、特定の個体の依頼を受けた。

 その依頼は、最近確認された樹木(ウド)という木の魔物の依頼だ。

 推奨ランクは、Bランクで適正ランクだ。

 タイムたち一行は、森を進み、目的地へ向かう。

 目的地の周辺でタイムたちは、それを発見した。

 ウドは、根の一部を地上へ出し、うねらせ、タイムたちへ向かわせた。

 パキラが魔剣を振るい、それらを焼き切る。


「アイリス。頼んだ」


「了解」


 アイリスは、そう返事をすると、火球をウドへ向けて撃つ。

 ウドは、呆気なく燃え、灰になった。

 簡単に勝負は終わった。

 討伐は完了である。

 だが、依頼はまだ終わっていない。

 依頼には、討伐と調査も含まれている。


「攻撃手段は、根を操って攻撃。今回は火魔法での討伐だったが、おそらく剣での討伐も可能。だが、容易さでは火魔法が断然簡単………………」


 タケが報告用にメモをとる。

 こういう仕事は、決まってタケが行う。

 自然と完成した役割分担である。

 その間、タイムたちは、周囲に別の個体がいないかの警戒をする。

 もし、発見したらその場で討伐、又は逃亡して報告である。


『別に問題はなさそうだな!』


 パキラは、周囲を見ながら考える。

 だが、その考えはすぐに消えた。

 新たに2体のウドを発見したからだ。

 パキラは、まず三人に伝えようとしたが、その行動もすぐに止まる。

 ウドが人間を襲っている。

 襲われているのは、アイリスと歳は、そう変わらない少女だ。

 次の瞬間には、魔剣がウドを切っていた。

 断面は、少し黒く焦げている。

 だが、ウドは植物。これぐらいでは、死なない。

 根をパキラへ向けた時、その時には、全て焼き切られていた。

 パキラは、強かった。

 魔剣との相性もあり、ウドなど脅威にはなりえない。

 パキラは、助けた少女に向き直る。


「大丈夫か?」


 そう言って手を差し伸べる。


「ありがとう」


 少女は、そう言って手をとる。

 少女は、服に付いた砂埃を手で掃う。


「怪我とかは、ないか?」


 パキラが心配する。


「大丈夫です。本当にありがとう」


 そう言って、少女は帰って行った。

 パキラは、人助けによりいい気分になった。


 ◆


「なるほど、以上ですか?」


 タケがメモを記しながらパキラに聞く。

 今は、事の顛末をパキラから聴取している。

 それが丁度終わった所だ。


「以上だ。他には何もない」


 パキラは、キッパリと言い切る。


「それならいいですが………………二体も近くに居たんですか」


 タケが不安そうに言う。

 今回の大量発生は、全貌が未知数である。

 だが、ウドの目撃が多いだけで密集はしていないと聞かされていたのだ。

 それがほぼ同時刻、同箇所で計3体確認された。

 冒険者ギルドの悩みの種だろう。


「じゃあ、タケ報告は任せた!」


 タイムがタケの肩に手を置き、任せる。


「それじゃあ、報告してきます」


 タケは、メモを持ってギルドへ向かった。

 タイムたちはと言うと、特にやることはない。

 各々で暇つぶしをする。


 タイムは、スキルや魔法の練習をした。

 【影移動】や影魔法だ。

 暇さえあれば、練習しているので、獲得当初からかなりの技量へと成長している。


 アイリスは、占い関係だ。

 知識が無ければ、何一つとして情報は得られない。

 それを行った。


 パキラは、昼寝をした。

 それはもう、いつも通りに、まるでもう夜になったかのようにグッスリと寝た。


 しばらくするとタケが戻って来る。


「おかえり。タケ」


「はい」


 タケはやつれた顔で言う。

 数時間しか経っていないというのに、別人のようだ。


「何かあったのか?」


 タイムが聞いた。


 タケは説明した。

 ギルドでの報告は、やはり難航したらしく。

 専門外の議論に巻き込まれ、精神を摩耗したそうだ。

 それから特別依頼も任されたそうだ。

 内容は、ウドの討伐調査と、今日やったことに変わりないが、それが義務化し、期限も付けられたそうだ。


「命の危機以外でも、こんな地獄あったとは」


 タケがそう漏らした。


「タケ、そんなに気を落とすな」


 タイムはタケを励ます。


「それに明日には、俺も剣を使えるようになるかもしれないだろ? そしたら今日よりずっと楽になるはずだ」


 タイムは、明日を楽しみに待った。


 ◆


「それでは、呼んで来ますので、ここでお待ちください」


 ギルド職員がギルドの一室で言う。

 その場には、タイム、アイリス、タケ、パキラの四人がいる。

 呪いを解除できるシャーマンに会うためだ。

 ギルドの職員が退室するとタイムが呟く。


「やっとだ。やっと、この呪いから解放される」


 それは呪剣への不満だ。

 この呪いならば、妥当だ。

 この呪いのせいでどれだけ苦労を強いられたことか………………

 タイムは、思い返せばそれらの苦労は、日常生活に多少の支障をきたす程度のものばかりだ。


 部屋の扉が開く。

 そして職員の人が戻って来る。


「お待たせしました。こちらが依頼を受けたシャーマンの方です」


 そう言うと同時にその人が入室する。

 薄茶色の髪をした人物が扉を潜り入室する。

 年齢は、アイリスと同じ位で少女と言っても間違いはないだろう。

 その顔を見て、驚く人物が一人いる。


「お前! 昨日、ウドから助けた………………」


 パキラが声を上げる。


「昨日の方! その時はありがとうございます」


 お互い奇跡の再会のような反応になる。

 彼女らにそこまでの関係はない。


「そう言えば、名前を聞いてなかったな」


「そうでしったけ? それでは名乗らせていただきます」


 そう言って杖を構え、ポーズをとる。


「私の名前は、セピア。シャーマンをやっています」


 恰好をつけて言う。

 実際には、微塵も恰好よくなっていない。

 どちらかと言えば、微笑ましい。


「………………あれ?」


 反応が予想と違ったのか、セピアは、首を傾げた。


「あ~、はい。解りました。自己紹介ありがとうございます」


「うん、その………………ね。セピアね」


「わざわざポーズまでとってくれて………………な?」


 タイムたちは、フォローのために言葉を濁す。


「………………何だ? その自己紹介、それも呪術か?」


 そんな中、パキラだけは、一切空気を読まず、単刀直入に感想を述べた。

 それを聞いたセピアは、と言うと………………


「そんなに変かな………………結構良かったと思ったんだけど。これ」


 落ち込んでしまった。

 表情は、少し暗くなり、皮肉なことに少しばかりシャーマンに似合う雰囲気が出ている。

 そんなセピアを、パキラを除いた三名で元気付けた。

 それからなんやかんやあり、セピアの落ち込みは、多少マシになった。


「話しを戻しますが、今回解呪する呪いというのは、その剣ですか?」


 セピアが聞く。

 まだ、詳細を説明していなかったタイムは、驚いた。


「よく解りましたね」


「そりゃあ、そんな呪念が漏れ出てれば、解りますよ。それに………………」


 その最後の言葉だけ声量を小さくする。


「明らかなものが憑いてますし………………」


「最後に何かいいましたか?」


「いえ何も、明らかに解りやすいというだけです」


 セピアは、自分に見えたそれを隠した。

 伝えないほうがいいと判断したためだ。


「それを解呪すれば、いいんですね?」


 セピアが確認する。


「はい。お願いします」


 タイムは願った。

 解呪の成功を。


「強力な呪いですが、やってみましょう」


 そう言って、剣に向かって解呪を始める。

 解呪は、はたから見れば、目をつぶっているだけに見える。

 だが、着実に進行している。

 そういう雰囲気が漂う。

 それからしばらくして、セピアは目を開ける。

 この時、皆は解呪が完了したのだと理解した。


「これで呪いが………………」


 タイムが言う。

 セピアは、その言葉に返事をする。


「いや、完全な解除は無理でしたよ」


 そう言い放つ。


「呪いが強力で今は、解呪できません」


 セピアが付け足す。


「え?………………じゃあ、まだこの地獄は続くのか?」


 タイムが肩を落とす。

 それを見たセピアは、急いで補足する。


「完全には、できなくても、緩和くらいはできます。剣を机に置いてみてください」


 そう言って部屋にある机を指す。

 タイムは、剣を机に置く。

 つい昨日までであれば、手に張り付いたように離れることは無かったはずだ。

 だが、剣は手から離れ、机に置かれている。


「私が今できるのは、呪いを弱めることです。おそらく瘴気も出ませんよ」


 それを聞いて、タイムは鞘から刀身を抜く。

 セピアの言葉通り、見た目は禍々しいままだが、瘴気は出ていない。


「でも、捨てたりするといつのまにか戻って来ると思います」


 完全ではないようだ。

 それでもタイムからすれば、かなりの負担軽減だ。

 タイムは、彼女に心から感謝した。

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