18話 呪い
四人は、村を出発してから本来の目的地である村へ向かう。
歩くこと数日、四人は村へ到着した。
「ありがとうございます。冒険者の方々」
村長に感謝される。
依頼は、無事完遂。
目標達成である。
「いやー、疲れましたよ。一番最初に方角を間違えて南に行っちゃって」
「ハハハ。それは大変でしたな」
村長は、そんな笑いを返す。
「その時、南にあった村でお世話になったんですよ。その時、方角の間違いも教えていただいて………………」
その一言を言った瞬間、村長の顔が曇る。
「南の村、ですか? 南に村など無いはずですか?」
村長は、当たり前の如く言い放つ。
「「「「え?」」」」
四人は、その言葉に驚く。
「いや、村長さん、村は確かにありましたよ」
タケは、村長に言う。
「いえ、あるはずがありません。南に村は、絶対にありません。これだけは、断言できます」
村長は、一歩も譲らず否定する。
「根拠はなんですか? 私たちは、確かに村を訪れましたよ?」
アイリスが理由を尋ねる。
村長は、渋々理由を話し始めた。
「南には、今から十年前、確かに村がありました。しかし今は廃村です。そしてその村が廃村になった事件こそ、南に村が起こらない理由なのです」
「その事件というのは?」
村長は、その質問に答えるように続きを話す。
「村人の大量虐殺ですよ。何でも村の少年が剣を使い惨殺。自らの心臓も貫いて自殺したとか。そしてその村の調査に向かった者たちは、次々と変死を遂げた、と聞いています」
その事件は、あまりにも凄惨な者だった。
その話を聞いて、タイムたちの疑問が深まっていく。
あの村は、何だったんだ? アザミは?
「なので皆さんが見たものは………………おそらく呪いの類でしょうな」
「いやでも俺は、この剣を受けとって………………」
そう言って、タイムは証拠を提示するべく剣を引き抜く。
そして皆、目を疑う。
引き抜いた剣は、あの時の剣ではなくなっていた。
刀身は、赤黒い模様で埋め尽くされ、異様な瘴気を纏っている。
「これは………………」
タイムが立ち尽くす。
「その剣を速く鞘へ納めてください!」
村長が叫ぶ。
タイムは反射的に、それに従う。
「呪われた剣を持ってきましたか………………」
村長が残念そうに言った。
◆
タイムは、剣を手放そうとする。
所有権の放棄ではなく、手から放そうとする、という意味だ。
だが剣は、タイムの体のどこかへ付き離れない。
手から放そうとしても離れず、スライドさせるように移動させることしかできない。
「これが呪い?」
タイムが不思議そうに言う。
場所は、森の中。
現在四人は、町へ戻っている。
「そうみたいだね。周りに影響がない分、マシだね」
アイリスが言う。
タイムからしたら気休めで、自分にとっては、とても不便だ。
「そんな事を言ってないで早い所、町へ行きますよ。いつ呪いが悪化するか解らないんですから」
タケが皆を急かす。
今の彼らの目的は、一つ。
町で呪いの対処をしてもらうことだ。
呪い、それは呪術の一種。
対象へ害をもたらすことを目的とした技術である。
現在、タイムにかけられている呪いは、「呪われた剣が肌身から離れなくなる」と言う効果のものだ。
これだけならば多少の不便を感じる程度だが、抜けば瘴気を撒き散らすし、今後呪いが変化する可能性すらある。
できるだけ早く、対処しなければならない。
四人が町へ向かっていると、例の如く魔物の群れに遭遇した。
今回は、狼ではなく、虫型の魔物の群れだ。
うじゃうじゃと飛ぶ虫たち。
虫嫌いが見たら泡を吹きながら卒倒するだろう。
パキラは、魔剣を手に取る。
そして虫たちへ振るう。
火が周囲へ撒かれ魔物を数体焼き殺す。
だが、まだまだ売るほど虫たちは、湧いてくる。
実際売れることは、なさそうだ。
タイムは、影魔法を撃ち、虫を攻撃する。
やはり一匹一匹は、かなり弱く、簡単に屠れる。
しかしその数が多い。
いくら減らしても、一向に減る気配はない。
「このままだったら、呪い関係なくここで死ぬかも死ぬかもな」
「そんなこと言ってないで! 流石に逃げるよ!」
アイリスの言葉により、皆で逃走する。
虫たちは、追って来るがしばらくすると数は減っていき、最終的に数匹のみが残った。
皆でそれらを始末する。
「死ぬかと思った」
アイリスが言う。
「あぁ、ヤバかった」
タイムが同意する。
「休憩したいですけど、急ぎましょう」
タケが言う。
皆は、また歩き出す。
それから数日間、何度か魔物と遭遇したが、虫型では無かった。
そして皆は、少し虫が嫌いになった。
◆
「やっと着いた~」
四人が町へ入る。
そして、ギルドへ駆け込む。
ギルド職員へここ数日の出来事を報告する。
「南の村で呪いに……」
「はい」
「現在は、どんな呪いが?」
「剣が手放せなくて、あと抜いたら瘴気を撒きます」
タイムが呪いについて伝える。
「解りました。上に報告してきます。絶対に抜かないでください」
職員に抜かないよう二度ほど、念を押された。
職員は、裏へ向かう。
しばらくするとカウンターへ戻ってくる。
そして職員は、四人へとある解決案を伝えた。
その解決案は………………
「呪術師を募集してみるというのは、どうでしょう?」
「呪術師ですか………………」
呪術師とは、呪いを扱う者のことで、魔術師との違いは、扱う技術が呪いか魔法かの違いだ。
つまり、今タイムたちに必要な人材だ。
「募集依頼を出せますが、どうされます?」
「お願いします」
タイムは即答し、呪術師募集の依頼を出した。
タイムは気にしていないが、タイムが初めて出した依頼である。
◆
タイムは、呪剣を鞘に納めた状態で見る。
見れば見るほど、アザミから受け取った時とは、見た目が違う。
微塵も原型が残っておらず、別物だとすら思えてくる。
タイムは、それを眺め、そして思う。
「アザミは、何だったんだ?」
アザミは、幻影などではなく、確かに居たはずだ。
幽霊のように実体がないなんてことも無かったし、料理まで振る舞われた。
タイムは、自分に言い聞かせるように考える。
そして一つの疑問を発見する。
『何故、そこまで言い切れる?』
実体があったと言うのは、感覚をだましていた可能性だってある。
料理も食べているような夢を見させられたのかもしれない。
それだと言うのにタイムは、アザミが実在したと考えていた。
その奇妙なまでの確信が、呪いによってもたらされたものだという証拠になってしまった。
タイムは、確信した。
『アザミは、呪いだ』
アザミは、今もこの剣に憑いているのだろう。
殺した村人たちと共に。
アザミにも何か事情があったのだろう。
殺す理由が。
でなければ、サッサと瘴気でも浴びせてタイムたちへ害をもたらしているはずだ。
タイムは、目を閉じる。
そして数少ない記憶の内、アザミのことを思い出した。
作者は、虫嫌いです。




