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勇者の旅  作者: カム十
17/23

17話 彼らが見ている物は?

「こちらが新しい冒険者カードです」


 ギルドの職員がタイムたちに手渡す。

 その冒険者カードには、前まであったCランクの文字はなく、その代わりにBランクの文字が刻まれている。

 この冒険者カードは、タイムたちのランクアップのために再発行した物だ。

 ランクアップの要因は、言わずもがなAランク相当だとされる悪魔の討伐のためだ。

 この功績により、タイムたち全員がBランクへの昇給を果たしたのだ。

 何故か、戦闘をしていないタケとアイリスも同じく昇給している。


「やったー! Bランクだー!」


 アイリスが跳び上がり、目に見えて喜ぶ。


「でも何でAランクじゃないんだ?」


 パキラが疑問をていする。


「いきなりAランクは、無理だよ。CランクからAランクは、大出世すぎるんだよ」


 アイリスが説明する。


「いいんですかね? 僕なんかが貰って」


 タケが遠慮する。

 だが、一応貰っている。

 性なのだろう。


 タイムは、冒険者カードを少し眺め、すぐにしまう。


「ご確認は、完了しましたでしょうか?」


 ギルドの職員が言う。


「はい、間違っている所もありません」


「それは、良かったです」


 そう言うと次の話に移る。


「では、特別依頼の説明をいたします。特別依頼は、冒険者ギルドが指名を行い依頼を課します。基本的に事情が無ければ拒否は、できません。そして今回、皆さんに課す依頼内容は、こちらです」


 そう言って、目の前に小さい木の箱と印の付いた地図を出す。


「こちらの木箱を記された目的の村へ届けてください。期限は、一年となっていますが、あまり気する必要は、ありません」


 タイムは説明が終わると両方の物体を持つ。

 木箱は、重さが少なく、音がならないので中身は、紙か何かだろう。

 地図は、一面の森が描かれているが、その中にポツンと町と村が描かれている。

 片方は、この町だ。


「それでは、依頼完遂をお待ちしております」


 ◆


「さて、早速向かうか!」


 タイムは、冒険者ギルドを出ると言う。


「そうですね。早い所、依頼を済ませたいですし」


 タケが同意する。


「でも、タイムの剣とか買ってないけどいいの?」


 アイリスが不思議そうに聞く。


「大丈夫だ。影魔法が使えるようになったから、それを使っていこうと思ってる」


 タイムは、そう答える。


「また機会があれば買えばいい」


「そう? それならいいけど………………」


 四人は、早速、遠出の準備を始める。

 遠出と言っても歩きで1、2日程度の距離なので大それたものではない。

 そしていざ出発しようとなった時、タイムがふと口にする。


「そう言えば、どの方角に進めばいいんだ?」


 地図を見ても、目印になるようなものは、記されていないため方角が解らない。

 タイムは、少し考え解決策を導き出す。


『人に聞けばいいか』


 そう考え、丁度近くにいたご老人に質問する。


「すみません。この村へ行くには、どの方角へ進めばいいですか?」


「ん? あぁ、この村なら確か………………あの方角じゃないかの?」


 お爺さんは、日が昇る方角を指差す。


「ありがとうございました」


 タイムは、お礼を言い、三人の待っている方へ向かう。


『若いもんは、元気じゃの~』


 お爺さんは、タイムの走り去る姿を見ながら、感慨に浸る。


『………………そう言えば、あの村は、もう廃村になっとるんじゃなかったか?』


 お爺さんの頭にそんな疑問がよぎる。

 だが、それを指摘することはもうできない。

 タイムたちは、誤った方角へと進み始めた。


 ◆


 タイムたちは、町を出て、目的地へ向かう。

 移動は、徒歩だ。

 それでも、意外に文句を言う者はいない。

 まず、四人の内、二人が疲れ知らずの前衛で、残りは適度に休憩をとって貰えるため、文句はないのだ。


「タイムが方角を聞いてきてくれて助かったね!」


 アイリスが言う。


「方角が判り辛かったですからね」


 タケもタイムを賞賛している。


「あのお爺さんが親切で助かったな」


 タイムは、そう言って老人の株を上げた。


 そうやって雑談をしていると、やはり魔物が現れる。

 この森は、凶暴な魔物が多く生息している危険地帯なのだ。

 だが、彼らには、あまり関係の無いことだ。

 強い前衛二人により魔物は、いとも容易く屠られる。

 タイムに関しては、剣を持っていない状態で、だ。

 そうやって彼らは、森を進んでいく。

 日が沈めば、野営をした。


「じゃじゃ~ん! お店で買った調味料です。凄い美味しいんだって!」


 アイリスが目を輝かせながら説明する。

 タケとタイムは、半信半疑で完成した料理を口へ運ぶ。


「何だこれ、凄く美味しいぞ!」


「はい、今まで食べた野営の料理では、群を抜いていますよ!」


 絶賛の嵐だ。

 四人は、満足に食事を食べる。

 これまでの質素な野営の食事からの進歩である。

 食事が終われば、交代で見張りをして睡眠を取る。

 この森は、魔王墓の砂漠とは、違う。

 魔物たちが躊躇なく襲いかかってくるのだ。

 それも高頻度で。

 つまり見張りは、絶対に必要なのだ。

 その証拠にこの夜は、計3回の襲撃があった。

 怪我もなく制圧は、できたが、毎度毎度起こされるタイムとパキラにとっては脅威だろう。

 次の日も同じように移動する。

 出発、雑談、戦闘、再出発、戦闘、休憩、再出発、戦闘、戦闘、戦闘、休憩、再出発………………

 その日も同じように過ぎていった。


「予定より着くのが遅くなったな」


「魔物たちが想像以上に多いからだろうね」


 そんなやり取りをして次の日へ。

 見立てでは、今日村に到着するはずだ。

 そして歩いていると、魔物を発見する。

 魔物たちの中心を観察すると、それが何か解る。

 それは、人だ。

 最初に動いたのは、タイムだ。

 【影移動】を使い、接近する。

 そして魔物へ影魔法を撃ちこむ。


「大丈夫か?」


 タイムが襲われていた人物に聞く。


「はい、少しかすっただけで大きい怪我ではありません」


 その者は、傷口を押さえながら答える。


「それは良かった」


 タイムがそう言った頃、パキラが魔剣を握り、魔物へ一撃を見舞う。

 それからは、いつも通りの流れで殲滅だ。

 パキラが最後の一匹にとどめを刺す。

 それを確認して、タイムが襲われていた人物へ向き直る。


「怪我は、大丈夫か? アイリス、包帯を貸してくれ」


 アイリスは、タイムに包帯を渡す。

 そしてタイムは、簡単に応急手当を施す。


「ありがとうございます! 皆さん、冒険者ですか?」


 助けられた者――――タケと同じ位の背丈の少年は、タイムたちに問う。


「あぁ、Bランク冒険者だ」


「でしたら、お礼も兼ねて僕の住む村まできませんか?」


 四人は、その提案を受け入れた。


 ◆


「なるほど、村まで荷物を届けにですか、ここらの周りに他の村は、ありませんからおそらく私たちの村でしょう」


 事情を聞いた少年――――名をアザミと言うそうだが、案内をしながら話す。


「ちなみにこの村なんだが………………」


 タイムが確認のために地図を見せる。


「あれ? この村は………………違いますね。方角が町から東ですね。ここは南です」


 そう答えが返ってくる。


「え? じゃあ、方角を間違えていたってことですかね?」


「はい、そうみたいです」


 タイムが沈黙する。


「タイム、確認したんだよね?」


 アイリスが問い詰める。


「あのお爺さんも間違えてたのかもしれない」


 四人は、肩を落とす。

 村が違う、すなわちここ数日の移動が無意味に終わってしまったということだ。

 四人は、気を取り直し村に泊まることにした。


 村は、そこそこの規模があり、人が行き交い、家が並んでいて野菜を育てる畑もある。

 そして村の中心には、剣の刺さった台座。

 剣以外、特に変な部分などない。


「あの剣は、何なんだ?」


 タイムが質問する。


「あぁ、あの剣は、ここを訪れた旅芸人の方が残していった物で、不思議なことに抜けないんですよ」


 そう言うと声を小さくする。


「もしも欲しければ抜いても構いませんよ?」


「いや、大丈夫。結構だ」


 タイムは、断る。


「そうですか、それは残念」


 そう言って、また歩き出す。

 案内されたのは、その少年の家だ。


「さぁ、他に人もいませんし、くつろいで行ってください!」


「他に誰もいないんですか?」


 タケが尋ねる。


「えぇ、両親は、遠くへ出かけていますから、数日は一人なんです」


 それから少年は、夕食にシチューを振る舞い。

 空き部屋のベットの容易をした。

 タイムたちは、少年の親切心に甘え、もてなされた。


 次の日、少年と共に朝食を食べ、村を発つことを伝えた。

 出発の瞬間、村の外れにて少年が見送る。

 周囲に他の人の姿はない。


「あの地図の村なら、ここからあの方向に真っすぐ進めば着きますよ」


 アザミは、指を差し伝える。


「ありがとう」


「いえいえ、これぐらい大丈夫ですよ」


「そうか、それじゃあ」


 タイムたちが歩き出す。


「あ! ちょっと待ってください。皆さん――――と言うかタイムさんに渡したい物が!」


 アザミは、引き留める。


「何だ?」


「これを」


 そう言ってアザミが渡した物は、剣だ。

 あの台座に刺さってあった剣だ。


「いらない」


 タイムは、押し返す。


「いえ、貰ってください」


 アザミは、タイムに押し付ける。

 数分、押し付け押し付けられの争いをしていると、タイムが折れ、剣を受けとる。


「それじゃあ、またな!」


 タイムが言う。


「さようなら~!」


 アザミは、手を振った。

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