16話 休暇?
タイムたちは、ダンジョンから町へと帰る。
そしてギルドでダンジョンでの出来事を報告する。
攻略に参加した冒険者たちは、おそらく全滅。そして彼らを率いたBランク冒険者ゴウランの死亡確認。ダンジョンボスの撃破などを報告する。
ギルドの職員は、その報告を聞くなり慌ただしくなり、四人にまた後日報告を頼んだ。
四人は、体を休める。
大きな怪我こそしなかったものの、精神的に疲れているのだ。
と言っても実際に疲れたのは、タケくらいで他の三人は、肉体精神共に疲弊した様子はない。
四人は、それぞれの方法にて、休日を楽しむ。
◆
タイムは、鍛冶屋にて剣を見ている。
何故、剣を見ているのか?
それは、ダンジョンボスの悪魔に剣を破壊されたからだ。
魔剣は、大振りなのでパキラの方が扱いやすいだろうと、タイムが考えたため、彼は剣を見ている。
だが、タイムには、剣に限らず武具を見る目を持っていない。
では、どのような基準で見ているのかと言うと………………
『これは、まだ脆いな』
見ている基準は、丈夫さである。
彼は、切れ味など二の次だと言わんばかりに丈夫さを見ている。
次は、悪魔の時のように簡単に破壊されないためだ。
だが、彼の納得のいく剣は、この鍛冶屋にない。
どの剣も簡単に折れてしまいそうな物ばかりだ。
タイムは、ガッカリした様子で鍛冶屋を出て行く。
『これじゃ、当分は、影魔法に頼らないといけないな』
そんなことを考え、ながら町を歩いていった。
◆
「ラララ♪ ラーララ♪ ラー♪」
パキラは、歌いながら森を進む。
何故、休日に森を歩いているのかというと、それが彼女の最も楽しい過ごし方だからだ。
パキラは、自然が好きだ。
それこそ子供の頃からずっとだ。
木に登り、花を捜して、丘から叫び、岩を転がし、丸太で橋を架け、魔物とじゃれた(魔物たちからは、いい迷惑だろう)。
そうやって昔から森で遊んでいたのだ。
「ラーララ♪――――ん?」
パキラは、歌を止める。
目の前に魔物が二体現れたからだ。
その魔物は、両方とも同種で少し前に遭遇した狼だ。
二体は、凶暴な目でパキラに向かい合う。
「お? やるか?」
そう言って、パキラは魔物とじゃれ始めた。
素手で。
◆
アイリスは、宿にて謎の行動をする。
紙に水滴を落とし、水のしみ込んだ紙を燃やしたり、アクセサリーのような物を鏡の上に垂らして数十分じっと見つめたりなどなど。
その行動は、何も知らぬ者から見れば異常な行動だろう。
その行動は、占いに必要な行動なのだ。
「うん! しばらくは、大丈夫そうだね!」
アイリスは、一部焦げた紙と鏡の上を揺れ動くアクセサリーの動きを見て、安心する。
彼女が占った内容は………………
◆
タイムは、冒険者ギルドへ入る。
そして依頼を眺める。
依頼の内容は、数日前から代り映えしない。
変わった場所を探す。
まず、例のダンジョンの攻略依頼は、無くなっている。
それに前までデカデカと貼られていた周辺の主・巨大な狼の討伐依頼は消え、替わりにその周辺の主の調査依頼が貼られている。
タイムたちが倒したのが原因なのだが、当の本人は、そんなことを知らずに目を移す。
タイムは特にあてもなく依頼を読み上げる。
そして脚を動かし、ギルドの建物から出て行く。
『町から出よう』
ふとそう思い立ち、町の外へ向かって行った。
タイムは、森へ繰り出す。
『さて、何をしよう………………』
タイムは、手を顎に当て考える。
剣は持っていない。
それどころか、武器も持っていない。
今、魔物に出会ったらとても面倒だろう。
タイムは、しばらく考えた後、影魔法を使うことにした。
試しに木へ向かって影牙を放つ。
木に浅い傷が付けられる。
『威力が低い………………』
悪魔の使った影牙は、こんなものでは無かった。
あの影牙ならば、幹を断っている。
『どうすれば威力が出る?』
速度? 形? 出力?
おそらく全てなのだろう。
あのタイムの癪に障る悪魔は、あれでも真面目にやっていたのだろうか?
『いや、違うな』
あの悪魔の工夫という技術は、『継承』にて受け継がれるはずであり、別の要因がある。
タイムと悪魔の違いは、何だ?
『種族か?』
タイムは、人間。
悪魔は、悪魔である。
悪魔という種は、魔力量が多く、種としてかなり優れている。
それが原因なのだろうか?
『検証しないとな』
そう考え、今後の課題にする。
次に練習するのは、【影移動】だ。
木陰を踏み、発動する。
繋がっている影から影へと移動する。
そうしていると徐々にこのスキルの仕様が解ってくる。
まず、繋がっている影でも、離れ過ぎていると一度には、移動できない。
そして影が薄いと移動に時間がかかる。逆に暗ければ速く移動できる。
長距離には、向いていないが、短距離では、条件付きで素早い移動が可能となる。
『結構楽しいな………………』
そんなことを考え、移動を続けると、チョットした問題が立ちふさがる。
その問題は、タイムの目の前にいる三体の狼だ。
三体は、タイムに襲いかかる。
タイムは、迷うことなく影牙を放つ。
三体の内の二体に影牙は、直撃し二体に浅い切り傷を付ける。
『二連撃』
タイムが念じるとその浅い傷に被せるように二つ目の傷が付く。
次にタイムは、【影移動】で狼の一体に接近する。
そして影魔法を至近距離で使用する。
刃の形状をした影が狼に刺さる。
さらに【二連撃】で強化する。
狼たちは、怯むことなくタイムへ襲いかかる。
タイムは、対応しながら考える。
『こいつらは、何で逃げずに戦うんだ?』
その答えは、この生き物がそういうものだからとしか言うことはできないだろう。
タイムは、影魔法で着実にダメージを与えていく。
順調に進んでいたが、突如横から木が飛んできた。
タイムは、余裕を持って回避する。
地面に倒れた木を見ると、狼が叩きつけられている。
飛んできた方を見るとパキラが拳を振り終わった体勢で立っている。
「あれ? タイムも町の外に来てたのか?」
タイムは、頷く。
「一緒にやろう」
タイムが提案する。
「もちろん!」
パキラが拳を構える。
そして残る狼たちを殲滅した。
◆
「タケ、ただいま」
タイムが扉を開け言う。
「どうも、タイムさん………………」
「まだそんな感じなのか?」
タケがため息を吐く。
タイムが部屋を出た時と全く変わっていない。
「当たり前でしょう! 命の危機に瀕したら誰だってこうなります! それに何より――――――」
タケが少しためらう。
「何より、僕は、ほとんど何もしませんでした! タイムさんとパキラさんに全て任せました!」
それを聞き、タイムは言いにくそうに言う。
「タケ、お前は役に立ったよ。あの魔剣が無かったら大怪我してたし………………」
「でも、それだけですよね」
「いや、それを言ったらアイリスに関しては、何もやってないぞ?」
その言葉にタケが言葉を止める。
だがすぐに話し出す。
「アイリスさんは………………まぁ、アイリスさんですから。それでも僕は、戦うこともできませんし、敵を相手に時間を稼ぐこともできません」
「でも、普段俺たちは、お前に助けてもらってるし、気を持ち直せ。こういうのは、最終的に考えるだけ無駄っていう結論に落ち着く」
そう言って、明日へ備えて眠りについた。




