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10話 三人目

 毛深い体表に覆われた巨大な狼の魔物。

 そいつは、前足を振り、タイムを切り裂こうと躍起になっている。

 それは獣の動きであり、冷静なタイムは簡単に避ける。

 だが、もう一人の冒険者の女性は、避ける素振りなどせず攻撃が直撃する。


『…………何で避けない?』


 タイムはその様子が常に疑問だ。

 攻撃の動きを見れば十分な俊敏性がありそうなものだが、怯みすらしない。

 しかもほぼ無傷。

 精々軽い擦り傷程度でピンピンしている。

 とても普通の人間だとは思えないほどに丈夫だ。


「…………何で避けないんだ?」


 タイムが痺れを切らして質問する。


「避けるなんて面倒くさいだろ」


 常識を突き付けられるように言われる。

 タイムは余計に解らなくなった。

 だが、今はそんなことに意識を向けるほど暇ではない。

 タイムは魔物の動きに注目し、必要であれば回避する。

 そしてタイミングを見て剣を振るう。

 剣は毛皮に阻まれ、それ以上進まない。

 かれこれ数回ほどこのようなことが起こっている。

 そのたびに反撃を恐れ、間合いをとる。

 もう一方の冒険者の打撃は、毛皮を貫通してある程度のダメージになっているようだが、それも微々たるものだ。

 つまり現状で魔物の方が優勢なのだ。


「おーい! タイムー!」


 タイムの耳に遠くからアイリスの呼ぶ声が聞こえてきた。


「何だー?」


 タイムは遠くにまで届く声で言う。


「魔法撃つから、少し離れて」


 アイリスはそう言うと、魔法を撃つ構えに変わる。

 タイムはその直線上から離れる。

 その場で話が聞こえていた冒険者も同じような行動をとる。

 アイリスは魔法を発動させ、火球を撃つ。

 火球は一直線に飛んで行き、魔物に直撃する。

 魔物の毛皮が燃え、体表が焼けただれる。

 タイムはそれを見て特に理由などなく、意識せずにその部分を剣で斬りつける。

 その部分は、他の部分に比べ刃が通るようになっていた。

 タイムはすぐにその偶然の発見を伝える。

 それを聞いた冒険者は、棍棒を振りかぶり、焼けた部分へ振り下ろす。

 棍棒は直撃し、魔物がよろめく。

 タイムは追い打ちをかけるように剣を刺し、足で全体重をかける。

 魔物はその痛みからか、身じろぎするがそれだけだ。


「これなら流石に死ぬだろ」


 冒険者がそう言うと、杭を打つように棍棒で剣を打つ。

 剣はより深くに刺さり、魔物は地に倒れる。

 そして何度か痙攣すると動かなくなった。


 ◇


「いやー、助かった」


 女性の冒険者が言う。

 タイムたち―――主にタケは、解体作業を進めながら話を聞いた。

 森をさまよっていると、あの狼の魔物の主に遭遇したこと。

 それから戦い続けていたこと。

 戦い始めてから二日が経過していること。


「いやいや、二日も飲まず食わずで戦い続けてたんですか!? と言うか可能ですか!?」


 タケが驚く。

 だが、その手は速度を落とすことなく解体作業を続けている。


「二回、日が沈んだから間違いない」


 女性の冒険者は自身ありげに言う。

 タケが代言してくれたため口には出さなかったが、タイムとアイリスもほぼ同じ感想である。


「人間ですよね?」


 タケが確認のため尋ねる。


「もちろんだ! その証拠に腹も減ってる」


 それを聞いた三人は同じことを考える。


『『『何で腹が減るだけですんでるんだよ!』』』


 口には出さず、三人は心の中で考えた。

 タイムは気が付いていないが、彼も似通った(空腹で済む)体質なのだが、気付いていない。


「そう言えば、お姉さんの名前は?」


 アイリスが思い出したように聞く。


「名前? あたしの名前は、パキラ。よろしく」

「よろしく。私はアイリス」

「よろしく。俺はタイム」

「よろしくお願いします。タケと言います」


 各々で名前を伝える。


「よし、解体完了です!」


 タケが分けられた素材を目の前にして額の汗を拭う。


「こちらで十分ですか? パキラさん」


 タケが分配した素材を指し尋ねる。


「あぁ、大丈夫だ。これぐらいあれば腹が膨れる」

「それじゃあまずは、町を目指さないといけませんね」


 タケがそう言ったのも束の間、パキラはその素材たちを口に運び、噛みちぎり、食した。

 その光景を見た三名は、一瞬なにをしているのか、理解が遅れ、少し間があって反応する。


「「「何で食べてるの!?」」」


 そう聞かれ、パキラは答える。


「腹が減ったから」

「「なるほど!」」


 タイムとアイリスが納得する。


「納得しないでください! 普通、換金してそれで食べ物を買うなりするでしょう! それに食べるにしても火を通すでしょ!」


 タケはツッコみを終えると息切れしたように呼吸が粗くなる。


「…………そ、そうなのか? 知らなかった」


 パキラは、人生最大の事実を知ったように驚いた。


 ◇


 四人は、歩いて森を歩く。

 あの後、四人で町まで向かうことになった。

 道中にもちろん、魔物と遭遇するが、パキラがいることによって大抵が立ち止まることなく対処できている。

 三人からすれば、とても頼もしい。


「パキラ、お前は、そんなに強いのにパーティも組んでないのか?」


 タイムが尋ねる。


「あぁ、村を出てからずっと一人だ」


 パキラは魔物を叩きのめしながら答える。


「俺は、アイリスに誘われて冒険者になってパーティを組んだんだ。それから色々あってタケも仲間に入れた」

「…………それで?」

「だけど俺らのパーティの戦闘要員は、メインが俺でアイリスがサポート、タケは戦闘向きじゃない。だからこの森でも大変な思いをした」


 タイムはそこで思い切って言う。


「パキラ、パーティを組まないか?」

「いいぜ」


 パキラは、ほぼすぐに答えを返した。


「そんな早く決めて大丈夫?」


 アイリスがパキラに聞く。


「大丈夫だろ、多分!」


 そんなやり取りであっさりとパキラが仲間になった。

 それから間もなくして、目的の町が見えてきた。

 タイムたちからすれば、数日ぶりの町である。

 四人は町に入って、宿をとり、久しぶりのベットで眠った。

 四人は数日間の疲労からかぐっすりと深い眠りに入った。

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