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こんにちは異世界人です


 これって、召喚されたことになるのかしら。

 今更ながら思った。全く知らない人々の視線を一身に受けながら思った。誰も彼もが異世界人を見ている。異世界人しかいないからである。傍にいると言った神はいなかった。姿を消していると言った通りである。全力で呼べば出てくるのだろう。だが、未だその時ではないように感じられた。誰もが困惑している。三秒で殺される気配はないのだ。

 視線を走らせれば、己がいるのが洋風な建築物の中だと分かる。分からないが、城っぽい。大体召喚されたらそこである。そうして、周りにいる人々は、お偉いさんが殆どなのだ。多分そう。衣装が豪華である。煌びやかだった。反して異世界人は極普通の異世界スタイルだった。Tシャツとデニムである。どうせなら、変な言葉が書いてあるシャツにすればよかった。神を信じろとか。持ってない。人の言葉がざわめきに聞こえる。恐らく突然現れた得体の知れぬ女の処遇を話し合っているのだろう。だが、それは異世界人とて同じ事。伝えなければならないのだ。

 異世界人の魂をゴーレムに入れても無意味なので、今後はこのような暴挙はご遠慮ください。

 これである。誰か話しかけて来れば、その時に伝えよう。そう決意した直後だった。一人の男性が異世界人に近付いたのだ。そうして、言った。

 異世界人は、顔を顰めた。

 その間にも、近付いてきた生き物は話し続けている。

 異世界人は、唇を噛んで俯いた。今、とんでもなく困っていた。まさかこんなにも直ぐ問題に直面するとは予想していなかったのだ。だが、想定しておくべきでもあった。

 分からないのだ。

 目の前の生き物が言っている事が分からないのだ。

 理解出来ない以前の問題である。知らない言語だったのである。

 考えれば当然の事であった。同じ地球上ですら国と地域によって使う言葉は違うのだ。世界を越えたら違って当然である。通じると思う方がおかしい。そこまでイージーではなかったのだ。頭が痛くなってきた。知らない言語を耳にしていると、何やら責められているような気すらした。何も悪い事などしていないのに。寧ろ被害者である。異世界人は息を吸った。そうして、限界まで息を吸い、上を見たのだ。まるでそこに、目的を見出すかのように。そうして、吐いた。

「神ー!!」

 人生でこんなに大きな声を出したことが果たしてあるだろうか。そう疑問に思う程、異世界人の口から渾身の神が飛び出したのだった。異世界人に話しかけていた生き物が瞠目している。それはそうだろう。得体の知れぬ女が突然大声で訳の分からない言葉を発したのだ。驚くなと言う方が無理である。場が静まり返る。異世界人は思った。

 裏切るなよ神!?

 傍にいると言ったのだ。全力で呼べば姿を現すと言ったのだ。それとも、全力の度合いが足りないというのだろうか。だったらもう一度叫ぶか? そう思った矢先だった。静まり返った場にいた人々が、顔に恐怖の色を浮かべたのである。

 音など無かった。

 だが、異世界人もまた、其方を見たのだ。隣である。異世界人の左側、そこに見知った顔があった。だが、実際よりも、高い場所にあった。実を言うと異世界人は、神と立って並んだことはない。最初から彼方は座っていたからである。だが、ここまで高い事はないだろう。現に下を見れば、神の足は地についていなかった。空に浮かんでいるのだ。明るい場所で初めて見た神は、暗い場所で見るより確かに神々しかった。成程、神。そんな風に異世界人が納得する程。神はただ前だけを向いていた。無表情に。黄金の瞳は一体何処へと向いているのか。何を考えているのか分からぬ顔で、ただ、場を支配していたのだ。

(異世界人……聞こえますか異世界人……)

(こいつ直接脳内に……! コンビニのチキン下さい)

 空気を読まずふざけてしまったが、脳内なのでセーフ。そう思った矢先だった。異世界人の手に、熱々のコンビニのホットスナックが現れたのだ。見慣れた袋に入っている。突然の出来事に異世界人は困惑し、袋を破った。出てくる、揚げ物。きつね色の衣に齧りつく。もうここまで来たら、食べなければ始まらない気すらした。矢鱈と空腹を刺激する匂いが立ち込める。知った事ではなかった。文句なら神に言え。勝手に出したのだ。尤も、要求したのは異世界人である。しかし、ネタである。ネットスラングの一種である。食べ終え、空になった袋を折りたたんだ。唇は、油で光っていた。

「神ー!!」

 そうして、もう一度叫んだのだった。

(いますが)

(分かっとるわい! 何でチキン出した!?)

(くれって言ったじゃないですか)

(ネタですけど!?)

(食べてから文句言うの良くないですよ異世界人)

(つい食べちゃったんです)

(もう一度買ってきましょうか)

(買ってきた!?)

(偏見がないっていいですね。また変なコスプレイヤー来た、みたいな顔して普通に売ってくれましたよ)

 果たして事実であろうか。そう、異世界人は疑問を抱き、そんなわけはないな、と、結論付けた。何せチキンを求めてから現れるまでが秒である。そんなに直ぐ買い物は出来ない。だが、この女は神である。何が出来てもおかしくはない。いや、おかしいな? 全部おかしいな? 急にあっちのチキン出てくるのおかしいな? そう、可笑しい事しかなかった。でも、考えても分かる話でもない。異世界人は諦めた。脳内に登場した、コンビニで普通に買い物する神の姿は抹消した。

(それより、言葉分かんないんですけど)

(失念してましたね。直ぐ翻訳蒟蒻出しますね)

(こっちの文化に精通すんのマジで止めてくんない?)

(かみえもんて呼んでくれていいんですよ異世界人)

(それでいいのか神)

「あの……」

「おお……」

 実際に話しかけられ、異世界人は驚いた。勿論神相手ではない。現地人である。しかも、言葉が分かったものだから更に驚いたのだ。何かを食べた覚えはないが、突然知っている言語になったのだ。神って、凄いんだな。ふと隣を見上げれば、無表情ながら得意げな色が窺えた。意外と単純な模様。

「単刀直入に申し上げます」

「えっ。あっ、はい」

 奇声を二度も発した女が普通に話し出したものだから、現地人は大層驚いている。この化け物、言葉通じるんだ。そんな風にも見えた。遺憾の意。

「私の魂を入れても無意味です」

「えっ」

「私を殺して、その魂をゴーレムに入れようとしたんですよね」

「お待ちください!」

 悲鳴にも似た声を上げ、男が離れた。何か間違った事を言っただろうか。異世界人は首を傾げている。何せこっちの情報源は神である。正しいに決まっていた。神が神であるとすればの話である。だが、神に間違いなさそうである。異世界人は普通に立っているが、室内にいる生き物は、神と目を合わせようとしないのだ。恐れが見える。

(神って怖いんですか)

(下位種には恐ろしいようですね。こんなにいい神なのに)

(自分で言います?)

(異世界人が言いたいならどうぞ?)

 尚この間、二人ともずっと前を向いて無表情である。意図せずして、まるで威圧するかのようだった。

 暫く放置された後、別の男性が近付いてきた。更に年嵩で、権威のようなものが感じられる。神に屈する事を良しとせぬかのよう、異世界人に向き合った。そう、あくまで異世界人である。神の前に立つような真似はしなかったのだ。

「何やら勘違いをしておいでのようだ」

「と、申されますと」

「我々は、あなたの魂を得ようなどとは考えておりませぬ」

「でも二回殺そうとしましたよね」

「覚えがありませぬな」

「えぇ……」

 どうやら白を切るつもりの模様である。

(どうしよう神)

(これだか下位種は)

 やれやれ。そんな言葉が続いて聞こえた。異世界人の知る神なら、肩を竦めて、首を横に振るくらいの事はしそうである。だが、現実には微動だにせず浮いているのだ。ただ、風もないのに長い髪が揺れていた。誰もが黙っていた。異世界人の前に立つ男は居丈高な態度を隠そうともせず、異世界人は顔を顰めている。人生経験に差があり過ぎた。だが、その差を埋めるために、神がいる。そう、異世界人には神がついているのだ。

 その事を見せびらかすような出来事が起きた。

 突然、人が倒れたのだ。それは、異世界人と向き合っていた男だった。異世界人は咄嗟に目を逸らし、口元を手で覆った。そうしなければ、嘔吐してしまいそうだった。予期せぬ出来事であった。予想しろと言う方が無理であった。異世界人は神を良く知らなかった。何せ会うのも二度目である。だから、何を仕出かすのか、何を考えているのか、そう言ったことが一切分かっていなかったのだ。目の前の光景を疑い、それでいて、じっと見る事すら出来なかった。急に、何の前触れもなく、人が死んだのだ。場は更に静まり返った。まるで、葬式のようだった。現に人が死んでいる。確実に死んでいる。何故なら、首と胴が離れているのだ。この状況で生きられる何かなど、少数である。赤い血が、床を汚した。流れる。足元まで来そうで、異世界人は距離を置いた。見ないようにして。目の当りにしたら、戻してしまう。こんな事に耐性などなかった。異世界人は、極普通の一般人である。人の死には然程に触れずに生きてきたのだ。

(話しても分からない下位種に生きる価値など無いので)

 異世界人の頭に響いた声は、無情そのものであった。

「嘘を吐くものを、神は、許さないそうなので……」

 小声で異世界人が言う。だがその言葉は誰の耳にも届いたのだ。静まり返っていた為である。こうして周囲の人々は、異世界人を騙す事が下策であることを知ったのだ。何せ警告なしの一発アウトである。何故、死んだ者の言葉が嘘であると見抜けたのか。その理由は相手が神である、と、言うその一言で収束してしまった。相手は、神なのだ。現れた瞬間から、怖れを覚えていた生き物たちは、本当に神を相手にしていると理解したのだ。

 状況が、変わった。

 今すぐに何か弁明を、と、思う反面、時間が必要であるとも認識していた。上に立つ人間ほど、嘘を吐く事に慣れ過ぎていた。自然と、相手を謀ってしまうのだ。だが今それをすれば、それこそ一巻の終わりである。自己保身で死ぬ。容易に想像が出来てしまう。

 無言、更には無表情で存在しながら、裁きを下す神なる存在。その隣にいる、殺し損ねた異世界人。しかも、神の言葉を伝えてくるものだから、最悪だった。恐らく、力のある存在である。この世界の生き物はそう判断した。神と同等の力を持つ生き物だと思い込んだのだ。何故なら、少しも神を恐れていない。平然と隣に立ち、神の代弁をするのだ。故に、ゴーレムにその魂を入れる事が無駄だとは信じていなかった。 

 絶対に恐ろしい兵器になると信じていた。

 つまり、何とかして始末せねばならぬと、確信したのだ。残念ながら、異世界人の気持ちは微塵も伝わらなかった模様である。異世界人からすれば、無駄であることを伝えて終わりだと思っていた。する意味がない事をしてどうするのかという話である。だが、この世界の人々は、無駄であることを目にするまで、信じない。実際に、異世界人を殺し、その魂をゴーレムに移し、動かないことを目の当たりにして初めて、本当だったのだな、と、理解するわけである。犠牲になる方にすれば、堪ったものではない。

 神が下位種と称する人々は、まず、異世界人に部屋を用意した。今すぐ殺すことが出来ないなら、引き留めなければいけないからである。異世界人が想像した通り、此処は城の一角であった。つまり、部屋は余っているわけである。だが、異世界人にすれば、長居する理由などなかった。伝えるべき事は伝えたわけであるし、最早後は帰るだけなのだ。

(あの、神、帰りたいんだけど)

(直ぐには無理ですね)

 えっ。

 まさかの言葉が脳内に響いたものだから、思わず異世界人は神を見た。目は合わない。神はずっと前だけを見ているのだ。今更ながら瞬きすらせずに。変な生き物だった。

(考えてもみて下さい異世界人。バンジージャンプだって、飛び込むのは一瞬ですけど、上に戻るのは時間がかかるでしょう)

(分かり難い例えで吃驚してます)

(成程、バンジージャンプのご経験がないわけですね)

(ないから分かんないって話ではない絶対にない)

「お、お部屋にご案内いたします……」

 物凄く声を震わせて、一人の女性が出てきた。正直異世界人には、どの立場の人間なのか分からなかった。メイドにしては、身形がいい気がするし、でもそれ以外に城にいる人間がよく分からなかったのだ。尤もこの場にいたとて、恐らく話は進展しないだろうし、目を逸らし続けている死体から逃げたい事もあり、従う事にしたのだった。異世界人が姿を消せば、神も姿を消した。室内に、漸く、安堵が広がったのである。

 それほどまでに、神はいるだけで恐ろしかった。

 だがこの場にいる人々は、その神を謀ろうとしているのだ。


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