「雨ゆじゅとてちてけんじゃ ー 祈りの遺骸」
第一章:声にならなかった願い
だれか、
わたしを忘れてください。
あのとき喉から漏れた
「あめゆじゅ とてちてけんじゃ」は、
ただの音だった。
意味のない、
魂のひび割れからこぼれ落ちた残響。
誰にも理解されないことを前提に、
それでも言葉になろうとした
何かの亡霊だった。
優しさを求める声は、
いつも届かない場所に向かっていた。
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第二章:やさしさという暴力
もっと早く、
やさしくされなければよかった。
やさしさに救われたと思っていた。
でも、気づいてしまったんだ。
それは、君が自分の罪悪感を
軽くするための施しだったって。
僕はそれを“愛”だと誤解して、
ずっと、縋って、壊れて、
それでも君の手のひらの温度を忘れられなかった。
やさしさは、罪深い。
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第三章:狂気の水面
誰もいない夜にだけ、
わたしは生きている。
“まとも”でいるために、
どれだけ“まともじゃない”ものを
飲み込んできただろう。
言葉にできないものは、
やがて自分を蝕みはじめる。
あめゆじゅ とてちてけんじゃ
それは、自分で自分を慰めるための、
最後の呪文だった。
狂ってしまえば、
やさしくなれる気がした。
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第四章:死にたかったのではない、消えたかっただけ
死にたいと言えない代わりに、
「大丈夫」と言い続けた。
誰にも気づかれないように、
静かに消える方法を考えていた。
でも、本当は死にたくなかった。
ただ、もう疲れただけだったんだ。
泣いてもいい場所がほしかった。
「あめゆじゅ とてちてけんじゃ」
あの音だけが、わたしの最期の居場所だった。
消えたいという叫びほど、
誰にも届かない。
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第五章:祈りの遺骸
これは祈りのかたちをした絶望。
これは希望のふりをした呪い。
もし、あの日、君が僕の目を見て、
あめゆじゅ とてちてけんじゃ、と
言ってくれたのなら。
僕は少しだけ、優しくなれたのかもしれない。
でも言葉は消え、光も届かず、
ここに残されたのは、
“祈りの遺骸”だけだった。
もう祈らない。
もう救われなくていい。