〈天烏篇〉一命
青年が目にしたのは、仲間達の屍だった。
§ § §
「なんでお前だけ?」
仲間の怪訝な声に、青年はへらりと笑う。
「だって俺、金勘定得意だもん」
親指と人差し指でコインの形を作れば、仲間は「またそれかよ」と溜息を吐いた。
「本当お前、それ便利に使って生きてるよな」
「これしか取り柄がないからだよ」
「嘘吐け。その顔面でご婦人方に護衛として指名されてんの知ってるからな」
不満げに口を尖らせる仲間に笑い、「顔だけじゃ満足してもらえないけどね」と肩を竦める。
「愛とか囁いてんの?」
「当然。それがそのまま小遣いになる」
「……お前たまには自分に使えよ。全部俺らに回してるだろ」
「だって俺料理できねェもん。お前らに渡せば俺もあいつらもみんな美味い飯が食える」
青年は胸を張って言うと、「ってなワケでそろそろ行くわ」とくるりと踵を返した。
「無事に帰ってこいよ。最近東の連中が軍の上層部を狙ってるって噂だ」
「そっちこそ。俺だったらそういう噂流して手薄になったところを攻めるから」
「おい、やめろよ。お前のそれ当たるんだよ」
「ははっ」
いつもどおりの会話。いつもどおりの別れ。
これが最後になるとは、青年は夢にも思っていなかった。
§ § §
「何だよ、これ……」
屍の山を前に、青年が膝から崩れ落ちる。兵士だけではない。女子供、老人、妊婦ですらその山の一部。
中には青年の仲間達もいた。同じ兵士の仲間、それから彼らと一緒に養っていた子供達。共に暮らしていた彼らの遺体には蝿がたかり、蛆が湧き、腐り落ちた眼球が眼窩を凹ませる。
「――ああ、やはりこちらが狙われたか」
聞こえてきたのは、これまで同行していた上官の声。
「使える人材は移しておいてよかった。我々に感謝するといい、グロンダール」
その言葉が、青年に全てを教える。
「っ……」
血が沸騰するかのようだった。大事な仲間を、家族を、不要なものと切り捨てられて。
「何か問題でもあったか?」
上官の問いに笑顔を作る。怒りを微塵も感じさせない、完璧な笑顔を。
「いえ、これでいくら節約できるかなって」
立ち上がりながら望まれる答えを返せば、相手の顔に下卑た笑みが浮かんだ。