人を呪わば
どうしても呪いたい人がいるんです。
その年若い女性は、寂れた裏路地にひっそりと店を構える老境の呪術師に対してそう言った。
女性の強い意思を感じる表情を見ても呪術師は一つ鼻を鳴らすだけで、まるでいつものことであるとでもいうように淡々と自分が手助けをする呪いについての説明を始めた。
そうして説明を終えると、最後に女性に対してこう警告する。
「どんな理由があるのかは知らんが、これだけは覚えておけ。人を呪った人間は碌な死に方をしない。諺にもあるだろう、人を呪わば穴二つ、だ。お前自身もその憎い相手と全く同じように苦しむことになるぞ」
呪術師の言葉に女性はどこか困ったような曖昧な笑みを浮かべた。その表情におやとどこか違和感を覚えたが、しかし決意には変わりないと判断した呪術師はもはやそれ以上言葉を交わすとことなく女性を店の奥へと案内し、そこで呪いの儀式を執り行った。
無事に儀式も終わり、報酬としてお金を払った女性は足取りも軽く店を出る。
呪いのせいなのか頭には刺すような痛みがあり、視界は悪く、耳に届く音もどこか遠い。まるで突発的な病気になったような、そんな体調であるにも関わらず女性は鼻歌でも歌いたいほどに気分が良かった。
そして思わず口から言葉が溢れる。
「ああ、これがいまあの人が感じてる痛みなんだ。あの人が感じてる気分なんだ。ああ、ああ、愛してる人と一緒の気分になれるなんて、なんて良い気持ちなの」
自身が片思いをしている男性を呪ったその女性は、心から楽しげに笑っていた。
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