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【急募です】状態異常《共依存》の治癒方法  作者: 恒南茜(流星の民)
第一章 『無垢』なまま、焦がれていて
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03_『懐かしい関係』

広場から出て、ちょっと歩いた町外れにある掲示板。

広場にあるものは通常、混み合っているため、見つけづらい場所にあるここの掲示板は穴場みたいなものなのです。

軽いおつかいからモンスターの討伐まで、貼られている依頼は多種多様なもの。

その中でも、なるべく報酬金の高いものを探して……。


「……【フェロース・ラット】20体の討伐……これなら、ちょうどいいかもしれないです」

「……らっと……? ネズミ……?」

「ええ。ちょっと大きいネズミみたいなもの、ですね」

「それを……やっつければいいの?」

「初めての戦いならうってつけの相手、ではありますから。受けますか?」

「うん、あの武器のためだもん! えっと……これもタップすればいいの?」


わたしが頷いたのを見て、彼女は掲示板に貼られている依頼書に触れます。

そのまま出てきたウィンドウにて承諾したのでしょうか。彼女の頭上にクエストを受注した状態であることを示す、依頼書のマーカーが表示されます。


「……それでは、パーティー申請、しましょうか」

「ぱーてぃー……?」

「コンビを組んでいることのあかし、みたいなものです」


メニューバーから、パーティーをタップ。

そこに出てきた名前——《lily》に対して、申請を送ります。


「『リリィ』ちゃんで、あってますよね?」

「うん、そうそう! 《corisからのパーティー申請》……これにオーケー、だよね?」


次いで視界の左端に映っていた自身のHPバーの真下に、彼女のHPバーが表示されます。


「あ、なんか出たよ!」

「ええ、ちゃんと申請できたみたいですね。あとは……一点、確認させてもらってもいいですか?」


友梨奈ちゃんこと、リリィちゃんの横髪にそっと触れて、隠れていた耳を確認します。

さらさらとしたそれはとても触り心地の良いもの。この辺りの再現はやはり見事……と、感心している場合ではありませんでしたね。


「人族、ですか……」


彼女の耳は、丸みのある一般的なものでした。

つまるところ、妖精族である私とは種族が違うようです。

……しかし、そうとなると弊害が出てきます。

互いの領地に入ることは困難なので、拠点にするならば中立で通している街しかなさそうです。

また、その場合だと同じ種族同士でパーティーを組んだ際に得られる恩恵(バフ)も受けられないことになります。

これは、舞い上がってしまい、事前にこのことを伝えられなかった私の失敗かも……


「あの……璃子ちゃ……コリスちゃん……顔、近……」


目の前にあったのは、朱色に染まった友梨奈ちゃんの顔でした。

その、恥じらうような表情を見て、ようやくわたしは、彼女に顔を近づけすぎていることに気がつきました。


「……え、えとっ……」


何と口にすれば良いのかわからず、思わずそんな声が漏れてしまい、少しばかりたじろいだ時でした。


「わわっ!?」


思わずブーツの踵で、石畳の隙間をついてしまい、バランスが崩れてしまい、そのまま後頭部から地面に倒れ込みそうになった時でした。


「大丈夫っ!?」


すかさず、友梨奈ちゃんがわたしの腕を掴み、即座に引き上げました。

お互い少し、つんのめりそうになりながらも、何とかバランスは整い、転ばずに済んだことに安堵すること少し。


「……小さかったとき以来、だよね?」

「そう、でしょうか……」

「だって璃子ちゃ……コリスちゃん、よく転んでたもん」


そう悪戯っぽく微笑むあなたの顔は、わたしをどきりとさせるには十分なものでした。


「……ありがとう……ございます……」

「ううん、怪我がないなら問題なし、だよっ! それじゃ、出発しよ?」


ぽしょりとしか言葉は出なくて。

いつの間にやら私の手を引き始めたのは、また彼女です。


この世界でくらいなら……とは思っていたのですが、結局は、頼ってしまいます。

そんな自分がちょっぴり嫌で、でも何だか悪い気もしなくて……。

この気持ちのやり場をどうすればいいのかがわからずに、軽く首を振って今は、追い出します。


今は、友梨奈ちゃんと遊んでいるのです。

こんなことを気にしていては……きっと、楽しめません。


「……ええ、出発しましょう」


ポニーテールを揺らしながら駆け出す彼女にただ、手を引かれるままに。

わたしもまた、駆け出すのでした。


◇ ◇ ◇


◇ ◇



さえずる小鳥と、風に揺れて音を立てる木の葉。隙間から溢れる木漏れ日は非常に心地の良いものです。

『ルブレスの森』と名付けられたこのフィールドは、『はじまりの街』から少し離れた場所にありました。

元々街の周辺に広がっている草原では、スライムなどのモンスターが出現しますが、それらのモンスターは経験値効率もあまり良くない上、金策にも向きません。

というわけで、少々遠出をしてここまで来たというわけです。

そして、私たちのお目当てであるモンスターは、すでに、目の前に出現していました。


「けっこう重い、かも……これ……」


初期装備である《アイアン・レイピア》を手に友梨奈ちゃん——リリィちゃんは一言発します。

視線の先にいるのは、時々牙を見せながらも、こちらに警戒心を見せている一匹のネズミ【フェロース・ラット】。

おおよそ体長は1mほど、でしょうか。サイズとしてはかなり大きなものです。


敵も敵とて、ずっと待ってくれるわけではありませんが、【ラット】くらいのモンスターであれば、こちらから手を出さない限りあまり攻撃をしてくることはないため、ゆっくりと説明ができます。


「戦い方の説明をします。少し視線を右に向けてみてください」

「うん……何これ、スキル……?」

「最初からセットされてるものが上にありますよね……? そのまま、視線を上に向けてください」

「りょーかい……っ!?」


途端、彼女の体がシステムに手繰られ、レイピアが肩あたりで構えられます。


「なんか、体が勝手に……!」

「システムアシスト——ゲームがしてくれてるお手伝いみたいなものです。……視界に赤い円みたいなものが見えますか?」

「うん……っ!」

「それが剣先の向いている位置です。その赤い丸——剣先を《ラット》の頭に向けて、瞬きを一度、してください」


視線は真っ直ぐ《ラット》の頭部、剣先も合わせて向いています。その状態で、彼女が瞬きをした時でした。


キュィィィン!


スキルの予備動作(プレモーション)時に起きる音が静寂を裂いて。刀身を赤いライトエフェクトが包みます。

初めての動きに困惑しているリリィちゃんとは裏腹、システムアシストはきちんと働き、限界までレイピアは引き絞られ——既に、予備動作は終わったようでした。


ザッ!


刹那、強く地面を蹴る音が響き。

跳躍と共に勢いづいた剣先が【ラット】の頭部に接触するまで数瞬、当然、避ける間など与えられません。



「キュゥッ!?」



そして、頭部は【ラット】にとっては弱点。

閃いた真紅の剣閃が頭部を穿った瞬間、クリティカルを示す青い火花が飛び散り——一瞬にしてHPは刈り取られます。


かくて、ポリゴン片が周囲に飛散し、リリィちゃんの前に表示されたのは、獲得アイテムと経験値を表示するウィンドウ。

ファンファーレにも近い独特な効果音も鳴ったことから、どうやらレベルも上がったようです。


そして、当の本人はというと……


「ねぇ、今の……」


初めての手応えだったせい、でしょうか。

なんとも言い表しづらい表情で彼女は立ち尽くしています。

いくらVRMMOを楽しんでいる人が多いとはいえ、このリアリティのある感覚が気に入らないという人が多いのも事実です。

少し、恐々としながら、彼女に何か声をかけようとした時。


ツーと一度刀身をなぞって、


「……すっごい……すごかったよっ! 璃子ちゃんっ!」


彼女は、こちらに満面の笑みを向けました。

興奮冷めやらぬ状態だからか、呼び名もいつの間にやら、わたしの本名に戻っています。

けれど、そんなことを気にするよりも先に、彼女がこのゲームで、今の一瞬を楽しんでくれたという事実——


「……ええ。そう、ですよね」


——それは、わたしにとってたまらなく嬉しいものでした。

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