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神降ろしの存在召銘(アイデンティティ)  作者: 霜山 蛍
第1章.覚醒(アウェイクン)
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Act.6 存在証明(アーツ)

 さて、目の前の状況を改めて確認しよう。敵はトカゲモドキ一体。サイズは大型。距離はおよそ10メートル。攻撃手段は口から吐くブレスとビーム、前足の(ブレード)、折りたたまれた後ろ足での跳躍、尾から放たれる銃弾。そして――背中からテポ〇ン。

 ああそれだけならなんと良かったか。むしろさっきのアレを見る限り、ビームもミサイルも、1度きりのものな気がする。

 なぜって?


 ――やつの背中から、八つの小型飛行ユニットが展開されたからだ。


 いわゆるファンネルとか、ビットとか呼ばれる類のあれだろう。自立稼働して、細いレーザービームを放つタイプのあれだ。

 最悪だ。

 こちらの状況は、泉ヶ丘は毅然と鎮座しているが、息があらい。

 俺はと言うと……立つのもやっとだ。

 どうにか力を振り絞って、刀を杖にして無理やり体を起こすが、やはりあちこちが痛い。というか視界もぐわんぐわんする。

 ミサイル弾の直撃は防いだものの、余波だけで軽くこのザマだ。当たってたら死んでたぞ、マジで。

 刀を杖に立ち上がる姿は、最初にここであった時、俺が駆け出した時の泉ヶ丘そのものだ。……情けねぇ。


 どう攻略するかの思考を超高速で巡らせていると、ふと再度鈴の音が鳴り響いた。


「『鈴の……癒音(いおん)』」


 癒しの鈴の音は、俺の痛みを軽減してくれる。だが、どうやら音の正体はそれだけでは無い。

 2つ聞こえるのだ、鈴の音が。

 リンとなり響いたそれはどこか……聞き覚えのある……。


「――だらしないね。だが2人にしちゃよくやった」

 

 そうだ、あの声だ。あの妖艶で、艶やかな声。俺に名前を教えてくれた、謎の声だ。


「これは餞別だ。若い目が、こんな簡単に摘まれちゃぁ困る」


 その鈴の音の持ち主はそう言うと――俺の目の前にどこからともなく現れたのだ。


 なんてバカげた話だろうか。思い返せば刻印(キー)が刻まれた原因は、間違いなくアイツだった。


 そこに居たのは、1匹の黒い猫だった。鈴の着いた赤い首輪をした、あの時の黒猫だ。

 今朝泉ヶ丘のリボンを奪い、塀の上で寝そべっていた、去り際に俺の右手の甲に傷をつけたあの黒猫だ。


 その黒猫が、俺の方を見て、話しかけるのである。


「助けたいんだろう?彼女を。……なら、男見せな」


 そう言うと、その黒猫は虚空へと光になって消えていってしまった。

 そしてその光は俺と、泉ヶ丘の元に行き――体の中で、何らかの変化が生じたのを感じた。

 具体的にそれが何かは分からない。けれど、今はこれでいい。


「分かってるよ。……じゃなきゃ、俺は今ここにいねぇって!」


 体は相変わらずあちこち痛む。回復スキルを貰ったとはいえ、受けたダメージに回復が間に合っていないのだろう。だがそれでも――


「行くぞクソトカゲモドキ!いい加減くたばりやがれ!」


 俺は、勢いよく駆け出していた。それを合図に、トカゲが放った小型飛行ユニットから、レーザー光線が放たれる。構うもんか。それら全てを速度で無視し、全速力でヤツのふところに入り込む。

 トカゲモドキは前足を振り下ろし、行く手を阻む――が、それを先程の幻痛が鈍らせた。チャンス!


「『焔の翳り』……」   

  

 まずは腹部の下へ滑り込みながら、刀を鞘に収める。再び俺にだけ注目させるようにし、きっちりと仕事を果たす。そしてそのままヤツの腹部の下で――


「『爆炎斬』!」


 勢いよく居合切りをしてみせた。剣筋に炎が迸り、そして腹部に幾度目かの火炎を浴びせかける。そしてそのまま滑りながらトカゲモドキの後方へと抜け出すと同時に、直撃した腹部で爆発が起こった。


 ここまではさっきと一緒。むしろヤツが次から次へと知らないモーションを繰り出してこなければ、これを一生繰り返してるだけで終わるはずだったのだ。


「……『光の障壁』」


 泉ヶ丘は相変わらず動くことなく、その場で俺に何らかの支援(バフ)を付与した。

 恐らくは、障壁(シールド)――簡単に言えば、追加HPとか、一時的HPとかいうものだろうか。何にせよ、ありがたいものはありがたい。


 その後も俺はトカゲモドキの攻撃を躱しながら、弾きながら、3つ、4つ――スキルによる攻撃を乱打する。だが、まだ沈みそうにない。 

 小型飛行ユニットも鬱陶しいだけで、案外避けるのは簡単だし、当たっても痛くはない。障壁のおかげか?


 ジリ貧か?

 たしかにさっきまでだったら、そうだったんだろう。けれど、今回は違う。どうやら、あの猫が何かをしたらしい。

 気がつけば、モノクロだったはずの世界の景色に、1色だけ色が取り戻されているではないか。

 それは鮮明な赤の色。陽の光に、瓦礫の中にある様々な模様や記号、雑貨の赤。くっきりと、世界にただ一つだけの色が産み落とされていたのだ!


 そして再度、俺が『爆炎斬(バクエンザン)』を腹部に与え距離をとると、トカゲモドキは勢いよく体制を崩し――完全に苦しんでいた。


「今だよ。存在証明(アーツ)を!」


 ――再び、あの黒猫の声が脳裏に響いた。

 

 刹那、俺ではない、この刀が……火之迦具土神(ヒノカグツチ)が。ひとりでにその力を俺の脳内に、俺の両の眼に映してみせたのである。

 それは、豪炎の一撃。光にも似た火炎の一撃が、トカゲモドキの首を一刀に伏し、やがて連鎖的にその剣筋に爆撃を引き起こす光景。真紅に染めあげる、刹那の斬撃。


 ――視界が巻きもどった。


「そうか。……それが、お前の存在証明(アーツ)か!」


 見れば、世界はもはやモノクロですらなくて。――鮮明な赤が、世界をセピア色に染めていた。

 思わず、笑みがこぼれた。


「――いい景色じゃんか」


 目を閉じ、意識をトカゲモドキに集中させる。イメージするのは、刀がみせた未来(ヴィジョン)だけ。

 ――そして。俺は刀を再度鞘に収め、勢いよく前へ跳んだ。トップスピードに一瞬で到達し、瞬きする間もなくあのトカゲモドキ――色喰らい(モノクローム)を射程に収めると、そのまま刀を引き抜いた!

 ヤツの首を――刹那の斬撃を、炎舞を、豪炎を。一刀の元に全てを乗せ、斬り裂いた!


抜刀炎舞(バットウエンブ)!」


 それが、この火之迦具土神(ヒノカグツチ)が見せてくれた、存在証明(アーツ)の名前だった。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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