Act.5 奥の手(モーション・チェンジ)
――直撃したのだが、彼女に傷らしい傷が新たに生まれた様子はない。むしろ目を閉じたままで、その場に毅然とたっていた。
先程の彼女の威力とはまるで異なる。もはや別人のような……。どうなっている?
「大丈夫。……『降霊:猫又』」
そう呟いた彼女をよく見れば、彼女の背後には着物を着た猫の姿が、半透明状でそこにいた。
「『鈴の癒音』」
「なおぉぉぉん」
彼女の再度の呟きに合わせて、その猫又がひと鳴きした。するとどうだろうか。不思議なことに、俺の身体中の痛みが即座に和らぐ感覚を覚えた。
まさかこれは――
「――回復スキルか」
しかしどういう訳か、泉ヶ丘は先の攻撃ではあまりダメージを負って無さそうだったのに、この回復で傷が増えてるように見える。
どちらかと言うと、HP変換に近いのか?
なんて考えている場合じゃないか。原理や効果を考えている暇なんてあるもんか。少なくとも今は、目の前のトカゲモドキをどうにかするのが先だ。
「サンキュ、泉ヶ丘」
何れにしても、これでまだやれるということだ。
校舎はボロボロで、もはや廃墟だ。天井は穴だらけであろうことか1階から天井を通り越してドス黒い空を拝める。柱もまたボロボロで、なんなら校舎の一部は既に倒壊している。
足場はすこぶる悪く、俺たちの足元には瓦礫の山が積まれている。それでも、この力ならきっとやれる。やれるはずだ。
ビームを打ち切ったトカゲモドキは少しの静止の後、僅かな静止を見せてから再び咆哮を上げた。
そして――ヤツはその前足の刃を思いっきり地面に叩きつけた。
刹那地面が、瓦礫が。地面から浮き上がり、俺に襲いかかる。
「ここに来てまたモーション変わるのかよ!」
再度注目を浴びるように、右へ跳んで見せる。そして、壊れた柱を使って1度止まって方向を変え、そのままの勢いでトカゲモドキに一直線に跳んでみせた!
すると、トカゲモドキは首をブルブルと左右に振った。そしてそれを合図に――背中の外皮が左右に割れた。
が、構うもんか。既に距離はゼロ、間合いだ!
「『爆炎斬』!」
それは、俺が最初にやつの背中に放ったスキルだ。切断した箇所に爆撃を与える、恐らく基礎的な炎の斬撃。
それを腹部に当てながら、そのまま泉ヶ丘の方に距離をとる。
「ガアアアアアアアアア!」
トカゲモドキはまた苦しそうに吼えるが、今回はそれだけじゃない。ヤツは素早く俺に向き直り、そして――開いた外皮の中から、複数の小型ミサイル弾が飛び出したのだ!
その数、実に8つ!それらが1度宙に放たれ、そして弾道ミサイルよろしく俺たちに襲いかかる!
「んなアホな!くそっ……『熱波炎斬』!」
それは、先程から炎を射出して斬撃していた攻撃の正体そのものだ。この刀でできる、数少ない中距離攻撃系のスキルで、扱いやすい。
――のだが、威力が低いのが問題だ。瓦礫程度ならともかく。ミサイルとなると、せいぜい2つ叩き落とせれば御の字なわけで。
泉ヶ丘も雷撃で応戦するが、それでもやはり落とせて3つ。
「クソが……!」
できることと言えば、あとは悪態をつく程度である。
やがてその全てが直撃と言わずとも、何れもがどこかしらに着弾し、爆心地にいる俺たちを、あまりにも簡単に吹き飛ばして見せたのだった。