Act.4 追撃(パシュート)
トカゲモドキの先程俺が傷つけた背中に、俺たちは2人分の落下致命を与えた。
「燃えろ!」
俺が叫ぶと、ヤツの皮膚の中で爆発が生じた。
その爆風に合わせて、俺たちは距離をとる。
「……なるほどな」
何となく、コイツの使い方がわかった気がする。直感だが、それでも確信がある。
どうやらこいつは、相当なジャジャ馬らしい。
「よくスキルが出せたわね」
「勘だよ勘」
しかしこれだけやっても、まだ終わりでは終わらないらしい。
トカゲモドキは苦しそうに呻きながら――暴れ始めた!
もはや知性の欠片も無い、どれが敵でどれがオブジェクトなのかの区別すらない。ただ目に見えるものに前足の刃を振るい、後ろ足で飛び、尾でガトリングを放つ。そして口からどす黒い衝撃波を放つ。
「くそ……!」
こうなると回避と迎撃に専念するしかない。前足の刃を刀で防ぎ、飛びつきとガトリングを避け、衝撃波を炎と雷で相殺する。
それでも攻撃のタイミングはある。例えば飛びつき。身をかがめてくぐるようにして刃を上向きにしておけば、真上を通り抜ける際に刀が勝手に腹部を斬り付ける。
例えば前足の刃。弾く際にそのままついでで炎や雷を放てば、少なからずダメージは入る。
問題なのはガトリングと衝撃波だ。ガトリングはもはや俺たちを狙っておらず、常に頭上を向いている。崩れた2階の天井と、さらに上の天井。それらに少しずつ弾丸があたり、まさに瓦礫の雨が降り注いでいるのである。
「この……『雷斬』!」
その瓦礫を、泉ヶ丘が雷の斬撃で撃ち落とすが、それだと手数が足りない。
やってる事は弾幕シューティングをしながらのアクションゲーだ。さすがにでかい攻撃は喰らいやしないが、俺も泉ヶ丘も、少しずつ上から降り注ぐ瓦礫がダメージとなって蓄積されていく。
「いてぇな畜生……!」
それはあのトカゲモドキも同じはずだが、もはや気にしちゃいない。
右へ左へ、前へ後ろへ。距離をとったかと思ったら、衝撃波を撃ちながら距離を詰める。
衝撃波の威力は特に強力で、もはやビームと言っても差し支えない程である。レーザー溶接のように容易に壁に穴を開け、容易く風通しをよくする。もはや今では、校舎の端から端まで穴が空いてしまっている。
それでも確かに攻撃のチャンスはあるわけで――俺と泉ヶ丘は散会し、再び俺が錯乱したトカゲモドキの気を引くことにした。
「ほらこっち見ろよ、トカゲモドキ!『焔の翳り』!」
『焔の翳り』、それは刀の持つ炎を増幅し、肥大化させ、熱波を相手に伝えるスキルだ。少なくとも、俺はそう解釈した。
これ自体にダメージは無い。けれど、気を引くには十分なはずだ。
だが、それでもまだ足りない。
「なら次!夢幻――」
トカゲモドキが再び後ろ足に体重を乗せ、前へ突き出る。それに合わせて、俺も合わせて低く前へ跳んで見せた。
空中で斜め十字の形でぶつかる――瞬間に合わせて、その名を叫ぶ。
「――陽炎!」
それは、夢であり、幻であり、そして幻影であり。けれど確かな斬撃を伴う不可避の一撃。端的に言えば、「射程:至近」、「抵抗:必中」、「デバフ付与」の攻撃である。
それがトカゲモドキの腹部へと叩き込まれ、そのままヤツは俺の後方へと勢いのままに吹き飛んで行った。
トカゲモドキは明確に苦しんでいた。腹部から永遠と生じる痛み。それ自体は陽炎のごとく幻痛であり、きっとヤツの体力に直接的な関与は示さない。それでも、間違いなく効いている。
「ガアアアアアアアアアァァァァ!!」
トカゲモドキは再びおぞましい咆哮をあげ、そして――宙に向かってその衝撃波を放った!
「何を……!」
見れば、それは後者の天井をひとつ、またひとつと壊し、瓦礫の雪崩が降り注ぐ。否、雪崩というよりかはもはや豪雨だ。
それらをひとまず炎撃で撃ち落としている間にも、衝撃波は天井を貫き続け、やがて――空を顕にした。
黒い、モヤのような空だった。曇天のそれではない。快晴の青に黒の絵の具をぶちまけたような、そんな黒。
「おいおい……」
だが空の色にニヒルな笑みを浮かべている暇はない。天井を貫き、天を拝んだ衝撃波は行き場を襲い、そして細かく別れながら、地上に降り注いだ。
「瓦礫の次はブレスの雨かよ!冗談きついぞ」
細かく降り注ぐ衝撃波は、もはや地形という地形を根こそぎ破壊する。鉄筋コンクリート製の校舎が、豆腐か何かのようにいとも容易く崩れ、壊れ、そして歪む。
相殺するのも限度がある。というか不可能だ。それをしてなお、防ぎきれる量ではない。
それどころか、さっきのアレで完全にトカゲモドキのヘイトが俺に向いていた。
横目で見れば、ヤツはギロリとその一つ目で確かに俺を睨み、そして――再度衝撃波を放った。
問題なのは、それが打ち切り型のものでは無いということ。簡単に形容すれば、横なぎのビームだ。
「嘘だろ?!」
なんとなく、この刀の使い方がわかってきたとはいえ、緊急回避やジャストガードなんてものは多分存在しない。や、冷静に考えてなんでビームをジャスガできるわけが無いだろ、いい加減にしろ!
「クソッタレが!」
俺は一思いに跳躍し、とりあえずの横薙ぎに打ち出されたビームを避ける。しかし当たり前だが、上から降り注ぐ瓦礫と衝撃波の雨には対処ができず、あちこちに傷が生まれていく。バカいてぇ。
そういえば、とほとんど反対側にいた泉ヶ丘の方を見ると、彼女はその場で動きを止めて、目を閉じていた。降り注ぐ瓦礫と衝撃波、そして襲い来るビーム……。
「泉ヶ丘、あぶねぇ!」
彼女はそのままの状態で、天に向かって雷撃を撃ち放った。瞬間、瓦礫は粉々になり、彼女の身を守る。正面からの攻撃を、瓦礫で防御する気だ!
が、しかし。それでは足りないらしく、抵抗虚しく衝撃波とビームはそのまま、無防備な彼女に直撃した。