Act.4-6 心の内界――添野氷藍Lv.1(コンフリクト・パーク)
俺たちが観覧車の前の開けた場所にたどり着いた時、それはそこにいた。一際背の高い、そして全身を白銀の甲冑に身を包んだ、1人の騎士、アークトクだ。やっぱり右手に『そえの遊園地』のポップなロゴの描かれた旗槍を携え、仁王立ちしている。
「きたか。サイケンジャー……」
彼は観覧車の下で、その旗槍をはためかせ、荘厳を描いていた。
とういうか、君もそれに乗っかるんだ……。ならばこちらも乗らねば無作法というもの。
「あぁ、お前の悪行もそこまでだ。民事裁判戦隊サイケンジャーの名にかけて、必ずや勝訴を得てみせる!」
隣で泉ヶ丘が冷ややかな視線を送っているように見えるが、無視だ無視。良いRPのためになら、恥の1つや2つ捨て去るのがTRPGプレイヤーの流儀だ。
「ふん。そうは行くか。こちらとしても、ここで勝ち取らねば己の存在意義を失ってしまう!」
「バイパスを私道にして有料化するような存在意義なら、とっとと失ってしまえ!」
「……言っても仕方ないか」
「あぁ、俺たちにこれ以上の言葉は不要だろうよ。疾く燃え滾れ!火之迦具土神!」
俺はやる気満々と言わんばかりに、存在召銘の刀を呼び出した。
や、裁判という体なら言葉が不要では、法が意味を成さない気がするのだが。……まあ細かいことはいいや。
「ならばゆくぞ、サイケンジャー!」
「来いアークトク!我が名はサイケンレッド!灼熱の炎で、お前の罪ごと焼き付きしてやる!」
そうして、俺たちの裁判――と言うなの戦闘の火蓋が切って落とされた。
泉ヶ丘は呆れたように、ため息を付くと「雷鳴よ、唸れ、そして降り注げ、建御雷神」と存在召銘である青白い刀を呼び出した。
「行くぞ!」
珍妙な状況ではあるが、兎にも角にも、戦闘の開始だ!
「『炎迅加速!』」
俺は、叫びながら前へと鋭く跳びだした。
それは、ゲームデータ的には移動力と回避の数値に補正を与えるスキルだ。ただし、この場における効果は、より適切な表現は移動速度の上昇といったところだろうか。
一瞬でトップスピードになると、そのまま馬鹿正直にアークトクの正面を真紅の刀で切りつける――が、軽く旗槍で受け止められた。
「ぬるいな」
「だと思うじゃん?『夢幻陽炎』!」
だが気にはしない。このスキルの本質はデバフの付与であり、幻痛、そして幻の斬撃だ。つまり、実際に相手を斬りつける必要性はどこにもない。
「そして追加!『焔の翳り』!」
あとは泉ヶ丘のために、ヘイトを稼いで張り付ければ俺の仕事はひとまず終わりだ。燃えたぎる焔の熱が、アークトクの注意を引き付ける。
アークトクはあまり気にしていないのか、俺の刀を一度旗槍で弾いた。と思うと、今度は旗が燃え、そしてそのまま旗が斬撃となって、俺を襲う。避けれない――が、避けれないならば、刀で『弾き』切ればいい!
「何……!」
俺はあのあと、スキルを選ぶ上で、ビルドの方針を考えることとした。その上で、TRPGとの大きな違いは、必ずしも複数人でダンジョンを攻略するとは限らない、という一点にあると考えた。
ならば、成長を考える上で必要な条件は、ある程度の自己完結型である。
しかしクラスの特徴として、侍はタンク向きのクラスであり、そして自己ヒールの類はあっても微々たるものである。
そこで俺は、1つの方針を導き出した。即ち――
「これが回避ビルドの真価!『刹那の風刃』!」
俺が選んだサブカラーは、緑だ。そして侍の緑のスキルには、回避に関する効果を持つものがいくつかある。これもそうだ。
俺がアークトクの炎の斬撃を弾くのに合わせて、俺の周囲から風刃――いわゆる鎌鼬だ――が現れ、そしてアークトクを切り裂く。
「ぐ……」
たまらずアークトクは即座に後ろにステップを踏む。が、それを見越して真横から泉ヶ丘が迫り行く。
「『雷斬』!」
そして、彼の無防備な横っ腹に雷撃の斬撃を放つ。
アークトクは不意を疲れて、体制を崩した。隙だらけだ!
「『爆炎斬』!」
俺はその隙だらけのアークトクに、すかさず追撃を与える。炎の斬撃の後に、少し遅れて派手な爆発が彼を襲う。手応えあり(クリティカル)だ!
「ば、ばかな……流石だな……サイケンジャー……」
アークトクは、派手に後ろに吹っ飛ぶと、息も絶え絶えと言った感じで膝をついた。見れば、全身を覆う白銀の鎧はあちこちにヒビが入っている。旗槍も、旗は燃えて焦げ落ち、それどころかあちこちにヒビが入っているようにみえる。
俺と泉ヶ丘は油断せずに、すぐさま追撃のか前を見せる――が、それをアークトクが左手で制した。
疑問符を浮かべる俺達に、彼は鎧の下でたしかに笑みを浮かべた。少なくとも俺には、そんなふうに見えたし、感じた。
「お前たちの……勝訴だ、サイケンジャー……」
彼がそう言うと、彼の持つ旗槍は砕け散り、それと同時に彼もまた砕け散り――やがて地面に黒のインキが染み込むかのように、消え去ってしまった。
「……だそうだ」
「えぇ。お疲れ様」
前回の戦闘に比べるとあっけないようにも思えるが、これはいわゆるミドル戦闘と言われる部類のやつなのだろうと思った。
ところで軽く解説すると、『弾き』はゲーム効果的には、1ラウンドにつき1回まで、回避判定を命中で行うことができるものである。ただし、リアル的に話せば要は無制限のパリィだ。このスキル自体はクラス制限のない基本クラスだが、タンク役としては非常に扱いやすい便利スキルだ。
そして『刹那の風刃』は侍の緑のスキルで、回避判定の成功に誘発して相手にダメージを与えるもの。それ自体のダメージ量は決して多くはないが、それでもラウンドや手番の概念がないただの戦闘に置いては細かなDPSとして機能する――はずだ。
渡されたルールブックはあくまでTRPGとしての色使い(コンダクター)のデータが乗っているが、実際にはその限りではないのだから、色々と不安ではあった。が、手応えは確かに感じた。
「うまく行ってよかった」
「えぇ。すっかり色使い(コンダクター)として順応しているように見えるわ」
「それならばよかった」
などと俺と泉ヶ丘が話していると、ふと拍手が1つ聞こえてきた。
「よくぞアークトクをたおしてくれた。ほめてつかわすぞ!」
このロリ添野ともお別れなのかと思うと、少し寂しい気もする。が、それはそれだ。どちらにしても、現実で苦しんでる添野を助けなければ、ひょっとしたらこのロリ添野も、概念から無へと昇華してしまうかもしれない。
俺は肩をすくめると、武装を解除して、口元に笑みを浮かべた。
「――やれやれ」
まあ何にせよ。『そえの遊園地』に栄光あれ、だ。
マダミスのシナリオを書くよう脅されてるので、暫く不定期更新になります。ご容赦を