Act.5 解読(リーディング)
それからあの後は、色々疲れたのと、手を繋いだことに照れを感じたのか、2人して同時に解散を提案して、そのまま帰路に着いた。
問題があるとすれば、俺たちはあの廃墟で気絶するように手を握ったまま倒れていたことだ。
手を握り続けてたということもさることながら、要は草木生い茂る地面をベッドにしていたわけであり。時間自体は30分も経っていなかったとはいえ、硬く汚い床なわけで、あちこち痛いわ制服に泥が着くわで案外大変だった。主に、後者に対する親の説教が。
まぁそりゃ、新学期のクリーニングしたばかりの制服をああも汚されちゃな……。
そして驚愕の事実として、帰宅時刻の19時過ぎには既に、ポストにレ○ーパックが投函されていたことだ。それも3つ。あまりにも早すぎる……。
てか何で3つ?
そんなわけで、夕食と風呂を済ませたここからはルルブ解読の時間だ。
自ら買ったルルブを読むこの時間は、とてつもなく楽しい時間だが、これは貰い物だ。そもそもルルブと呼べるかすら謎だ。あまりワクワクはしない。
――が、実際に読み始めると時間が解けていた。俺ってば、あまりにも単純すぎる。
「マニュアルって言うから何かと思えば……」
結論から言って、これはれっきとしたTRPGのルールブックだった。それもやろうとすれば、キャラクター作成からできるようなもの。
全部を書くのはアレなので、簡単にキャラシの組み方、特にステータス周りを以下に列記する。
1.感情の系統を選択する
2.クラスを選択する
3.FP3点を自由に割り振る
4.状況1~3で出たステータスを合算する。
以上だそうだ。つまりは感情の系統ってのは、言ってみれば種族データの代わりなんだろうと思った。
ちなみに初期のスキルポイントは15だそう。
さてこのクラスというものだが――
「まさかサプリ付きとはねぇ」
俺は思わず苦笑した。
まず、この基本ルルブの収録内容は基本のルールと用語集、そして遊ぶ上で必要なデータなのだが。このデータの範囲が問題だ。
まずこのクラスには、大きくわけて3つ存在する。ちなみにクラスは、わかりやすく言えば職業で、泉ヶ丘の言う通り武器毎に体系化されている。
1つ目は基本クラス。2つ目は上級クラス。そして最後がハイブリッドクラスである。
そしてこのクラスにはそれぞれ「色」というカテゴリで分類されている。色は無、白、黒、赤、青、黄、緑の7色からなる。そして、クラススキルはこれら7色×10の70種類が基本セットとなる。
基本ルルブには、このうちの基本クラス全10種類と、どのクラスでも習得できる一般スキルを含めた11種類が収録されている。
要するに、11×10×7の、計770のスキルが収録されているわけだ。
ちなみにこれはかなり多い部類である。今どき大手のTRPGでも基本ルルブでここまでの量は出さない。
さて俺のクラスはなんだったか。本に挟まれていた俺自身のキャラシをみれば、そこには侍(大和戦士)とあった。残念ながら、基本ルルブに記載があるのは大和戦士のみだ。
そこでこの2冊のサプリメントが役に立つ。1冊は「カラー・コンダクター上級ルールブック」、もう1冊は「カラー・コンダクター クラスブック」。
前者上級ルールブックには細かい装備品や、ハイブリッドクラスが乗っており、比較的薄い。そして問題のクラスブックには――
「上級クラス、近接武器クラス11種、射撃武器クラス8種、魔法武器クラス8種……27×10×7種類……?」
思わず笑いそうになる。多すぎだろ!事実、クラスブックの厚さは基本ルールブックよりも分厚い。
実に1890種のクラススキルがそこには記載されていた。ちなみに上級ルールブックには3クラスと追加の一般スキルの280種類しか収録されていない。いや、それでも多いけど。
要するに、なんとこのカラー・コンダクターとかいうTRPG、約3,000ものスキルが存在するらしい。
「馬鹿げてる……」
これがただのTRPGだったら、どれほどまでに良かったか。残念かな、これは現実に起きたことをルルブ風味にされただけなんだよなぁ……。
さて、本題である。どのスキルを選択するか、だ。
その前に、俺はパーソナルカラーを現状1つしか選択していないらしいが、どうやらこれは特別なクラス以外2つ目を指定できるらしい。
ちなみに色事の特徴はない。あえてバラけさせてるらしく、例えば赤ひとつとっても、あるクラスでは攻撃、あるクラスではサポート……と言ったように特徴が異なる。
「色から指定ってなると、選択肢が増えるよな……」
許せ、キャラシを組むのは楽しいんだ。
自分にどこか言い訳しながら、別に今すぐ急ぐこともないだろうと思いながらも――データの海に消えるのであった。
――忘れてはいけないのは、昼に戦闘して、夜は泉ヶ丘と新人教育という名の軽い決闘をしている。
要はかなり疲れていたはずだ。
だからだろうか。俺の意識がどこで途切れたのか、俺にはわからないでいた。