第1話 リストラされてしまったんだが
初作品です。お手柔らかにお願いします。
ピピピッピピピッ…ピピピッピピピッ…ピッ
「もう朝か…」
アラームを止めゆっくりと起きる。
今日も仕事の為、朝から出勤の準備をする。
オレの名はルナス・フォン・スレイン・テンカワ。23歳
住んでる国はアスレイア王国というところである。
いちおう貴族の家系ではあるがオレは3男なので兄達がいなくならないと家は継げない。
なので王都の南にある商業都市キュウレクというところで警備傭兵の小隊長をしている。
しかし商業都市というだけあって人口も多く警備隊員も溢れているため昼過ぎには仕事も終わってしまう。
昼過ぎに仕事が終わるということは、もちろん給金もあまりもらえず仕事が終わってからは都市の外で狩や採集などをして生計をたてていた。
どっちかというと狩と採集のほうが実入りは良い…
給金だけでも生活はなんとかできるがやっぱり欲しいものがあるときに買える方がいい。
なぜ、狩と採集に絞らないかというと職業についていないとこの国ではニートだのすねかじりだのと
風評が悪いからである。
だが最近は狩、採集、魔物退治などで生計をたてるものも増え「冒険者」という職業も定着しつつある。
違う国ではすでに冒険者はひとつの立派な職業になっているのだが、この国は最近やっとという感じだ。
オレの仕事は都市内の警備、巡回、出入口の検問の管理である。
小隊長という肩書もあり基本的には書類仕事と部下の教育。指導が多い。
たまに冒険者が処理できない魔物の討伐任務があるくらいである。
「おはようございます…」
出勤準備をすませ警備隊兵舎へいく。
「おはようございます!テンカワ隊長。
レイナード大隊長が出勤したら大隊長室まできてくれと言ってましたよ」
朝から元気な声で挨拶してきたのはオレの部下で事務員のイーネ・シュレットハウトという
18歳の女性隊員である。ロングヘアの眼鏡をかけた知的美女という感じだ。
「大隊長が…また魔物討伐かなあ…」
覇気のまったくない声で答える。
「なんか大事な話があるとか言ってましたよ」
「いやな予感しかしないな…。とりあえず行ってくるわ…」
「はい。行ってらっしゃい」
コンコン…「失礼します」
ノックをし大隊長室に入る。
「ルナス・フォン・スレイン・テンカワ参りました。」
大隊長は警備隊の役員でオレの上司にあたる。念のため丁寧に挨拶する。
大隊長の名はガルツ・フォン・レイナードといい貴族の次男であるが本家とは独立しており
自分の貴族家を持っている。
「おお、来たかルナス。待っておったぞ。」
大隊長はニコニコとしているが、こういう時は大抵ろくでもない話なのである。
「はい。なにか重要な話があるとか…」
「うむ…、まぁ座れ…」
急にマジメな顔になる大隊長。
(オイオイ…なんだよ…初パターンだな…いつもならニコニコ顔のままこれやれあれやれ言ってくるのに…)
「実はな…4部制から3部制になることになってな…お前の小隊なくなるんだわ…悪いな!ハハハ」
なんということでしょう。リストラ通知です。
「な、な、なんですってぇぇぇぇ!…オレ無職ですか!?クビぃぃぃ!!」
ついうっかり大きい声を出してしまった…
「まぁまぁ、落ち着け…、お前の実力はわかっている。しかしな他の者も戦闘力の高い者が多いと仕事の分配も少なくなり生活できないものが増えてきているんだ。今回の人員整理は冒険者業も兼任している者からの選出者が多い。お前だけではないのだ。」
「実力の高い者だけ残すと整理者が多くなりすぎる。しかもお前の実家は貴族だろう。国と会社の方針で生活のきつそうな隊員を多めに残すとなったのだ…」
つまり、冒険者や他の職業につけそうな者がリストラで、警備隊員をクビになると生活できないものが残るということである。
「いやいや、貴族といっても自分はもう家を出ててなんの実権もないんですが…」
「いや、しかしな。もう決定事項なんだ…。すまないな!ハハハ!労働法にのっとって2月分の給金は支払おう。イーネに言ってもらってから帰ってくれ…ハハハ。」
マジでリストラされるようです…。人員整理とかなんなんだ…とりあえずなんで急に人員整理になったのかだけでも聞いておくか。
「ところで大隊長、なぜ急に人員整理が行われることになったんですか?」
「んー…、まぁお前には言っておくべきか…、王都の本社から冒険者が正式に職業に認定されるので冒険者で生計を立てれるものはできるだけ冒険者に促し魔物等の素材を国に貢献できるようにしろと通達がきてな」
なるほど、つまり魔物の素材が国で必要になってきているということか。
「それでなわたしはお前は残して中隊長に引き上げようとしたんだが、本社が国から圧力を受けたようで、お前は整理という通達が名指しで…」
名指しってオイ…、もう誰の仕業か大体検討がついていたが、ここは聞かずにはいられない。
「国から圧力って誰からですか…?」
「…お前の兄だ、ハルト・フォン・スレイン・テンカワ伯爵だ…」
「やっぱりかぁぁぁっぁ!!クソ兄貴ぃぃぃぃ!!」
また大きな声を出してしまった。これは文句のひとつも言いにいかないといけない。
まぁオレが文句を言いに実家にいくのも想定済みだろうと思うが…
実家にはもう帰るつもりはなかったが、ここまで手を回すということはオレを呼び戻さないといけない理由があるんだろう。っていうか普通に手紙でも送ればいいのに権力使ってオレを無職にしてまで呼び戻そうとするとは…
「…失礼しました…。」
「お、おう元気でなー!ハハハ」
大隊長室を出て事務室に戻る。
「おかえりなさい、テンカワ隊長。なんか大きな声だしてましたけど…なんかありましたか?」
イーネが不安そうに聞いてくる。
「あー…、オレリストラらしいわ…。2月分給料もらって帰っていいって言われたわ…」
「えええっ!ちょっと私きいてないですよ!?」
いつも冷静なイーネが焦っていた。
「いや、急に本社からの人員整理らしくてな」
「えっ?じゃあ私もリストラに…」
さらに不安そうになるイーネ
「それはないんじゃない事務員少ないし…とりあえず2月分の給金もらっていいかな?」
もらえるものはもらわないとやってられない。もう出勤しなくていいみたいだし…
「ちょっと待ってくださいね。(カチャカチャ)」
イーネが使っているのは魔導電子総合機という事務仕事には欠かせない魔力で動く機械である。
画面と数十個のボタンがついており、いろいろな機能がある。通称はパソコンというらしい。
「あっ、いまこっちにきてますね。隊長のやつは…50万レンですね。いやにキリがいいですね」
キリがいいのとちょっと多いな。大隊長がいろをつけてくれたんだろう。
オレの本来の給金は基本約22万レンである。一般隊員で18万、中隊長まであがれば副業をしなくても十分くらいにはなる。
ちなみにパン1個で100レンくらい、飲食店で食事をすると600レンから1000レンくらいである。
「テンカワ隊長、お待たせしました。こちらが2月分の給金と今月分の給金の合算分の明細になります」
イーネから明細をもらい金額を確認する。
(ん、今月分もちょっと多くなってるな…、まぁクビだけど…)
「ありがとう。いつもの口座に振り込んでくれ」
口座というのは、王立銀行の口座である。この国で一番大きな銀行で国立なのでつぶれる心配もほぼないので、国民は基本1口座は王立銀行で口座を作成する。口座を作成するとカードが発行され基本そのカードで買い物等ができる仕組みになっている。
「かしこまりました。でも、寂しくなりますね…。隊長がいなくなると…」
少し落ち込んだ様子でイーネは返事をする。
「落ち着いたら食事でも誘ってくださいね。」
「ああ、王都に行くから帰ってきたらな」
イーネが食事に誘ってくるとかあるんだな。まぁ社交辞令だろうが。
イーネはかなりもてるが誰の誘いものらないので新隊員以外はもう誰も誘わなくなっていた。
もちろん自分から誘うこともない。ということはやっぱり社交辞令だろう。
「お待ちしていますね。お元気で…」
かなり落ち込んでいるみたいだが、オレは家に帰ることにした。
王都にいくなら家をどうするかが問題だな。帰ってくるのがいつになるかわからないし。
家賃は口座から引かれるが住んでいないのに家賃を引かれるのもツライし。
荷物は魔導鞄に入れておけばいいだろう。
魔導鞄はパソコンと同じ魔道具でなんでも出し入れ可能な鞄である。少し値ははるが一つ手にいれてしまえばずっと使えるのである程度無理しても手に入れた方がいいとされているがある程度魔力がないと容量が少なくなってしまう。簡単に言うと魔力量に比例して鞄の容量が変動するということだ。
そして、鞄に使用者を登録すると登録者しか出し入れできなくなるので盗難や強盗されにくい。
だが登録可能な魔導鞄はさらに値がはるという欠点がある。
オレの持っている鞄は先祖からの遺産であるのでオレは1レンも出していない。
実家を出るときに遺産を一つ選んでいいとのことだったので魔導鞄にしたのだ。
「帰る前に家主のとこでも寄っていくか…」
「すいませーん、103号室のテンカワですが」
家主の家はオレの住んでる住宅の隣にある。
「はいはい。テンカワさん、どうしました?」
家主のメイドが対応してくれる。
「実は、王都に行くことになりまして、部屋の契約解除をしたいのですが…」
リストラの件は言わない、言えるわけがない…
「まぁ、そうなんですね。いつ頃出られるのですか?」
「来週には向かおうと思ってまして…」
「えっと…今日が22日なので…今月分で終了でよろしいですか?」
ひと月が約30日で1週間が7日である。ひと月の家賃が6万レン。
「そうですね。それでお願いします。荷物は出るときにはすべて出しておきますので」
「かしこまりました。旦那様にお伝えしておきます。」
「挨拶させて頂きたいのですが。いらっしゃいますか?」
「それが旦那様も王都に行っており、今月中には戻られません」
「そうですか…。長い間ありがとうございました。よろしくお伝えください。」
「かしこまりました。テンカワ様もお元気で…」
いまの住んでいるところは警備隊に入ってから住んでいたのでもう6年以上住んでいた。
契約解除の申し込みを終え部屋に帰ることとする。
「ただいまー…」
といっても誰もいない。
とりあえず、普段使わない荷物を魔導鞄に全ていれていく。
今日はもう狩はいいか…
給金も多めにもらったし…もらったし…
焼肉でも食いにいって寝よう。
いつもは狩で上手くいったときなどに焼肉にいっていたが、今日はやけ酒ならぬやけ焼肉だ。
焼肉だけに…むなしすぎる…。
しかし、リストラかぁ。兄貴のせいとはいえ何か裏があるんだろう。
まぁ王都に行って話聞くしかないか。
こうして急にリストラにあってしまったオレは部屋も解約し王都に向かうことにしたのである。