09.後編 確かな友情が芽生えました
「エレナ嬢、この前はありがとう」
図書室で本を読んでいたら、ルカリオ様に話しかけられた。
「今日はシャルロッテ様は一緒じゃないんですか?」
「今新しい本を探しに行ったよ」
なるほど、彼の目線の先には笑顔で本を選ぶシャルロッテ様がいた。
「あれから、エレーナ様はどうですか?」
「俺が全く相手にしないから、諦めたみたいだ」
「それは、良かったです」
厄介事がなくなったと晴れやかな笑顔が私に向けられた。
『普通のご令嬢は、それで勘違いするので、やめた方がいいですよ』と目で訴えておいた。
彼はスッと目を逸らして話を変えた。
「そういえば、クライシス達の所にも来なくなったよ」
「良かったです。心配していたんですよ、手紙の内容がかなり怖かったので」
「あの思い込みの凄さは、シャル以上だな」
「比べてはいけません。シャルロッテ様は可愛い思い込みです」
「それは分かってる」
「まあ、ルカリオ様にとっては、厄介な思い込みもありそうですけどね」
「そうなんだよ!聞いてただろ?俺とエレーナ嬢を見て素敵な物語のワンシーンだとか、ありえない」
「そこで、怒らないで話を聞いてあげたルカリオ様は、偉かったですよ」
「何だか子供扱いされている気がするな」
「まさか、よく我慢できたなって関心していますよ。だから最後にご褒美あげたじゃないですか」
「あれは、本当にありがとう」
ルカリオ様に素直に感謝された。
シャルロッテ様の事になると、本当に嬉しそうだ。
「ちゃんと愛されているんですから、物語の中の人に嫉妬しないで下さいね」
「善処するよ。でも、よければエレナ嬢もシャルロッテの本の話し相手になってくれると助かる。流石にヤツの話をずっと聞かされるのは辛い」
「いいんですか?シャルロッテ様と本の話をする友達になっても」
「もちろん」
「まあ!ルカリオ様から許可してもらえると思っていませんでした。私はシャルロッテ様の側にいてもいいと、認めていただけたんですね」
彼はシャルロッテ様の交友関係に口は出さないだろうけど、彼に認められなければ、二人で遊ぶ事はできないだろう事は分かっていた。
だから、こんなにすぐ認めてもらえるとは、思っていなかったんだけど。
「アリアーネから話を聞いた時からな」
「え?」
「最初からエレナ嬢の事は認めていたさ、でなければ俺が相談しに行くわけがないだろう」
こんな疑い深くて、シャルロッテ様の為にしか動かないような人に、認めてもらえていたなんて!
私は、商談が上手くいった時のような高揚感につつまれた。
嬉しいーー!
「さて、姫がそろそろ本を選んだみたいだな」
シャルロッテ様が、持てるギリギリの量の本を抱えていた。
あれ以上は、一人では持てないわね。
「姫様愛されてますねぇ」
「エレナ嬢の王子様は、俺と違って我慢強いよな。俺なら他の男と二人で話していたら、誰であろうと間違いなく間に割って入る」
「え?」
突然意味のわからない事を言われた。
私の王子様?誰の事?
私が困惑していると、ルカリオ様は意外そうに言った。
「何だ、違うのか?さっきから睨まれているんだが」
言われて周囲を見回すと、いつもと変わらぬ光景が見えるだけだった。
「心当たりがありませんが」
「無自覚か、いや、これは考えすぎて気持ちが迷子になってるな。昔の俺を見ているようだよ」
「何の話ですか?」
「友としての助言だ、考え過ぎないで素直な気持ちを相手に伝える事。今は何の事か分からなくていいから、その時になったら思い出せ」
「分かりました、心に留めておきます」
「じゃあ、俺のお姫様を助けに行くよ」
そう言って、ルカリオ様は謎の助言を残してシャルロッテ様の元に向かった。
ルカリオ様は、誰の事を『王子様』だと言ったのかしら?