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私も恋していいですか?  作者: ぽち焼きタマゴ
第2章 幼馴染から婚約者になった人達
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06.それは、私ではありません

短編『それは、私ではありません』


連載用に加筆修正した物です。

「クライシスに、ハンカチを送りつけたのは貴方ね!」



 ランチに行く準備をしていたら、綺麗な巻き髪の可愛いご令嬢に目の前で呼び止められた。



「それは、私の事でしょうか?」


「そうよ!クライシスがピンクの髪の令嬢だった、って言ってたもの」



 最近どこかで聞いたような言葉だった。

 ピンクの髪だけで、私だと断定しないでほしい。



「他の特徴を何か聞いていらっしゃいますか?」


「目が大きくて、多分一般的に可愛いピンクの髪の令嬢?って言ってたわ!貴方の事でしょ」



 これは褒められたの?あまり嬉しくないけど。

 面倒だけど誤解を解かないといけないわね。



「私は、クロニア男爵家長女のエレナと申します」


「イステリア伯爵家長女のアリアーネよ。これを見て、貴方がクライシスの席に置いたのよね?」



 そう言って、彼女はハート柄の袋を私に押し付けてきた。

 中には、緑のチェックのハンカチとカードが入っていた。


 ◆◇◆


 クライシス様


 私のハンカチを拾ってくれて、ありがとうございました。

 お礼に、貴方に似合う素敵なハンカチを見つけたので贈ります。


 普段無表情な貴方が見せてくれた笑顔の意味。

 何も言われなくても、私は分かっています。

 また会いに行きますね。


 あなたのエレより。


 ◇◆◇


 と、カードに書いてあった。

 エレで止めないで、名前はちゃんと書いてほしい。


 やっぱり彼女だったわね。

 エレーナ・アズロニア男爵令嬢。

 私と似た顔と髪色を持つご令嬢、実はかなり遠い親戚なんだけど、面識はないので他人でいいと思うの。


 ピンクの髪と言っても、濃淡が全く違うのよ?

 彼女は濃いストロベリーピンク、私は淡いベビーピンク。

 目の色も違う、彼女はピンク、私は濃いグリーン。


 よく見れば違うと分かると思う。

 でも、彼女があまりにも非常識なので、見ていられないのかもしれないわね。



「それにしても、酷い文章ですね」


「ピンクの髪の"エレ"って、貴方の事じゃないの?」


「違います。これを私が書いたと思われるなんて……、耐えられません」


「そうよね、普通の人なら耐えられない文章よね。これを見た時、鳥肌が立ったわ」


「分かります。これを書いたのは、第八クラスのエレーナ・アズロニア男爵令嬢だと思います」


「そうなの? 第八は校舎が違うから分からなかったのかしら。ピンクの髪の令嬢を知ってるか、って皆に聞いたら、第一 クラスのエレナ様だって言われたから……。よく確認もせずに責めてしまったわ。ごめんなさい」


「気にしないで下さい、最近間違えて私の所に来てしまう方多いんですよ」


「ありがとう。それにしても、ハンカチを拾ってもらっただけで、こんなに勘違いできるなんてスゴイわね」


「何も言われていないのに、相手の気持ちを決めつけてますね。分かってるって何をでしょうね?」


「本当に!エレナ様、よかったら話を聞いてもらえる?困ってるのよ」


「ランチを一緒に食べながらでよければ聞きますよ?」



 私達は中庭に移動した。

 私は家からお弁当を持って来ている。

 アリアーネ様は、食堂でサンドイッチを作ってもらっていた。

 椅子に座ると、アリアーネ様は勢いよく話し出した。



「それでね、手紙やハンカチを贈って来るの、これで三回目なのよ」


「これを三回もですか?」


「クライシスは私の婚約者なんだけど。最初の時は、彼に突然手紙を押し付けて、一人で話すだけ話して帰って行ったから何も言えなかったらしいのよ」


「断る隙を与えず去って行ったんですね」


「その後は、手紙の事が気になって私が彼とずっと一緒にいたから、直接渡すのは諦めたみたいなんだけど」


「それで、二回目以降は机に手紙が置いてあったんですね」


「いつのまにか置いてあるのよ?怖いわ」


「何とかしたいですね」



 目の前で独り言を聞かされたクライシス様、お気の毒に。

 もはや恐怖の手紙ですね。

 何か回避できる方法はないかしら?

 二人で難しい顔をして考えていると、アリアーネ様が声をかけられた。



「アリー、大丈夫?」


「クライシス!大丈夫よ。今エレナに相談していたの」



 クライシス様はエルスタ公爵家の長男だそうです。

 エレーナ様は、ずいぶん無謀な挑戦をしていますね。



「エレナ嬢、アリーの話を聞いてくれてありがとう」


「いえ、私もアリアーネ様とお話しできてよかったです」


「今あの手紙の事を話し合ってたの」


「アリー、ありがとう。でも、次に会ったら僕がちゃんと断るから大丈夫だよ」


「でも心配よ」


「心配してくれ嬉しいな」


「当たり前でしょ、婚約者なんだから」


「うん、大好きだよアリー」



 私は、何を見せられているんでしょうか?


 でも、お互いを想い合う姿は素敵ね。

 これがストアール学園が求める恋愛婚約の理想の姿なのかしら。

 どこをどう見ても、エレーナ様が入り込む隙間はないと思うんだけど、クライシス様も幸せそうに微笑んで?!

 もしかして……。



「クライシス様、エレーナ様のハンカチを拾った時に、アリアーネ様の事を思い浮かべませんでしたか?」


「そういえば、拾ったハンカチに猫の刺繍がついていたから、アリーが好きそうだなと思ったよ」


「それです!それが原因で彼女は、クライシス様が自分に笑顔を向けてくれたと勘違いしています」


「そんな事で?」


「普段笑顔を見せないクライシス様が、『私だけに笑顔を見せてくれた、私の事がきっと好きなのね!』って彼女は思っていると思います」


「どうすればいいのかしら?」


「簡単ですよ、お二人でエレーナ様の所に行って、手紙とハンカチを返してくればいいんです」


「それで諦めてくれるの?」


「クライシス様がいつも通り、アリアーネ様とお話ししている所をエレーナ様に見せれば誤解は解けますよ。第八クラスまで行って話すと、より効果的だと思います」


「わかったわ、やってみましょう。エレナ様、話を聞いてくれてありがとう。また一緒にお話ししましょうね」


「エレナ嬢、ありがとう」


 そう言って、二人は第八クラスに向かいました。


 普段は、無口で無表情なクライシス様が、饒舌で笑顔になるのはアリアーネ様の前でだけ。

 それを見せられたら普通の人はすぐ間違いに気づくだろう。

 しかも、クラスメイトの前で手紙を返されたら、恥ずかしくてもう同じ事はできないわよね。



 それにしても、本当に二人は仲がいいわね。


 幼馴染から婚約者になる。

 でも多分私達とは違う、政略ではなく恋愛による婚約。


 学園が恋愛結婚を推奨する理由が、少し分かった気がした。


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