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私も恋していいですか?  作者: ぽち焼きタマゴ
第1章 婚約契約の破棄
4/30

04.これは完全に予定外ですわ

短編 『これは完全に予定外ですわ』


連載用に加筆修正したものです。

 先日、幼馴染のディメオス・オルケリア伯爵令息に、婚約の契約を破棄された。


 婚約の約束は白紙に戻され、ディメオスの有責による破棄という事で、契約していた通り男爵領から王都に向かう伯爵領の通行料が無料になった。

 これにより、運搬費が大幅に減った事で、男爵家の全ての事業が増収増益となった。


 対照的に、男爵領から通行料が取れなくなった伯爵家の財政状況は大きく傾いた。

 男爵家と縁戚になれば、契約にあった通行料の無料化の対価として、結婚後に私が伯爵家で新事業を立ち上げて、それ以上の利益が出るはずだったのに……。


 伯爵家が潰れなかったのは、男爵家の事業として、伯爵領で新事業を計画したからだ。


 あくまでも男爵家の事業なので、通行料には及ばないけど、領地を維持するくらいの税収は見込めた。

 伯爵家を継ぐであろうディメオスの弟リオルの為に、手助けをした形で穏便に婚約の契約破棄の件は片付いた。



 ーー穏便に片付け過ぎたのが悪かったのかしら。

 学園の図書室で、本を読みながら考える。

 私の向かいの席では、ディメオスが教科書を片手に課題に取り組んでいた。赤点の補習課題だ。


 彼は伯爵家から見捨てられないように、私の助言を真摯に受け止めて今回の試験に挑んだ。

 けれど今までが下位争いだったので、少し勉強した程度で順位が上がる事はなかった。

 それでも、赤点の数が前回より減った分だけ努力はしたのだろう。


 彼に目を向けると、飼い主に気にかけてもらえた子犬のように目を輝かせた。「頑張ってるよ、見て見て!」と幻聴が聞こえてきそうだ。


 気にしないようにしていたけど、やはり読書の邪魔になるので話しかけた。



「ねぇ、何で私の前に座るの? 空いてる席はまだあるわよ」


「いいじゃないか、俺とエレナの仲だろ」


「エレナ様のお側にいると、私やる気が出るんです」



 ーーどんな仲だ。

 あまりに無神経な幼馴染の物言いに、さすがにイラッとした。

 そして、ディメオスの隣りに座る令嬢の言葉に、私の口元が引きつる。


 彼女は、私達の婚約契約破棄の当事者、メリサ・ルワルズ伯爵令嬢。

 ルワルズ伯爵家の領地は王都から西側にあり、私達の領地の対角に位置している。


 去年ディメオスと同じクラスで親交を深め、恋人同士だと噂されていた。実際に休みの日には、よく二人で街に行きデートをしていたので、噂は真実だった。


 メリサ様は正義感が強く、真面目で努力家で勉強もできる。今もディメオスの隣りで、授業の復習をしていた。

 そんな彼女が婚約者の居るディメオスと何故?と思うだろう。

 それは、全部ディメオスのせいだった。

 彼は、私と婚約していた事を忘れていたのだ。


 正確には、ディメオスが学園卒業後に二人は婚約すると、約束をした契約を両家で結んでいただけなのだが。

 トラブルを回避する為に、学園ではお互い婚約者が居る事にすると口裏を合わせていた。それを全く覚えていなかったのだ。


 私が入学して半年後に届いたオルケリア伯爵家からの手紙を読んで、ようやくその事を思い出したらしい。

 単純素直だけが取り柄のディメオスは、隠す事なくメリサ様に婚約者が居た事を話した。契約の事は忘れたまま。


 真面目な彼女は私に謝ろうと、彼から特徴と名前を聞いて、急いで一年生の校舎に向かった。


 ところが教室に着く前に、私に良く似た容姿のエレーナ・アズロニア男爵令嬢が、裏庭でどこかの令息とキスしているのを目撃してしまう。

そして、彼の婚約者は多くの殿方を(たぶら)かす悪女だと勘違いしてしまった。


 それをディメオスに話すと、単純な彼は何も調べる事なく私に婚約破棄を宣言しに来た。

 これが、婚約の契約破棄に至るまでの真実だった。


 

 私は、ディメオスの言葉には反応せず、メリサ様に話しかけた。



「ディメオス様が元婚約者と一緒に居るのは、お嫌でしょう?」


「いいえ!むしろ私が、エレナお姉様とご一緒したいので」



 ーーあなたの姉になった覚えはない。

 ディメオスの事を嫌味半分で弟みたいだ、と言った事を覚えていたのか、メリサ様の突然のお姉様呼びに戸惑う。


 彼女もある意味被害者だ。

 婚約者が居ると知らずに、ディメオスの事を好きになってしまったのだから。


 そして、真実が分かっても、彼が伯爵家を継げないと分かっても、メリサ様はディメオスを見捨てなかった。

 本当に彼の事が好きなのだとわかる。

 だから、私は彼女を嫌いになれない。


 それに弟妹が欲しかったのは本当で、私はそれに弱い。

 今の所その対象は、ディメオスの弟リオルしかいないけど『お姉様』と呼ばれると絆されてしまいそうになる。



「メリサ嬢の方が、エレナちゃんより年上じゃんか」



 突然背後から軽い調子で声をかけられた。

 振り向くと、そこには白銀の髪と真紅の目をした、サージス・スワリエ侯爵令息が立っていた。



「サージス様! 私とエレナお姉様との会話に割り込まないでいただけますか? 」


「だから、お姉様じゃないだろ?エレナちゃんも困ってるじゃん、ねぇ?」



 そう言って、私の顔を覗き込みながら隣に座る。

 確かに困っていたけど、それより今の状況に困惑する。

 彼は言動は軽いが、容姿が良く成績も家柄も良いので、近付かれると周囲の視線が痛い。

 男爵家の商売柄、ご令嬢達に敵を作りたくないんだけど。



「そもそもエレナお姉様を、ちゃん呼びなんて!……羨ましい! 」


「羨ましいのか、でも僕だけの呼び方にしたいから、真似するのはやめてね」


「エレナはサージスと知り合いなのか?」


「領地が隣だから、何度かお父様と一緒にスワリエ領に行った時に会ったことがあるのよ」



 サージス様はディメオス達と同学年で、去年は同じクラスだった。

 スワリエ侯爵家は辺境伯で、海と魔の森に囲まれている。

 他国からも魔の森に住む魔物からも国を守る、国防の要だ。

 広大な領地を持つが、陸はほとんど魔の森に囲まれているので、陸地で唯一隣接している男爵家とは昔から仲が良かった。

 それでも、サージス様が私達と幼馴染の関係にないのは、侯爵家のお屋敷が魔の森に近く海にも近い領地の奥にあるから。

男爵家から王都に行くよりも侯爵家は遠かった。



「そういえば、エレナちゃん婚約は無くなったって聞いたんだけど?」


「そもそもエレナと俺は、卒業後婚約するって契約していただけで、実際はまだ婚約してなかったんだ」


「それ言っちゃっていいの? まあいいや、エレナちゃんがフリーになったなら、僕が立候補してもいいよね?」


「サージス様は、エレナお姉様の事が好きなんですか?」


「エレナちゃんが入学してすぐ告白しに行ったら、婚約者がいるからって断られたんだよ」



 私が口を挟む間もなく、彼等はどんどん話を進めて行く。

 契約が破棄された今でも、婚約者だった口裏合わせは続いていたのに、ディメオスはあっさりバラしてしまった。



「ディメオス、それは他言無用だと言ったでしょう」


「あーすまん、気をつける。いや、もう婚約の事は聞かれても、俺は答えないから」


「そうして下さい。まあ、私の婚約者が貴方だと誰にも言っていないので、聞かれる事はありませんけど」


「そうなのか?!」


「僕も相手は今知ったよ。去年からディメオスはメリサ嬢と仲良くしていたから、誰もエレナちゃんの婚約者がディメオスだって思ってないと思う」


「入学前には全部知っていたと言ったでしょう。契約が破棄される可能性も考えていましたから」


「確かに、今日まで誰にも聞かれてないな」


「婚約破棄の話をした時も、教室には私達しか居なかったでしょう? サージス様が、どこから私の婚約が無くなった事を聞いたのかは、気になりますが……」


「内緒だよ、情報は力なんでしょ? ただ、ほとんどの人はまだ知らないと思うよ。話を広めてもライバルを増やすだけだしね」



 侯爵家の情報網は侮れない。

 警戒しながらもサージス様の言葉を信じて、穏便にこの場を収める事にした。

 婚約解消の噂は出来るだけ誤魔化して、長く平穏な学園生活を送りたい。



「メリサ様、サージス様もこの事は、ご内密にお願いいたします」


「お姉様と私の秘密ですね。他の人に教えるなんて、もったいない事は致しませんわ」


「エレナちゃんが、これからサージスって呼んでくれるなら言わないよ」


「お姉様との秘密を守るのに、条件を付けるなんて!……考えましたね」


「幼馴染だからって、ディメオスだけ狡いよね。学園では、呼び方は爵位に関係なく自由なんだから、呼んでほしいな」


「私の事も、メリサとお呼び下さい」



 できれば、学園では知り合い程度のほぼ他人でいたかったのに、グイグイ内に入り込んでくるサージス様。

 メリサ様には少し異常なくらいに懐かれてしまった。

 ディメオスは……うん、まあ、勉強頑張れ。


 ーーこれは完全に予定外ですわ。

 私は大きく息を吐いて、気持ちを落ち着けた。



「はぁ……しょうがないわね。メリサ、サージス、ちゃんと秘密は守ってね?」


「お姉様!お任せ下さい口外しないと誓います」


「嬉しいな、これからもその呼び方でよろしくね」


「名前の呼び方くらいで、大げさだな」



 ディメオスのどこか優越感溢れる言葉に、メリサ様とサージス様が半眼で睨みつけている。

 不穏な空気を感じ取り、私はディメオスに言葉をかける。



「そうですね、もうただの幼馴染なのだから、普段から呼び方を改めますね、ディメオスさん」


「うわっ、一気に距離開いた感じがする。エレナ悪かった元に戻して」


「いやいや、これからは少し距離を置いて付き合っていかないとね、ただの幼馴染君」


「あ、私は学園ではエレナお姉様を優先するのでー」


「え?!メリサは俺と付き合ってるんだよな?」


「そうだけど、学園でお姉様と一緒に居られる時間は短いのよ。これは譲れないわ」



 ーー今日はもう読めそうもないわね。

 私は読みかけの本を閉じて机の上に置いた。


 彼等が言い合いをしているのを聞きながら、面倒な事になったな、と思いつつも嫌じゃない事に気が付いた。

 ーーたまには、こういうのも悪くないわね。

 何だか、とても楽しくて、私は自然と笑顔になった。



 その後、メリサ様とサージス様が、何故か突然赤面して悶えて叫んだので、私達は図書室から追い出されてしまった。そして、一週間図書室の出入りが禁止になった。



 私が読みかけの本を読むことが出来るのは、一週間後。


 これは完全に予定外ですわ!

読んでいただき、ありがとうございました!



短編は三人称で書いていたんですが、連載はエレナ視点に書き直しました。


だから、メリサに対して、エレナがどう思っているのか

とか三人称では、入れられなかった設定が入りました☆


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