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私も恋していいですか?  作者: ぽち焼きタマゴ
第4章 ホワイトデイ
27/30

27.中編 ホワイトデイ[過去回想◆]

◆◆◆◆◆


 自分の加護の真実を知り、私が最初にした事は、あの荒れ果てた土地を調べる事だった。


 私が救出された後、あの街の惨状を知った父は、街の人達を密かに支援していた。

 そのおかげで、貧困による死者は出ていなかった。


 今思えば、私の加護に何か関係があるのかもしれないと、聡い父は気付いたのだろう。

 そして、後でそれを知った娘が気に病まぬように、動いてくれたのだと思う。

 もし、誰か一人でも飢えで亡くなる人がいたら、私の心は壊れていたかもしれない。



 あの事件から、半年が過ぎていた。


 父と共に再びあの地を訪れ、荒れ果てたままの土地を見て、改めて己の加護の恐ろしさを知った。

 そして、修道着を身にまといフードを深く被り、身分を隠して大地に祈りを捧げた。


 表向きは、王家から派遣された魔術師と修道女が、共にこの地を再生する為に来た事になっていた。

 魔術師は本物で、派手な魔術のパフォーマンスにより、私の印象が薄くなった。


 日に二回、一時間祈りを捧げ、三日目で土が潤い、七日目に新たに蒔いた種が育ち、十日で植えた木が生い茂り、一月で街は元の姿を取り戻した。


 街の人達には、賢者だ聖女だと称えられたが、私は自分が滅ぼした土地を元に戻しただけ。

 見送る街の人達に深く頭を下げて、馬車に乗り込み、私は男爵領に戻った。




 私を誘拐した実行犯は、雇われたゴロツキで、黒幕はあの街に住む子爵家だった。


 ある契約をクロニア男爵家に横取りされたと逆恨みして、次の契約の前に私を誘拐した。

 そして、競争相手の男爵が動揺した隙をつき、新たな契約を勝ち取っていた。


 しかし、その契約は土地が枯れ果てた事で、作物が納品できず、結局男爵家のものとなる。


 急に枯れた土地を不審に思い、王家が介入して調査した結果、私が子爵家の管理する宿に監禁されていた事が分かり、助け出された。




 この事件は、私益の為の誘拐事件として処理され、爵位は剥奪され、事件に関わった大人達は鉱山での強制労働となった。

 残された子供は親に疎まれ、あまり良い教育がされていなかった為に温情をかけられ、親族に引き取られた。


 もし、私が加護持ちと知られて誘拐された場合、良くて生涯幽閉、最悪の場合、全員処刑されていただろうと後に聞かされた。



 加護を知るのは、両親、本人とその配偶者まで。

 あとは王家、専属の魔術師、そして加護持ちを守る一族のみである。


 その他の人には、知られてはいけない。

 もし、気付かれても決して認めてはいけない。


 そして、加護に気付いた者は、それを問うだけで罪となる。


 存在するだけで、国益となりうる加護持ちは、国に法に守られていた。


 でも、今回加護持ちを守る一族は動かなかった。

 なぜなら、まだ王家から知らされていなかったから。

 誰を付けるか、選定中だったと王家から謝罪された。




 謝罪は受け入れたけれど……。

 そもそも私が誘拐されたのは、一つの土地に加護を与え過ぎたせいだった。

 男爵領のみんなに喜んでほしかっただけなのに……。


 私の祈りで幸福になる人もいれば、不幸になる人もいる事を知った。




 それから、私は祖母の手記を全て読んだ。

 そして、一度行った事がある場所ならば、その地を思い祈る事で、加護の力が届く事がわかり、私は学園に入学するまでに各地を回った。


 でも、広く浅く幸せを平等に祈る事は、とても難しかった。


 男爵領への祈りは、どうしても強くなってしまう。

 大好きな人達の住む場所だから……。




 それに気付いた時、人を愛する事が怖くなった。

 私は愛する人の幸せを、皆と平等に祈る事ができるだろうか?


 そして、自分に対する好意を、素直に信じる事が出来なくなった。

 私の加護を知り、利用する為に愛を囁いているのかもしれないと……。





 だから、私を利用する事がなく、恋愛小説のように恋をして愛に溺れる事のない相手を探した。


 恋愛結婚を推奨する学園に入学するまでに、婚約者を探しておきたかった。


 そんな時に、婚約の打診をされたのが、オルケリア伯爵家長男のディメオスだった。


 ディメオスとは幼馴染で、何でも言い合えるくらい仲が良く、年上なのにどこか頼りなくて、男女というより姉弟のようだった。

 彼となら、お互い愛に溺れる事はない。


 それに、彼の弟のリオルは、昔から私を姉のように慕ってくれて、彼と結婚するとリオルが本当の義弟になるのも、とても魅力的だった。



 ディメオスを婚約者にする条件として、すぐ婚約をするのではなく、婚約の約束をする契約を結ぶ事にした。

 私が契約内容を追加したのは、彼が学園に入学して変わってしまう事を恐れたから。


 そして、彼がもし愛する人に出会ってしまった時に、その不利な条件を飲んでまで、愛を貫きたい相手ならば、私は彼を許す事ができると思ったから。


 結果は、完全に婚約を忘れていた彼が、思い込みと勘違いで自滅したけれど、婚約を忘れていた事以外は、全て想定内の出来事だった。


 だから、私は彼の不幸を願う事はなかった。


 伯爵領にとっては最悪で、男爵領にとっては最良で、私には少し悲しくて、少しだけ嬉しいシナリオだった。




 メリサとディメオスは、今でも恋人として一緒にいる。

 長期休暇に一緒に帰り、両家に謝罪しに行くと言っていた。


 これから、まだ色々な障害があるかもしれないけれど、二人は諦める事なく前に進んでいる。


 それは、人を愛する事を恐れる私にとって、一つの希望のように思えた。



◇◆◇◆◇


長い過去回想にお付き合いいただき、ありがとうございました。


やっと1話のプロローグ設定回収しました。

長かったσ(^_^;)


次回ホワイトデイ後編。

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