23.私は彼女達の笑顔が見たいのです
「参りました」
「?」
あの後、午後の授業が始まる時間になったので、エレーナ様と放課後に中庭で会う約束をして別れました。
そして放課後になり、中庭で合流してお互い椅子に座ると、頭を下げたエレーナ様によく分からない事を言われました。
ーー『まいりました』って何でしょう?
「いや、すごかったです。あっという間に商談まとめた、敏腕営業マンのようでした」
今度も意味のわからない言葉が入っているけれど、何となく言いたい事は伝わりました。
営業マンは、もしかしたら彼女の前世の言葉なのかもしれませんね。
「アクセサリーを身につけるのは主に女性です。女性に気に入ってもらえなければ、商品は売れませんよ」
「勉強になりました。私この世界に可愛く生まれたので、ちょっと調子に乗ってました。ごめんなさい反省してます」
理解してもらえて良かった。
けれど、エレーナ様が自分の事を可愛いと言っているのを聞いて、私は困惑した。
「あの、同じ顔なので可愛く生まれたと言われても、どう反応したらいいのか分かりません」
「え、自分の事可愛いと思ってないの?! 数年後は美人確定でしょ?」
「生まれた時から見ている顔なので、あまり……」
「いやいや、エレナ可愛いから、同じ顔の私が保証する。自信持って!!」
「ふふふっ、鏡の中の自分に可愛いと言われているようですわ」
「私はすごく可愛いんだから!エレナも自分の事可愛いと思ってくれなくちゃ、私が可愛くないみたいじゃない!」
「エレーナ様は本当に私の予想の斜め上をいきますね」
「ほら、"私は可愛い"って言ってみて」
「エレーナ様は可愛いですね」
「そうじゃない!……ん?なくもないのかな?同じ顔だし」
エレーナ様は眉間に皺を寄せて、考え込んでしまいました。
本当にエレーナ様は面白いわね。
話が逸れてしまったので本題に戻そうとした時、声をかけられた。
「エレナちゃん!大丈夫?!」
中庭に二人の男性が駆け込んできた。
サージス様と、あれは……。
「エレーナ、また何かやらかしたのか?」
「イシュト?」
どうやら向こうからやって来てくれたようですね。
まずは、心配して来てくれたサージスに話しかけた。
「サージス、私は大丈夫ですわ。それで、一緒にいらしたこちらの方は?」
「あぁ、僕の友達なんだ。エレナちゃんと彼の従兄妹が一緒に居るって聞いて心配したけど、大丈夫みたいで良かった」
「あ、俺はノワール伯爵家次男のイシュトです」
エレーナ様の従兄妹のイシュト様。
伯爵家の次男で、家は長男が継ぐからと領地にある金属製品を加工する工房に小さい頃から通っていたそうです。今ではアクセサリーの金型作りから、細かい加工までこなせるとか。
共同商品の話は彼とした方が良いと判断して、エレーナ様に交渉の場を用意してもらおうと思っていました。
「初めまして、クロニア男爵家長女のエレナと申します。イシュト様これから宜しくお願いしますね」
「え?何を、でしょうか」
「エレーナ様にはお話したのですが、ホワイトデイ用の商品として、シェリーズで販売されているアクセサリーを共同で販売してはどうかと提案させていただきました」
「ホワイトデイですか。宝石が付いている物は、それなりに高いですよ?売れますかね」
「安心してください、アクセサリーはこちらで全て買い取らせていただきます。バレンスイートのお菓子とセットで販売しますので、二十セット分作れないでしょうか?」
「頑張れば出来ると思いますが……」
「もし入り用なものがあれば、こちらで用意させていただきます」
彼は少し考えて、私の依頼を受けてくれた。
これで、貴族の方向けの商品も販売できるわ!
「デザインはどうしますか?」
「できればホワイトデイだけの特別感を出したいので、新しく作っていただけると、ありがたいのですが」
「新しいデザインなら、私描くよ!」
「まぁ!エレーナ様が?お願いしてもいいかしら?値段の事もあるから、シンプルな物がいいと思うの」
「それじゃ、ハート形かな。定番の羽でもつけとく?」
エレーナ様は手持ちの紙に、サラサラとデザインを書き上げた。
私が見たことがないデザインを彼女が定番と言うのなら、これも前世の知識なのでしょうか。
でも、知識があったとしても、ここまでのデザイン画を描くことが出来るのは、彼女の才能だと思います。
「可愛いですね。あとは、付ける宝石の欠片の種類や形を変えて一点物にしてください」
「ネックレスがいいかな?それともブローチ?」
エレーナ様が聞いてくれたという事は、どちらでも使えるデザインなのだろう。
私は少し考えてから答えた。
「両方で、各十個ずつにしましょう。値段はネックレスの方が高価ですよね?」
「そうですね。チェーンに手間がかかるので、そちらの方が高いです。半分がブローチでいいのは助かります」
「ネックレスの方が喜ばれるとは思いますが、希少価値を出したいので少し個数を抑えます。値段にある程度差があればブローチも売れるでしょう」
話がまとまった所で、私はイシュト様と値段交渉に入った。
シェリーズの宣伝にもなると言う事で、だいぶ価格は抑える事が出来た。
あとは、バレンスイートのお菓子を原価で販売すれば、貴族令息が頑張れば買えるくらいの金額で提供できるだろう。
このイベントは、恋する女の子を応援するために始めたので、利益はあまり求めません。
私は彼女達の笑顔が見たいのです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
今日から
『私も恋していいですか?〜もう一つの物語』
の連載が始まります。
シリーズ管理していますので、タイトル上の。
☆私も恋していいですか? シリーズ☆
からページ移動ができます。
同じ世界の同じ時間軸のお話ですが、主人公が変わりジャンルも少し変わるので、別で連載!
話が追いつくまで、こちらの物語は少し更新頻度が減ります。
よろしくお願いします。




