22.後編 私が広めて差し上げます
「ユリア様、アイリス様、今日はタインスイートの新作クッキーをお持ちしました。良かったら試食していただけませんか?」
「新作クッキーですか? 嬉しいです、私の隣の席にお座りください」
ユリア様に席を勧められて、私は彼女の隣に座り持って来たクッキーを彼女達の前にあるお皿に並べた。
先程までチョコレートが並べられていたお皿で、無くなったのを確認してから動いた。
ユリア様は伯爵家のご令嬢で、アイリス様は子爵家のご令嬢。お二人共タインスイートの常連客だ。
「私達、今ホワイトデイの事を話していたんです」
「私もアイリスも、バレン・タインデイのおかげで、恋人ができたの」
「まあ、おめでとうございます」
「でも、ホワイトデイの前に両思いになってしまったから、私達には関係ないのかなって」
「ユリア様、ホワイトデイは告白の返事をする日でもありますが、バレン・タインデイに貰ったプレゼントのお返しをする日でもあります」
「それなら、私達も恋人からお返しが貰えるのかしら?」
「そうですね、恋人との仲を更に深める為に、好きな方へのお返し用に、お菓子と合わせてアクセサリーやミニブーケをセットにした商品をタインスイートで販売する予定です」
「まあ、素敵!今度彼をタインスイートに誘ってみようかしら」
両思いになったら、告白の返事をするホワイトデイは関係ない、そういう受け取り方もあるのね。
帰ったら、宣伝の仕方を考え直した方がいいのかもしれない。
ユリア様にホワイトデイの商品説明をしている間、アイリス様は私の胸元に光るアクセサリーをずっと見つめていた。
「私、先程から気になっていたんですが、エレナ様のネックレスあまり見ないデザインですね。ブローチもとても素敵」
「まぁ!アイリス、大人しいと思っていたら、アクセサリーを見ていたのね」
「だって、キラキラ輝いているのよ。ネックレスの中心で輝いている、これは宝石かしら?守護石にしては小さい気がするけれど」
「アイリス様、これは守護石ではないんです。シェリーズ宝石店で、最近売り出された宝石のネックレスです」
「宝石なのに、守護石ではないの?」
「守護石は高価ですから、なかなか手に入りません。これは守護石ではありませんが、加護を付与する前の正規の宝石を、守護石と間違えないようにサイズを少し変えてカットした物です。守護石の半分の金額で購入できます」
「守護石の半分でも高いわね」
「そうですね。でも、特別な日の贈り物に相応しい品ですよね」
「確かに、婚約する時に贈られたら素敵ね」
アイリス様はネックレスを見て、夢見るように微笑んだ。
すると今度は、ユリア様が私に目を移し問いかけた。
「エレナ様、そのネックレスは婚約者の方に贈っていただいたの?」
「ふふっ、実はこれ借り物なんです」
「そうなんですか?」
「私、いつか守護石を買いたいと思っているんです。それで、シェリーズで守護石を購入した時に、予約注文するとネックレスに加工できると聞いたので、ネックレスの使い心地を確かめたくて今日だけお友達に貸していただいたんです」
「守護石もネックレスに加工できるんですね」
ユリア様は守護石の加工に興味を持ったようだった。
でも、高価な物をここで売り込む気はない。
今までの会話は、シェリーズ宝石店で宝石が付いたアクセサリーを扱っている事を印象付けたかっただけ。
私が本当に売り込みたいのは……。
「ブローチにも宝石が?」
アイリス様がブローチの宝石に気づいてくれた。
ここからが本番よ。
「ブローチには、宝石を加工した時に出た欠片が使われているそうです。でも、欠片だからこそ形が一つ一つ違うので、光が当たると輝き方が違うので楽しいですよね」
「本当ね、五つの小さな宝石の欠片が、それぞれ違う輝きを放っているわ!」
「アイリスは、本当にアクセサリーが好きね。欠片でも宝石だから、こちらも高いのかしら?」
「欠片は加工に手間がかかるので安くはないのですが、数ヶ月お小遣いを少しずつ貯めれば私でも買えますわ」
「タインスイートに行く回数を減らせば……」
「アイリス、それは無理よ、ロイズ君を見れないなんて!」
「そうね、恋人と癒しのロイズ君は別よね」
お二人は、ロイズ目当てのお客様だったみたいね。
アクセサリーとロイズを天秤にかけて、ロイズが勝つのだから相当だ。タインスイートのお得意様ね。
それでは、最後の仕上げをいたしましょう。
「もし、バレンスイートでこのブローチとお菓子を、ホワイトデイ商品として、販売したら……」
「欲しいですわ!」
「私も!」
アイリス様とユリア様が、手を上げて立ち上がった。
想像以上に興味を持っていただけて嬉しいわ。
「職人さんの手作りなので、あまり個数は用意できないかもしれませんが、シェリーズと交渉してみようと思います」
「エレナ様!よろしくお願いしますわ」
「もし発売されたら、それを贈ってもらえるように、事前に彼とシェリーズに行ってみない?」
「アイリス、私も彼を連れて行きたいから、一緒に行きましょうよ」
彼女達にシェリーズ宝石店にも興味を持ってもらえた所で、会話は私の手を離れた。
彼女達のアクセサリーに対する熱い思いを聴きながら、私はエレーナ様を見た。
これで、バレンスイートとシェリーズの共同で、貴族向けの商品を作る事ができるわ。
エレーナ様、聞いていましたか?
商品を売り込むチャンスですよ。
共同での商品作り、嫌とは言いませんよね?




