20.一度話し合う必要がありそうだ
今日はバレンスイートの一室で、ホワイトデイのイベントの打ち合わせが行われていた。
「ホワイトデイか、またエレナ様は面白い事を考えますね」
「今回の発案者は、サージスなのよ。だから"ホワイト"デイと名付けたの」
「あぁ、ホワイトって坊ちゃんの髪色ですか」
「サム、サージス様の事まだ坊ちゃんって呼んでるの?やめてあげなさいよ。泣いちゃうわよ」
「キャスリンこそ、子供扱いしてないか?坊ちゃんが泣いていたのなんて五歳頃までの話だろ?」
キャスリンとサム、二人が揃うと必ずサージスの昔話が始まる。
彼らはサージスの事を幼い頃から知っていた。
今は男爵家で働いているけど、二人は元々スワリエ侯爵家の料理人兼兵士だった。
侯爵領の住民は非戦闘員は子供だけだ。
料理人も有事の際は兵士になる。
そして、怪我をして戦えなくなると、男爵領に職を探しに来るのだ。
男爵領で作られる作物の半分は、侯爵領に納品している。
だから、戦えなくなっても男爵家で働く事で、彼らは外から故郷に残る人達を支えていた。
「ホワイトデイ用のお菓子作りですか、バレン・タインデイの時と種類は変えた方がいいですね」
サムは料理人だったけど、お菓子作りも好きで、孤児院の子供達に差し入れしている所を私がスカウトした。
一年間バレンスイートで修行して、最近タインスイートの店長になった。
「バレン・タインデイでいっぱい告白とお菓子を貰った子は、断るのが大変そうね」
キャスリンは、元々菓子職人で、キラキラ輝く宝石や綺麗な花束のような、見ても楽しめるお菓子を作るのが得意だった。
弟子を育てながら、バレンスイートの店長として腕を振るっている。
「お菓子を四種類にして、それぞれに意味を込めましょうか。お菓子を渡しただけで返事になるように」
「好きな人にお返しする時は、何でもいいんじゃないかしら?」
「そうだな、男なら好きな子には直接渡して言葉で伝えるべきでしょう」
「では、好きな方への贈り物には、可愛いアクセサリーや花を添えて渡すというのはどうでしょう」
「いいわね!私も欲しいわ」
「お前誰かにバレン・タインにお菓子を贈ったのか?」
「サム、あの日私の新作ケーキ食べたわよね?」
「あれは試食だろ?」
「お菓子はお菓子でしょ、期待してるわよ」
「まじか」
お返しに他の物を付けるのは、好きな人にだけなんだけど。
と思ったけど、あえて言わなかった。
二人とも仲がいいな。
「お菓子だけ渡されたら、告白した子は振られたって事でいいのかしら?」
「そんなに、キッパリ気持ちの振り分けはできないだろ。友達として仲良くしたいって奴もいるだろうし」
「優柔不断ねぇ」
「友達から恋人になる事もあるだろう」
「確かに学生の間は、チャンスがあるなら潰さなくてもいいのかもしれませんね」
私達は、ホワイトデイに販売するお菓子を選んで、それぞれのお菓子の意味を考えた。
「マドレーヌは少し特別で『仲良くなりたい』でいいだろ」
「クッキーはよくあるお菓子だから『友達』かしら」
「ホワイトチョコレートは、『もう少し考えさせて』ですかね?」
「普通のチョコレート返されたら、『興味なし』だね!」
いつのまにか部屋に居たロイズが、話しに入ってきた。
「そうだな、全く興味を持たれてないなら、それもはっきり伝えてあげないと次に行けないよな」
「そーでしょ?友達はまだ好意を感じるもんね。可能性が全くないなら、バッサリ振ってあげないと」
「ロイズちゃん、いい事言うわぁ。お姉さんのお店に来ない? 可愛い制服着せてあげるわよ」
「キャス姉の可愛い衣装は、動きにくそうだから遠慮しとく。タインスイートの制服も動物耳の帽子だから、かなり可愛いぞ」
「ロイズは、可愛い制服が着たいの?」
「別に、お客様に好評なら何でも着るけど」
「サム!ロイズちゃんを、うちにちょうだい!」
「ダメだ、俺はキャスの魔の手からロイズを守ると決めている」
「そんなに酷い事はしないわよ!ちょっと可愛い、フワフワした服を着て接客してもらうだけ」
「それをやめろ!」
キャスリンとサムの言い合いをら聞きながら、私はお菓子と一緒に販売する品物の事を考えていた。
「ミリィの家の雑貨屋で、手頃な価格のアクセサリーを取り扱っていたわね、相談してみようかしら」
「花はマリちゃんの家に頼めばいいよな」
「ロイズは、マリを知っているの?」
「バレン・タインのチョコレート作りの時にね。ミリィちゃんにも挨拶したよ。今度タインスイートに遊びに来てくれるって」
「さすが、売上トップの店員さんね」
「いやいや、お嬢ほどではないよ」
「彼女達の家のお客様を奪わない為にも、商品は直接仕入れないで、雑貨店と花屋を通して納品してもらったほうがいいわね」
「お店の宣伝をしてあげれば、少し安く仕入れる事が出来るんじゃない?」
「いいわね!相談してみるわ。でも高位の貴族の方は、好きな人には、もっと高価な品をお返ししたいと思うかもしれないわね」
「まぁ、そこまで気にしなくていいんじゃない?」
「それもそうね、あくまで学生達の恋を応援する為のイベントだから、学生でも買える物で考えてみるわ」
ホワイトデイの打ち合わせがある程度終わった所で、ロイズが申し訳なさそうな顔をして私に言った。
「お嬢、ごめんな。エレーナ嬢が大量にチョコレートを買ったの俺知ってたんだ」
「え?!」
「タインスイートにチョコレート買いに来たんだ。でも、友達に配るって言ってたから、まさか男友達だとは思わなくてさ。普通に売っちゃった」
「友達として贈ったのに、相手にそれが伝わらなかったのね」
「メッセージカードに何て書いたんだろうな?」
「何となく予想はつくわ」
「もっと誰に渡すのか、詳しく聞けばよかった」
「それは仕方ないわよ。それより、エレーナ様が、チョコレートを何個買ったのか分かる?」
「チョコ三十個にカップケーキが一個だよ。カップケーキは、好きな人に渡すみたいだった」
「半分くらいの方が、間違えて私にお返しを贈ってきたのね」
そもそも、友達や好きな人に、プレゼントを直接手渡さない人がいるのは想定外だった。
私の予想外の事をするエレーナ様。
手紙に書く名前の件も含めて、一度話し合う必要がありそうだ。




