19.【閑話】面倒な事になってしまった[サージス]
「サージス、エレナ嬢と婚約してるって本当か?」
これを聞かれるのは、本日五回目だ。
みんな思った通りに勘違いしてくれて助かるよ。
あれから僕は、すぐに噂をばら撒いた。
『エレナ嬢は、友達とチョコレートを交換していた』
『エレナ嬢は、友達にしかチョコレートを渡してはいない』
『サージス・スワリエ侯爵令息だけが、エレナ嬢から手作りのチョコレートを貰った』
この三種類の一見相反する噂を、別々の場所から流した。
全て事実で、一言も嘘は入っていない。
ただ、この噂を混ぜる事で、多くの人は勘違いをする。
『エレナ嬢、友達と手作りのチョコレートを交換したんだって。可愛いよなぁ。俺も欲しい』
『彼女友達にしかチョコレート渡してないらしいよ?やっぱり婚約は解消されたのかな?』
『え?でも、エレナ嬢がサージスに、中庭でチョコ渡してるの見たって聞いたけど』
『本当か?ならエレナ嬢の婚約者はサージス・スワリエ侯爵令息だったのか?』
『かもね、サージスだけがエレナ嬢にチョコ貰ったって噂もあるし』
中には僕も友達だろう、と真実に気付く奴も居ると思うけど、それは僕かエレナの事をよく知っている人だけだ。
ほとんどの人は『エレナ嬢の婚約者はサージス・スワリエ侯爵令息なのかもしれない』と思ってくれるだろう。
で、疑問を持った奴らは僕に確認しに来るんだけど……。
「お前が聞きに来るとは、思わなかったよ」
「いや、ちょっと気になる事があってな。もしサージスが彼女の婚約者なら忠告しておいた方がいいと思って」
僕をよく知る彼が何で聞きに来たのかと思ったけど、なるほど、何かエレナに関係する情報を持っているらしい。
彼はイシュト・ノワール伯爵令息。
学園に入学して僕から声をかけて友達になった。
最初は、ある目的の為に声をかけたんだけど、今はお互い色々相談できるほど仲良くなった。
「忠告、聞かせてくれる?その顔は良くない事みたいだね」
「俺の従兄妹から聞いたんだけどさ。どうやら、男子寮の寮長がエレナ嬢の事が好きみたいでな」
「寮長、三学年のダンテ・ガルニシア侯爵令息か、それで?」
「その好意の向け方がちょっと怖かったみたいで、でもエレナ嬢婚約してるって話だから、大丈夫だと思って気にしてなかったんだけどな」
「で?」
「バレン・タインに婚約白紙になったかもって噂が一瞬流れただろ? 寮長すごく機嫌が良かったんだ」
「あの噂か」
「だから、サージスがエレナ嬢の婚約者だって噂を聞いた時、何かヤバそうだなと思った」
「僕に何かするかもって?」
「そうだな、似てるからと従兄妹をエレナ嬢の代わりにしようとするくらい、ヤバイみたいだから」
「忠告ありがとう、こっちで色々調べてみるよ」
「いや、バレン・タインの件は俺の従姉妹が迷惑かけたからな」
「エレナちゃんが気にしてないから、僕からは何もしないけど、ちゃんと話し合った方がいいかもね」
「だな、すまん」
「まぁ、お互い様かな。また何か分かったら教えてよ。情報共有しよう」
「分かった」
「あ!そうだ、前にイシュトに注文してたやつ、まだ変更できるかな? 少し相談したい事があるんだ」
「よし、話を聞こう。多少の無茶は聞くぞ」
「ありがとう、親友」
こうして、僕はエレナを狙う害虫の情報を得た。
僕に悪意を向けるのはいいよ、ちゃんと迎え撃つから。
だけどエレナを直接狙うのは許さないからね。




