18.面倒な事になってしまった
私は今、とても困っていた。
先日、私が男爵家の事業として企画開催した、バレン・タインデイのイベントは大好評だった。
どこから聞いたのか、発案者が私だと知った女の子達が、恋が実った、恋人と更に仲良くなれた、ステキな人と知り合えた、とお礼を言いに来てくれた。
とても嬉しかった、企画して良かったな。
でも、その後貴族令息達から声をかけられるようになった。
チョコレートのお礼にと贈り物をされて、その度に『それは、私ではありません』と訂正していた。
面倒な事になってしまった。
エレーナ様は、何人の貴族令息に贈ったんだろう。
そして、なぜ皆私と彼女を間違えるのか。
ピンク色の髪をした"エレ"で私の所に来るのは本当にやめてほしい。
エレーナ様は、また変なメッセージを書いたに違いない。忙しくて後回しにしてしまった。
バレン・タイン前にちゃんと注意しに行けばよかった!
「エレナちゃん、大丈夫?」
私がよほど酷い顔をしていたのか、サージスが心配そうに声をかけてきた。
彼は、中庭のベンチに座っていた私の横に座った。
「大丈夫、じゃ、ないわね。説明するの疲れました」
「だよねー、払っても湧いてくるんだよね。変な事されてない?」
「だいたい説明を聞くと帰ってくれますけど」
「そうか、……さすがに学年が違うと守りきれないな」
後半言葉が聞き取りずらかったけど、とても心配してくれているようだった。
「マリとミリィが休み時間は側に居てくれますから、大丈夫だと思いますよ。ただ疲れますけどね」
「んーじゃあ、まずはこの前言ってた、告白の返事をする日。ホワイトデイを周知しようか」
「そうですね、まだ準備中ですが周知は早くてもいいかもしれませんね。学園側の了承は得てますし」
ホワイトデイを周知すれば、バレン・タインデイの返事は来月、三月十四日になる。
少し対策を考える時間ができるのは嬉しい。
「それと、ピンク髪の例のご令嬢が、チョコを配りまくったせいで、エレナちゃんの婚約が白紙になったんじゃないかって、噂が出回ってるの知ってる?」
「少しは、でもそんなに広がっているんですか?」
「かなり広まってるよ」
だからあんなに……。
私の家、クロニア男爵家は代々商売がとても上手く、男爵家には不釣り合いなほどの莫大な資産があった。
だから、その資産目的で私に近付こうと思う人達は多い。
それを回避するのにも役立つ婚約契約だったのに。
ディメオスのバカ。
「それで、提案なんだけどさ。エレナちゃんからチョコレートもらった男子は、僕だけだって噂を流してもいい?」
「え?まあ、本当の事だからいいですけど、噂をですか?」
「僕達の事をあまり知らない人達が『サージス・スワリエ侯爵令息だけが、エレナ嬢から手作りのチョコレートを貰った』って聞いたらどう思う?」
「それは、『手作りを贈るくらい仲が良い』とか?」
「そうだね、それで彼等は勝手に勘違いすると思うよ」
「まさか……」
「そう、『エレナ嬢の謎の婚約者は、サージス・スワリエ侯爵令息かもしれない』と思うだろうね」
「でも、それは……」
「嘘はついてないよね?エレナちゃんからチョコ貰ったし」
「でも、サージスはそれでいいの?」
「むしろ、その勘違いが本物になればいいな、と思ってるよ?」
「!?」
あまりに軽く話すので、聞き逃しそうになったけど、何だかすごい事を言われた気がする。
混乱しつつも、顔が熱くなる。
「まあ、今はエレナちゃんの安全が一番大事だから、深く考えないで、勝手に勘違いしてもらおうよ」
正直魅力的な提案だった。
サージスが私の婚約者だと皆に勘違いしてもらう事で、婚約の白紙の噂が消える。嘘をつくわけじゃない、婚約の真実を言葉にしないだけ。
それで私は、平穏な学園生活を送る事ができる。
「サージスがいいなら、お願いしてもいい?」
「喜んで!婚約者の事をもし聞かれたら、意味深な笑顔を返しておいて、無理に嘘はつかなくていいからね」
「サージスが婚約者だって?」
「そうだねー、悲しいかな現時点では嘘になっちゃうからね。あとは僕に確認しに来るでしょ」
「サージスが大変じゃない?」
「え、すごく助かるけど? 邪魔な虫がホイホイ向こうから来てくれる状況なんて、探す手間が省けるよねぇ」
すごくいい笑顔でサージスが言った。
虫がどーとか、言葉の意味がよく分からなかったけど、すごく楽しそうだから、大丈夫なのかな?
サージスは軽く話していたけど、かなり大変な事をしようとしている。
でも、サージスなら何とかしてくれると、私は何故か信じる事ができた。




