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私も恋していいですか?  作者: ぽち焼きタマゴ
第3章 バレンスイート・タインスイート
17/30

17.呼んだら本当に来てくれるのかな?

それぞれの、バレン・タインデイ⑤とほぼ同じ内容です☆


「エレナ嬢、バレン・タインチョコレートありがとう」


「はい?」


「君がくれたと知って、とても嬉しかったよ、良かったらこの後」


「あの、すみません。私は貴方にチョコレートをあげていませんよ?」



 突然見知らぬ方に声を掛けられた。

 相手は私の事を知っているみたいだけど、話の内容に心当たりはなかった。



「ですが、メッセージカードに、私の事が好きだと」


「それ"エレ"さんじゃないですか?」


「ああ、"エレより"って、だからエレナ嬢だと」



 またか、愛称だけで手紙書かないでって、早く抗議しに行けばよかった。



「私は手紙には、"エレナ"と書きます。そのメッセージは、第八クラスのエレーナ様だと思いますよ」


「第八……。あぁ、彼女か、失礼しました。貴方だと思って嬉しくて、確認不足でした」


「直接渡されたわけでは、ないんですか?」


「はい、ピンクの髪の可愛らしいご令嬢が持って来たと、人伝に渡されました」


「そうですか、また間違えてしまった人を見かけたら言ってあげて下さい、私は"友達にしか渡してません"って」


「わかりました、では、改めて私とこの後」



 まだ名前も知らない人に、何か誘われそうな雰囲気を感じて身構えた。

 どうやって断ろうかと考え始める前に、明るい声が耳元で聞こえた。



「あれ、エレナちゃん?どーしたの?」


「きゃっ、サージス! 貴方こそ一年生の廊下で何してるの?」



 彼は突然私の左肩を掴んで、右から顔を覗き込んできた。

 驚いたけど、声ですぐサージスだと分かって安心した。

 心配そうな彼と目が合った。

 近い!!



「ちょーっと、通りかかって、ね」



 私の肩を抱き寄せたまま、サージスは名前を名乗らない令息の方を見た。



「サージス……ス、スワリエ侯爵令息?!」



 名無しさんは、顔色を変えて姿勢を直した。

 サージスの事を知っているみたいだ。



「ん?何か?」


「いえ、失礼しました!!」


「はいはいー。タリル君、お父上によろしくね」


「はい、失礼します」



 名無し改め、タリル君?は軍隊の行進のように、規則正しい歩調で去って行った。



「サージス、今の人知っているの?」


「フィザード子爵家の次男だよ」


「フィザード子爵って、侯爵家分家の?」


「正解!さすがだね」



 タリル君は、スワリエ侯爵家の分家筋の方だったのか。

 辺境伯は基本国の守り。

 騎士に兵士に傭兵にと完全縦社会。

 分家はどうやっても、武力も発言権も本家には敵わない。

 上司と部下みたいな関係だ。



「ありがとう、助かりました。またエレーナ様に間違えられたみたいで」


「いやーある意味、みんな願望に忠実だよね。気持ちは分かるから、あまり責められないんだけど」


「どういう事?」


「婚約者と一緒に突撃してくる人達は別だけど、決まった相手がいない人は、ピンク髪の可愛いご令嬢と聞いて、エレナちゃんだったらいいなー。と思って来ちゃうんだよ」


「ちゃんと確認してきてほしいです」


「ダメだよ、確認したら違うって分かっちゃうから」


「なら何で」


「彼等は夢を見てるんだよ」


「?」



 サージスは、どこか遠くを見つめながら、私の右肩をポンポンと二回軽く叩いて、私を抱き寄せていた左手を放した。



「虫除けが欲しかったらいつでも呼んで!僕がすぐ駆けつけるから、まぁ、呼ばれなくても駆けつけるけどね」


「ふふっ、呼ばなくても来てくれるんですか?」


「そうだね、でも呼んでくれると嬉しいなぁ」


「ふはっ、嬉しいってーー」



 彼がいつもの軽い調子で言うから、私は思わず笑ってしまった。

 そして、ふと彼の方を見ると、いつもの笑顔が消えていた。



「僕を呼んで、必ず助けに行くから」


「!!」



 普段見慣れない真剣な顔をした彼と目が合った。

 何故か逸らすことが出来ずに見つめ合う。


 私がどうしたらいいのか分からなくなって、困った顔をすると、彼はいつものように笑って私に同意を求めた。



「ねっ?」


「はい」



 有無を言わせぬ笑顔って何?

 私は初めてそれを体験した。

 肯定の言葉しか発する事ができなかった。



「よし!じゃあ、エレナちゃんまたね」



 明るく笑って手を振りながら彼は二年生の教室に帰って行った。


 え、待って、私は今何を言われたの?

 あれは、本当にサージスだった?


 何かちょっと……。

 いえ、だいぶ?素敵に見えたんだけど。


 実際彼は、呼ばなくても助けに来てくれた。

 呼んだら本当に来てくれるのかな?


『僕を呼んで、必ず助けに行くから』


 忘れないように、何度も彼の言葉を思い出した。

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