17.呼んだら本当に来てくれるのかな?
それぞれの、バレン・タインデイ⑤とほぼ同じ内容です☆
「エレナ嬢、バレン・タインチョコレートありがとう」
「はい?」
「君がくれたと知って、とても嬉しかったよ、良かったらこの後」
「あの、すみません。私は貴方にチョコレートをあげていませんよ?」
突然見知らぬ方に声を掛けられた。
相手は私の事を知っているみたいだけど、話の内容に心当たりはなかった。
「ですが、メッセージカードに、私の事が好きだと」
「それ"エレ"さんじゃないですか?」
「ああ、"エレより"って、だからエレナ嬢だと」
またか、愛称だけで手紙書かないでって、早く抗議しに行けばよかった。
「私は手紙には、"エレナ"と書きます。そのメッセージは、第八クラスのエレーナ様だと思いますよ」
「第八……。あぁ、彼女か、失礼しました。貴方だと思って嬉しくて、確認不足でした」
「直接渡されたわけでは、ないんですか?」
「はい、ピンクの髪の可愛らしいご令嬢が持って来たと、人伝に渡されました」
「そうですか、また間違えてしまった人を見かけたら言ってあげて下さい、私は"友達にしか渡してません"って」
「わかりました、では、改めて私とこの後」
まだ名前も知らない人に、何か誘われそうな雰囲気を感じて身構えた。
どうやって断ろうかと考え始める前に、明るい声が耳元で聞こえた。
「あれ、エレナちゃん?どーしたの?」
「きゃっ、サージス! 貴方こそ一年生の廊下で何してるの?」
彼は突然私の左肩を掴んで、右から顔を覗き込んできた。
驚いたけど、声ですぐサージスだと分かって安心した。
心配そうな彼と目が合った。
近い!!
「ちょーっと、通りかかって、ね」
私の肩を抱き寄せたまま、サージスは名前を名乗らない令息の方を見た。
「サージス……ス、スワリエ侯爵令息?!」
名無しさんは、顔色を変えて姿勢を直した。
サージスの事を知っているみたいだ。
「ん?何か?」
「いえ、失礼しました!!」
「はいはいー。タリル君、お父上によろしくね」
「はい、失礼します」
名無し改め、タリル君?は軍隊の行進のように、規則正しい歩調で去って行った。
「サージス、今の人知っているの?」
「フィザード子爵家の次男だよ」
「フィザード子爵って、侯爵家分家の?」
「正解!さすがだね」
タリル君は、スワリエ侯爵家の分家筋の方だったのか。
辺境伯は基本国の守り。
騎士に兵士に傭兵にと完全縦社会。
分家はどうやっても、武力も発言権も本家には敵わない。
上司と部下みたいな関係だ。
「ありがとう、助かりました。またエレーナ様に間違えられたみたいで」
「いやーある意味、みんな願望に忠実だよね。気持ちは分かるから、あまり責められないんだけど」
「どういう事?」
「婚約者と一緒に突撃してくる人達は別だけど、決まった相手がいない人は、ピンク髪の可愛いご令嬢と聞いて、エレナちゃんだったらいいなー。と思って来ちゃうんだよ」
「ちゃんと確認してきてほしいです」
「ダメだよ、確認したら違うって分かっちゃうから」
「なら何で」
「彼等は夢を見てるんだよ」
「?」
サージスは、どこか遠くを見つめながら、私の右肩をポンポンと二回軽く叩いて、私を抱き寄せていた左手を放した。
「虫除けが欲しかったらいつでも呼んで!僕がすぐ駆けつけるから、まぁ、呼ばれなくても駆けつけるけどね」
「ふふっ、呼ばなくても来てくれるんですか?」
「そうだね、でも呼んでくれると嬉しいなぁ」
「ふはっ、嬉しいってーー」
彼がいつもの軽い調子で言うから、私は思わず笑ってしまった。
そして、ふと彼の方を見ると、いつもの笑顔が消えていた。
「僕を呼んで、必ず助けに行くから」
「!!」
普段見慣れない真剣な顔をした彼と目が合った。
何故か逸らすことが出来ずに見つめ合う。
私がどうしたらいいのか分からなくなって、困った顔をすると、彼はいつものように笑って私に同意を求めた。
「ねっ?」
「はい」
有無を言わせぬ笑顔って何?
私は初めてそれを体験した。
肯定の言葉しか発する事ができなかった。
「よし!じゃあ、エレナちゃんまたね」
明るく笑って手を振りながら彼は二年生の教室に帰って行った。
え、待って、私は今何を言われたの?
あれは、本当にサージスだった?
何かちょっと……。
いえ、だいぶ?素敵に見えたんだけど。
実際彼は、呼ばなくても助けに来てくれた。
呼んだら本当に来てくれるのかな?
『僕を呼んで、必ず助けに行くから』
忘れないように、何度も彼の言葉を思い出した。




