表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/129

77.墜ちた翡翠


 シュバルツの腕に抱かれたヤシュがゆっくりと瞼を開く。

 つぶらなアーモンド形の瞳。翡翠色の眼にシュバルツの顔が映し出される。


「……ヴァイス、さま?」


「正気に戻ったようだな。ヤシュ・ドラグーン」


 あどけない顔で首を傾げてくるヤシュにシュバルツが安堵に肩を落とす。

 ヤシュは頭の両側に白い角を生やしている以外は特に異常はない。身体のあちこちに瞳と同系色の鱗がついているが、これは竜人族が生まれ持った形質である。


「自分が置かれている状況は理解しているか? 記憶はどうだ? 竜になったことは覚えているか?」


「…………ん、覚えて、ます。ご迷惑……おかけいたしました」


 ヤシュはシュバルツの腕の中で頭を下げる。

 普段から通訳を介して会話をしているせいか、ヤシュの口調はたどたどしい。しかし、声は澄んでいて耳に心地良く響いてくる。


「あう……」


 ヤシュは自分が一糸まとわぬ全裸であることに遅ればせながら気がつき、頬を染めてそっと両手で身体を隠す。

 恥ずかしそうにしているが、それでもシュバルツの腕から逃げることはない。それどころか、緑のおかっぱ頭をシュバルツの胸にすり寄せたりしている。

 人見知りの動物の餌付けに成功したような気分だ。シュバルツは妙に心が和むのを感じた。


「ごめん、なさい……ヴァイス殿下、襲いました。食べようとした。いかようにも罰は受ける。首を斬られても、平気……」


「おいおい……殺しちまったら命がけで救った意味がねえだろうが。罪滅ぼしがしたいのなら他の方法にしやがれ」


「口調、いつもと変わってる? ヴァイス殿下、です?」


「ああ……そうだったな。面倒臭え」


 シュバルツはどう説明したものかと頭をかく。

 話せば長くなる。山中で、おまけに片方が全裸の状態で話す内容ではあるまい。


「……詳しくは帰ってから説明するが、俺がお前の夫で間違いはないから安心しろ。とりあえず、俺のことはヴァイスじゃなくてシュバルツと呼べ。そっちが本名だ」


「シュバルツ、さま……似合って、ます。そっちのほうが……口調も、気に入りました」


「ありがとうよ。さて、これからのことだが……」


 シュバルツは軽く周囲の森に視線を巡らせた。

 滝を中心とした一帯は戦いによって……主にドラゴンが吐いたブレスによって、地形そのものが変わっている。

 シンラの姿が見えないが……心配はしない。

 森の中から剣戟の音が聞こえてくる。夜の森で意気揚々と魔物を斬るシンラの姿が目に浮かんでくるようだ。


「とりあえず……今晩はここに野営して夜明けと同時に麓に下りよう。アジトに戻って口裏を合わせてから後宮に戻るか。犯罪結社に攫われたところを俺が救い出したということにすれば、親父への貸しも増やせるだろうし……」


「…………」


「宮廷内での発言権だって増える。そうすれば、仮に愚弟が戻ってきても…………って、何をやってるんだよ、お前は」


「…………え?」


 ヤシュが不思議そうな顔で瞬きをする。

 ヤシュの細い指先がシュバルツの胸を撫でていた。

 小麦色の指先がはだけた上着から内側へと侵入して、爪の先で乳首をいじくったりしている。


「……男の乳首を触って何が楽しいんだよ。変な気分になるだろうが」


「ふあっ……あ、その、えっと……ごめん、なさい。美味しそうで、つい……」


「美味しそうって……。お前、まだ竜化が解けていないのか? 俺を喰うつもりなのか?」


「いえ……そうじゃ、なくて……その……」


 ヤシュは小さく握りこぶしを作って口元に当て、恥ずかしそうに目を逸らす。


「え、エッチな気分になった、です……どうしよ?」


「…………」


 照れながらストレート過ぎる告白をされてしまった。

 発言の過激さと初心な仕草がミスマッチで、そのギャップによってかえって興奮を掻き立てられる。

 ゼロ距離からとんでもない攻撃を喰らってしまい、シュバルツはゴクリと唾を飲みこんだ。


「そうかよ……別に竜化が解けたからって性欲が消えるわけじゃないんだな」


 ドラゴンにとっての交尾は雄を喰らい、血肉ごと精を体内に取り込むこと。

 逆鱗を剥がしたことで竜化が解除されたヤシュであったが……シュバルツの子種を得ることを諦めたわけではなさそうだ。

 捕食によって得られないのであれば、誘惑して、女として寵愛を求めるしかない。

 どこまで計算でどこから天然かわからないが……非常にあざといやり方である。


「さすがに今晩のところは食うつもりはなかったんだ……俺もしんどいし、お前も疲れているだろうし。ここはいつ魔物が出てもおかしくはない魔境だからな。だが……据え膳に手招きされて、お預けができるような男じゃねえんだよ」


「あ……」


 シュバルツは抱きかかえたままだったヤシュの身体を地面に寝かせた。

 新月の夜で月の明かりはなかったが、マナによって発光する滝が十分な光源となっている。

 かえって幻想的な雰囲気が生まれており、興奮の火に油を注ぐことはあっても鎮火することはない。


「やるぞ。誘ったのはお前だから後悔するなよ」


「ん……優しくしてください、です」


「…………!」


 小首を傾げてお願いしてくるヤシュのあどけなさに最後の牙城を崩され、シュバルツは容赦なく褐色肌の身体に手を伸ばした。

 未発達の身体に手を滑らせて、青い果実を口いっぱいに頬張った。


 ヤシュ・ドラグーン。

 御年五十を超える年上の少女は、竜の血族にふさわしい雄叫びのような嬌声を森に響かせるのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

マンガBANGでコミカライズ連載中
i000000
― 新着の感想 ―
[一言] ヤシュ可愛いよヤシュ(〃ω〃)
[一言] これで残るはラス1か・・・でもそろそろ王子帰ってきそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ