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65.憎しみと決意

「どういうことだ……亜人連合はウッドロウ王国との戦争を望んでいるというのか⁉」


 確かに、ウッドロウ王国と亜人連合はかつて敵対していた。

 当時のウッドロウ王国は激しく亜人差別をしており、亜人には人権がなく家畜と同じような扱いをされていた。

 しかし、百年も前に亜人連合との間で和平が成立しており、現在は亜人差別も軽快。平和な関係が築かれている。


「たった五十年しか経っていないですよ……王太子殿下」


 椅子に縛り付けられた状態でメエーナが首を振る。


「亜人の中には人間よりも寿命が長い種族が大勢います。盟主であられるドラグーン一族はその典型です。盟主殿はかつての戦争で兄と姉を失っており、今もウッドロウ王国を激しく憎悪しているのです」


「家族を……娘を犠牲にするほどにか? 復讐のための火種として娘を後宮に送り付けてきたというのか?」


「……その通りです。竜化したヤシュ様に王太子殿下を始末させるため、縁談を受けたのです」


 メエーナが諦めたように肩を落とし、ポツポツと言葉を続ける。


「私は……仲間達は、そんな老人達の都合で利用されて殺されそうになっているヤシュさまをお救いしたく、王太子殿下の暗殺を目論みました。しかし、暗殺は失敗。ヤシュ様は竜になってしまった。もはや手遅れ。何もかもが失われてしまった……」


「…………!」


「ヤシュ様を救う手立てはない。私たちにできることと言えば……ヤシュ様が心まで怪物になる前に殺してあげるくらいしかありません」


「……ふざけるなよ。アイツを殺すだと!?」


 シュバルツは拳を握りしめた。

 亜人連合の盟主がウッドロウ王国を憎んでいるのは仕方がないことなのかもしれない。だが……復讐にヤシュを利用したことは許しがたいことである。

 シュバルツは拳を握りしめ、血がにじむほどに唇を噛みしめた。


(何十年も前の因縁も、盟主とやらの恨みつらみも知ったことか! ヤシュは後宮に嫁いできた妃。つまりは俺の女(・・・)だ! 俺の女に手を出しておいてタダで済ませるものかよ! 断じて、報いを受けさせてやる!)


 だが……その前にやらなくてはいけないことがある。

 現在の最優先事項。何を差し置いてもやらなくてはいけないことがあった。


「……ヤシュを助ける。竜になったアイツを人型に戻す」


 シュバルツは確固たる意志を込めてつぶやいた。

 ヤシュはまだ死んだわけではないのだ。何か助ける方法があるはず。


「無理です。獣化した獣人は元の姿には戻れません。ヤシュ様の竜化とて同じことのはず。ヤシュ様を元に戻す方法などあるわけがない」


「だが……アイツは、ヤシュは盟主の思惑通りには動かなかったぞ? 俺を殺すことなく、どこかに飛び去って行った」


「それは……」


「ヤシュは人間の心を失っていない。だから……俺もアイツを救うことをあきらめない。ヤシュ・ドラグーンは俺の女だ」


 そもそも、竜化したドラグーンが人間形態に戻れないのだとすれば、ヤシュの両親や祖父母。祖先はどうしていたというのだろう。

 竜化して共食いし、そのまま元に戻れないのだとすれば、ドラグーン一族はとうに滅んでいるはずである。

 亜人連合国にドラグーン一族が今もなお盟主として君臨していることこそが、ヤシュを元に戻す方法がある証明ではないか。


 シュバルツは椅子に縛られたメエーナを見下ろし、牙を剥いて笑いながら不敵な言葉を投げつける。


「お前が主君の命を諦めるのなら好きにしやがれ! ただ……お前が諦めたとしても、俺は必ずヤシュを救う。喰われるつもりはない。逆に俺がアイツを喰ってやる!」


「…………」


(ねや)で極上のディナーを食らうのはこの俺だ。ヤシュ・ドラグーン……ドラゴンだろうが何だろうが、誓ってベッドに引きずり込んでやる!」


 凶暴な笑みを浮かべたシュバルツの顔は邪悪な怪物のよう。

 メエーナは頼もしい言葉とは裏腹に、不吉な予感にブルリと肩を震わせたのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。

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マンガBANGでコミカライズ連載中
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