55.弟の行方
襲撃の翌日、シュバルツは翡翠宮へと向かうことにした。書店で購入した本をヤシュ・ドラグーンにプレゼントするためである。
昨日の襲撃のことは王宮には報告していない。襲撃者の正体がわからないということもあるが、もしも彼らが亜人連合国の命令で動いているとすれば、妃であるヤシュが責任を取らされる恐れがあるからだ。
ようやく、攻略のとっかかりを掴んだというのに国王に横やりを入れられるのは御免である。
(状況が混乱するのは構わない。むしろ、そっちの方が暗躍するこちらとしては動きやすくなる。今は静観して火種が燃え広がるのを待った方がいいな)
「何を考え込んでいるのですか、ヴァイス殿下?」
後宮の門をくぐり、翡翠宮に向かう途上。護衛として同行している騎士――ユリウスが尋ねてきた。
いつも通り、人払いされた後宮への道にはシュバルツとユリウスを除いて誰もいない。今なら双子の弟のフリをする必要はない。
「別に。今晩、抱く女のことを考えていただけだ」
「またそんなことを……ヴァイス殿下はそんなことは絶対に仰いませんよ?」
「アイツは無駄に潔癖だからな。酒も女も博打もやらず、いったい何が楽しくて生きているんだか」
「遊び人のシュバルツ殿下とは違うということですよ。ヴァイス殿下は清廉な方ですから」
窘めるようなユリウスの言葉に、シュバルツは「ククッ」と肩を揺らす。
「その清廉潔白なヴァイスがいなくなったせいで、この国は滅亡の危機に追いやられているんだろう? そして、ヴァイスと真逆の遊び人の俺が、国を救うために動いている。なかなかの皮肉じゃないか」
「それは……そうかもしれませんけど」
ユリウスは返す言葉がないとばかりに肩を落とした。
小柄な騎士が消沈しているのを見下ろして、シュバルツはさらに追撃を放つ。
「そもそも……俺は王の資質として『善性』なんてものは必要ないと思っている。君主に必要なのは柔らかな『羊の毛皮』じゃなくて、敵を威嚇する『狼の牙』だ。逆らったら怖いと思うから民は従う。噛まれたら痛いとわかっているから、敵国の侵略を防ぐことができる。ひょっとしたら……ヴァイスだって自分が王に向かないと思っているから、自分から家出したのかもしれないぜ?」
「そんなことは……ないと思いますけど。民から愛されている王様がそんなに悪いとは思いませんし」
「別に愛されていることが悪いとは思っちゃいない。舐められるくらいなら、怖がってくれた方が良いってだけだ。それよりも……ヴァイスの捜索はどうなってるんだよ。船で他国に渡ったことはわかってるんだろ?」
「近衛騎士の一部が追跡していますが……ヴァイス殿下が来訪したと思われる国で小規模な内乱が生じているらしく、情勢不安で大きな捜索ができないのです」
「ふうん……それは好都合だ」
「え……?」
「いや……何でもない。駆け落ちした先で内乱とは、双子の弟もついてないなと思っただけだ」
シュバルツは肩をすくめた。
どうやら、幸運の女神はシュバルツに味方しているようである。
命を狙われたり、曲者の女に振り回されたり……傍目には運が良いようにはとても見えないが、ヴァイスが戻って来るまではまだ時間がありそうだ。
(このまま戻ってこないのであればそっちの方がいいが……そうもいかないだろうな)
ヴァイスがどんな覚悟で国を捨てたのかは知らないが、逃げ出した王子を放っておいてくれるほどウッドロウ王国も甘くはない。
いずれ、ヴァイスはこの国に帰ってくる日が来る。シュバルツと再会するときが来る。
(その時までに……必ず、アイツを超える力と地位を手に入れてやる。魔力無しの出来損ないと言われた俺だが……喧嘩で1度負けた相手に2度敗北したことはないんだぜ?)
シュバルツは内心で嘲笑い、後宮に向けた足を速めるのであった。
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