47.夏至祭
それから2週間後。
シュバルツが提案したとおりに、後宮で夏至祭が開催されることになった。
準備期間が短すぎることについて宰相や女官長から苦言を呈されたものの、後宮でイベントを開き、妃らに気分転換してもらうことについて反対意見は上がらなかった。
シュバルツが中心となって企画・運営をすることを条件に、夏至祭が開催されることになったのである。
2週間という短い期間でどこまで出来るかは怪しいところだったが……幸いにして、シュバルツには頼もしい味方がいる。
「よしゃあ! 商売のチャンスや! 物資の仕入れはウチに任せてや!」
大商会の商会長である水晶妃クレスタ・ローゼンハイドが率先して協力を申し出て、イベントに必要な物資を集めてくれた。
今回のイベントのためにグラオス王が気前よく予算を出してくれたため、クレスタはホクホク顔になってソロバンを弾いていた。
「私にも手伝えることがあればいいんだが……そうだ、余興で『剣舞』でも披露しようか?」
などと提案してくれたのは紅玉妃シンラ・レン。
「私が庭で剣の鍛錬をしていると、何故か多くの妃や女官が見物にくるのだ。どうやら、皆、私の剣に興味があるらしい。幸い、故郷にいた頃に教養として舞も習っている。剣術と組み合わせて披露すれば、それなりに見応えがあると思うのだが?」
「だったら、衣装はウチが仕入れたるわ! シンラさんにお似合いの素晴らしいやつを用意したる!」
クレスタもまた、シンラの提案にうんうんと頷いていた。
大商会であるローゼンハイド商会が企画・運営をして、多くの女性の心を掴んでいる美貌の女剣士であるシンラが余興をする。
これならば、夏至祭はさぞや見栄えの良いものになることだろう
「いっそのこと、他の妃からも余興や出し物を募集するか? シンラだけに任せたら贔屓しているように見えてしまうし。あくまでも自由参加ということにすれば大きな問題はないだろう」
妃として嫁ぐ女であれば、何らかの芸や教養を有しているのは当然である。
舞や詩歌など、磨き上げた芸能を披露する場としてイベントを利用するのも悪くない気がした。
「となれば……通達は早くした方がいいな。ただでさえ、夏至まで時間がないんだ。あっちにだって準備が必要だろう」
シュバルツはすぐさま、後宮にいる妃全員に夏至祭を開催すること、そこで披露する余興を求めている旨を通達した。
もちろん、準備期間が短いこともあって参加も余興も希望者のみ。不参加であってもお咎めのないことも合わせて連絡する。
意外なことに、余興に参加したいという妃はすぐに現れた。中級妃を中心に10人以上がその日のうちに参加を申し出て、下級妃の中からもちらほらと参加したいと言ってくる者がいた。
妃らから衣装などの注文を受けて、クレスタが経営する商会はますます懐を潤すことになったのである。
それから2週間の準備期間を経て、夏至祭が開催された。
短い準備期間にもかかわらず、ローゼンハイド商会が尽力してくれたおかげで盛大なイベントとなった。
場所が後宮ということもあり、会場に集まっているのは妃や女官などの女性ばかりだが……シュバルツにとってはご褒美でしかない状況である。
参加者は料理に舌鼓を打ち、招かれた楽団の演奏に聞き入って、夏至の夜を楽しんだ。
そして……宴もたけなわというところで、本日のメインイベント。妃らによる余興の時間がやってきたのである。
余興の参加者は30人ほど。妃だけではなく、女官からも志願者があった。
シュバルツの予想と反していたのは、4人の上級妃全員が参加を申し出てきたことである。
協力者であるクレスタとシンラはともかくとして、ヤシュやアンバーまでもが参加することになったのは意外な展開である。
(まさか景品目当てではあるまいし、周りの空気に合わせてくれたのか。あるいは、これがきっかけで未来の正妃としてアピールでもしているのか……)
上級妃らの余興は最後の順番に回している。
シュバルツはヤシュとアンバーの参加に首を傾げながらも、会場の中央に設置された舞台へと目を向けた。




