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エッセイ 

経済の二つの行方、アフターコロナのニューノーマル

作者: NOMAR

(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが極論を伸べる。


 2020年1月15日、日本で最初のコロナ感染者が確認され、その後広まるコロナウィルスのパンデミックは人の生活を大きく変えた。


 アフターコロナにおいて、変化した新しい習慣、新しい常識をニューノーマルと呼ぶらしい。マスクにソーシャルディスタンスなど、人の暮らしに馴染み新たな常識として定着しつつある。

 

■マスク


 大きく変わったのはマスクの普及だろう。今では公共の場でマスクをして無ければマナー違反という風潮だ。マスク警察という言葉も現れ、『正義の暴走』は現代の新たな社会問題のひとつともなっている。


 コロナの影響で世界経済は低迷したが、マスクの普及で影響を受けたのは化粧品だろう。中でも口紅は出荷が激減している。マスクをするなら鼻から下は見えない訳だが、口紅の需要はマスクの需要と反比例している。

 コロナ発生前(ビフォーコロナ)には、ひとつの疫病の蔓延から口紅が売れなくなって困る、と予測できた者はどれだけいたのだろうか。


■化粧品業界


 口紅などの売り上げ低下の他にも化粧品業界は問題を抱えている。人権問題だ。


 化粧品の原料のひとつに天然マイカがある。光を反射しキラキラとさせるのに、この天然マイカが使われる。

 和名は雲母。熱に強く電気を通しにくい性質から絶縁体、誘導体として利用され電気製品や塗料など幅広く使われる。

 電子部品ではマイカコンデンサがあり、電気関係では雲母ではなくマイカと呼ばれることが多い。


 キラキラとした艶を出す化粧品に使われる天然マイカ。この天然マイカ市場は大きく、今や500億円市場と言われている。

 この天然マイカの採掘に児童労働搾取がある。


■インドの児童労働


 天然マイカの採掘量が多いのがインド。

 このインドの鉱山で児童労働搾取が行われている。インドでも児童労働は違法になるが、貧しい地域の子供は危険と隣り合わせの鉱山採掘で生計を立てている。


『家族が食べていくためには仕方がない』

『採掘所の中に入っていくのは怖い。いつ崩れて埋もれるかわからない』

『破片が落下して、死んでいった子供を見たことがある』


 2016年、インドのマイカ鉱山を調査したオランダのNGOは約2万人の子どもが働いており、ある地域ではマイカ採掘者の約3分の1が12歳以下だったと発表した。


 児童労働は違法だが、こうした鉱山では多くの子どもが危険な状態で働いており、死亡事故も発生している。

 子供たちは学校にも行けず、1日50円にも満たない賃金のために、恐怖に怯えながら採掘作業を続ける。


 多くの化粧品に含まれている成分の中には、児童労働搾取の闇を抱えているものがある。


 遠い国で子供を犠牲にして作られる化粧品。その化粧品で綺麗にお洒落した母親が、自分の子供の通う学校に授業参観に行く。

 こうなるとまるで、現代版の鬼子母神の物語のようではないか。


■業界の対策


 2018年、世界的なコスメブランド、ラッシュは、口紅やアイシャドーに光沢を加える目的で配合されるマイカを、今後すべての商品に使用しないと発表。

 ランコムやイヴ・サンローランなどを傘下に収めるロレアルは、


『合法的に生産されたマイカしか使用していない』


 と声明を出した。

 ベジタリアンやヴィーガンに適した製品を多く提供するグリーンピープルは、インド産マイカをマレーシア産に切り替える対応を行っている。


■ドイツの食の変化


 コロナで変化が加速したのはドイツの食事情ではないだろうか?

 

 2020年、ドイツでは肉消費量が過去最低を記録した。ドイツの若者の間では菜食志向が強く、欧米の中でも菜食主義が増えていた。

 今ではドイツは、ヴィーガン飲食料の新規商品発売の世界有数の市場となっている。


■肉の消費減少の理由


 ドイツやアメリカの食肉工場でコロナウィルス感染が多く発生。原因を調査する中で、食肉加工工場で働く移民たちの劣悪な環境に注目が集まることになった。

『なぜ肉が安いのか』

 移民に劣悪な環境下で低賃金で働かせていたからだった。

 北米では食肉加工工場の一時閉鎖が相次ぎ、食品供給ルート確保への懸念も広がる。この件が欧米で多くの人が食生活を見直すきっかけになったらしい。


 移民の労働環境を改善しなければ、食肉加工工場で作られた製品を買わない、といった不買運動へとも繋がる。


 もうひとつの理由は環境対策。

 食用牛の飼育は食品産業の中で温室効果ガス排出量が多い。

 このことから牛肉食を減らすことが環境対策ともなる。


 この認識は世代間で差が激しい。

 畜産業と環境問題について教育を受けているミレニアル世代は、特に環境に対する意識が高い。

 ドイツ連邦食糧・農業省BMELの2020年版レポートによると、調査対象者の39%がパンデミック中に農業を重要視するようになり、さらに青年や若年層になると47%に上る。


 ミレニアム世代以降のデジタルネイティブは、インターネットで畜産業のドキュメントなどの情報を得る。

 比較すると新聞とテレビが情報源のロストジェネレーション世代とは常識が変わる。


 ロストジェネレーション世代以前では、肉と野菜をバランスよく食べることが個人の健康に良い、というのが常識となっている。

 ミレニアム世代以降では個人の消費の結果が環境問題、社会問題に繋がる、ということがニューノーマルとなる。


■エシカルとESG


 近年、欧米からエシカルとESGが広まりつつある。


 エシカル、ethicalとは、倫理的、道徳上、という意味の形容詞。

 公平さを重視するフェアトレード、環境保護や社会貢献、秩序の維持、人権などを考慮すること。

 エシカル消費、エシカルファッションなど、法律という縛りが無くとも倫理的な公平さを目指す活動。


 ESGとは、

 Environment(環境)

 Social(社会)

 Governance(統治のプロセス)

 の頭文字。もともとは投資家や金融機関の投資判断を変えるために国連が提唱した造語。


 エシカルもESGも持続可能な長期的経済社会の維持を目的としている。

 消費者の人権意識、環境問題意識が高まるほどに、エシカルやESGに反する企業は消費者に叩かれる風潮へと変化する。


 国連と欧米はエシカルとESGを勧めている。

 しかし、一方で経済はこの反対側の方向も見せる。


■資本主義の進化形


 資本主義と自由競争主義を突き詰めたならば、人権や平等といった概念はビジネスの邪魔でしか無い。


 近代以後に確立した民主主義。この民主主義を支える価値観、人権、平等、ヒューマニズムなどを否定し、国家による介入の無い自由な経済活動を望む思想を、新反動主義と呼ぶ。


 PayPal創業者のピーター・ティールは、


「私はもはや、自由と民主主義は両立可能だとは考えていない」


 と言う。

 ピーター・ティールが積極的に出資を行っていた海上入植(シーステディング)計画。どこの国にも属さない公海上に人工的な島を作り、独立自由国家を樹立することを目的としている。

 新反動主義から見れば民主主義はオワコンで、人権や平等といった概念は時代遅れ。それらのルーツを辿ればキリスト教であり、まるでカルトからの脱却を目指すように既存の政治からの出口を模索している。


 また、加速主義の父、暗黒啓蒙の提唱者ニック・ランドは、


「新中国は未来から到達する」


 と言う。中国の国家資本主義こそが資本主義の進歩した形なのだと言う。

 今のところ実質経済的な成功を治めているのが、新興国が進める国家資本主義だ。


 これに対し、国連に欧米先進国はヒューマニズムを重視する持続可能性のあるエシカルな経済を推し進めている。

 利益を選ぶか、ヒューマニズムを選ぶか、それとも両立させる新たな概念が誕生するのだろうか?


■日本はどうか?


 日本はと言えば経済の為に近代ヒューマニズムを犠牲にする政策から経済成長した国でもある。

 1970年代、成田国際空港の建設において、建設地の三里塚の農民に対し、


「ババア! まだ生きてるのか! さっさと死ね!」


 と、脅して建設予定地から追い出そうとするのが当時の国のやり方だった。これに地元の反発が高まり、運動家が参加し、やがて1978年、成田空港管制塔占拠事件が起こる。

 国は武力で反対を押さえ込み翌年、成田空港は開港する。

 1980年代には自動車、家電のハイテク産業を中心として欧米への輸出を伸ばしていった。


 新国際空港の建設からグローバル化による恩恵を受けたが、成田空港の建設は未来に遺恨を残す、国家が行う空港建設事業の最悪の失敗例と呼ばれる。


 ドイツのミュンヘン空港の建設においては『成田の悲劇を繰り返さない』として、空港公団も反対派も非暴力による解決を目指した。

 4年間、250回に及ぶ対話集会を行い和解を進める。

 成田空港建設事業は反面教師として世界の役に立っている。


 また、平成30年には労働基準監督署が監督指導を実施した事業場7334のうち、5160に労働基準法違反や労働安全衛生法違反が認められた。違反率は70.4%になる。


 労働基準法を厳密に適用すれば日本の企業の多くが倒産に追い込まれる、という意見もあるが、事業場の7割が労働基準法、最低賃金、労働安全衛生法は守らなくてもいい法律だ、という認識のようだ。


 市場に委ねれば労働者の賃金は安くなる。買う側から見れば安い方を買うのがコスト削減になる。人権を考慮しないブラックな経営は利益を生む。


 人権や平等といった概念の歴史の浅い日本では、無自覚に国家資本主義を進めていたのではないだろうか。


■利益を得る方法


 環境と人権を考慮し持続性の高い社会を目指すESG。

 自由競争を徹底し利益を求める新反動主義。

 二つの方向性を見せる現代の経済。


 小難しい話を続けたが、この問題を単純化するには、利益を得る為の方法を追求すれば分かりやすい。

 人が利益を得る方法とは、突き詰めれば二つしか無い。


 自然から奪ったものを売る


 他人から奪ったものを売る


 無尽に資源を産み出す奇跡か、無限のエネルギーを産み出す永久機関の発明でも無ければ、これが変わることは無い。


 自然から勢いよく収奪し枯れ果ててしまえば、未来では自然の恵みを得られなくなる。

 日本は狭い島国であり、過去には自然に手を入れ長持ちさせるようにしてきた。


■ESG鉱山『石見銀山』


 2007年、島根県の石見銀山が世界遺産に登録された。

 鉱山は大量の炭用木材が必要になり、伐採から森林を荒らすことになる。

 だが、石見銀山一帯には豊かな森林が残されている。


 石見銀山では銀の精錬に必要な木炭を安定確保するために植林活動を行っていた。これでハゲ山になること無く、木が山に根を張ることで土砂災害も軽減していた。


 21世紀が必要としている環境への配慮が、200年以上も昔に石見銀山で行われていた。この点が高く評価され世界遺産登録となる。

 

 だが、日本は明治の文明開化からの西洋化、近代合理主義により、環境への配慮という文化と技術は喪われていく。やがては水俣病やイタイイタイ病といった公害病を産み出しながら経済成長していく。


 日本ではESGとは、過去に行っていたが今ではその意義も技術も忘れてしまったもののようだ。それを今になって欧米先進国が注目し、日本も慌てて取り繕おうとしてるようにも見える。


■まとめ


『金は命よりも重い』はマンガ『賭博黙示録カイジ』に出てくる名セリフだが、金が存在するのが当然の価値交換社会では、命もまた金に換算されてしまう。


 私自身、子供のときは父の経営する会社が傾いたときには株主に売られそうになったし、その後は生命保険に賭けられたりもした。


 電子部品の工場で働いていたときには、北朝鮮からミサイルが発射されたニュースの後で、会社の上司は韓国向けの部品の注文が増えると喜んでいた。仕事が少なくなったときは、また北朝鮮がミサイル撃ってくれないかな? というノリだった。


 自然は大事に守るよりは壊した方が金になる。人の身体という自然の産物も、守るよりは壊した方が利益になるらしい。


 だが金というのは人の作った人工物で、人の技術は金は作れても、命というのは未だにミジンコ一匹作り出すこともできない。

 命を金より軽くしてしまったものの正体とはなんだろうか?

 金は命よりも重い、をいつの間にか実践した結果に、現代は自爆テロはもっともコストパフォーマンスに優れた攻撃手段のひとつとなった。


 これからの経済はどこに向かうのか? 人権や平等といった近代ヒューマニズムを排除する自由競争主義か、それとも環境と社会の維持を優先する、江戸時代に回帰するような社会を目指すのか。


 それを選択するのは、このエッセイを読むあなたになる。


 このエッセイを読む人の中に、これまで一度も金を使ったことの無い人は、まずいないだろう。

 金というのは投票にも似ている。商品を買うという行為は、その商品を作る企業を支援し、その企業の方針に賛同することになる。


 先程の天然マイカを使用する化粧品を買うというのは、

 安く化粧品が買えるなら原料のコストを下げる為に児童労働搾取をすればいい、という企業の方針に一票を投ずることに近い。

 これは投げ銭や寄付型クラウドファウンディングなどと比べると分かりやすいだろうか。


 そして多くの票を集めた企業が生き残る。繁栄する企業の経営理念が経済社会を牽引する。


 以下はフェアファイナンスガイドジャパンによる2016年、実態調査より引用。


◇◇◇◇◇


「兵器」テーマ実態ケース調査


 本報告書では、海外NGOの報告書を元に、国内大手4銀行グループ(三菱UFJ、みずほ、三井住友、三井住友トラスト)による核兵器製造企業、クラスター兵器製造企業への投融資額をまとめたところ、4銀行グループで計136億6900万ドル(約1.4兆円)の投融資を行っている実態が明らかとなりました。


 また、巨額な公的資金運用を行う年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2016年7月29日に保有全銘柄を公表したことを受け、GPIFによる核兵器・クラスター兵器製造企業への投資額を調査した結果、約3873億円の株式、約15億円の債券を保有していることが明らかとなりました。


◇◇◇◇◇


 銀行に金を預ける。年金を払う。これだけで誰もが世界の軍需産業に投資し、核兵器を増やすことに参加できてしまう。

 誰もがこのゲームに参加している。

 関わりたく無いならば、1円も稼がず1円も使わない暮らしをするしか無い。


 この結果に現れる次のニューノーマルとはどのような形だろうか?

 あなたの買い物の仕方が未来に影響を与える。


BGM

『Happy face』jagwar twin

『大っ嫌いだ』雨河雪

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― 新着の感想 ―
[一言]  無理したものは長く続かない、これが持論です。  自由競争主義でいくら児童搾取しても、子供が死んで次の世代が生まれなきゃ、労働力が何れ居なくなるわけで何時かは作れなくなりますよ。  そうな…
[一言] まさしく、現実は御伽噺のようにはいかないというのを暗に示している話の数々ですね。 けど、考えてみればいい要は悪いですけど当然のことでもないかとそう思いもします。 資本主義と自由競争主義に人…
[一言] 綺麗ごとではすまない社会で綺麗ごと述べる方々がエッセイでいろいろ言っていましたが、結論としては100人を助ける為に1万に○ねという内容ばかりで現実を理解できていない方々ばかりでした、これを解…
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