第二幕【目覚めた先は…】
__ふと、懐かしい記憶が流れた
ずっとずっと昔のこと、そんな気がする。
実を言うと、幼少期の頃の記憶はあまりない。
頭を打って記憶喪失とか、別にそんなのではなく、ただ、靄がかかったように、はっきりと鮮明に思い出すことができない、そんな程度のものだ。
いつから私は甘い甘いかぼちゃの煮付けを嫌いだと思ったのか、
いつからアイツをこんなにも嫌いだと思ったのか、
いつから両親の目を煩わしいと感じるようになったのか、
…なんて、そんなことを今考えても意味がないだろう
なにしろ、私は飛び降りたのだから___
だが、なぜこんなにも思考しているのだろう、
死後の世界とはここまで思考できるものなのだろうか、?
…そんな疑問を抱いたその時、私は自分が周囲を感じられるということに気が付いた。
五感が働いているのだ。
感覚的にも、私の肉体と意識はまだ繋がっている。
__失敗したのだろうか?
「最悪だ」
その言葉で頭が埋まっていく中、私は生を感じることに嫌悪を抱きながらゆっくりと目を開けた。
「…は、?」
___おかしい、何かがおかしい
混乱する頭を整理すべく、周りを見渡して自分の置かれた状況を今一度把握する。
眼前に広がるのは、先程私が飛び降りた屋上の下のコンクリートの上ではなく、
病院の真っ白な空間でもない、
自分の部屋でもない、
まるで闇夜を思わせるような真っ黒な空に、それと対になるように一帯に広がる真っ白な花々_。
どこか浮世離れしたような、そんな風景だった。
この目に映せる限りで見渡しても、それ以外の情報は入ってこなかった。
あいにくこの状況を見て、幻想的だ、なんて思えるような感性は持ち合わせていない。
夢、にしてはあまりにも意識がはっきりとしている。
だが、ここが私が生きていた世と同じ空間だとも思えない。
…なら、ここは、死後の世界なのだろうか?
俗に言う、天国とか地獄とか、
そういったところなのだろうか。
……そんなものも、信じてはいないが。
ぼんやりと考えていたその時、この静寂という言葉を具現化したような空間に、なんとも不釣り合いな声が響いた。
「あ、やっと目が覚めたんだねー!」
「………だれ、?」