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制裁

 面談の時間が近づいてきたことを知った家森先生は私の部屋の玄関のところへ向かったが、その前で一度振り返ってまた私のことを抱きしめて、仲違いが修復出来た後だからか今までにないくらいに優しく情熱的なキスをしてくれた。身体も頬も熱くなってしまう。


「……ヒーたん」


「はい?」


「面談が終わったらまた来ます。そして……あなたに大切な話をしたい。」


 それは……もしかしたらお付き


 ドンドン


「……。」


 また誰か来た。何でいつも大事な話をしている時に誰かが来るんだろう。全く忙しいなと思いながら玄関のドアノブに手をかけようとすると、ぐいと腕を引かれて私は家森先生に後ろから抱きつかれてしまった。


「いいから出ないで。僕とキスして。」


「は、はい……」


 しかし彼もまた、何でそんなにも熱く私を求めてくるんだろう、また後でここに来るというのに……。でも彼の言葉にドキっとしてしまった私は言われた通りに彼と口づけをした。


 優しい感触が口の中を支配する。それだけで満足出来ないのか、家森先生は何度も口をつけて首まで移動し、今度は私の首筋をカリカリと甘噛みしてきた。


 この甘噛み……前はむず痒いだけだったけど、最近は特に体が変になりそうになる。体全体が愛おしさで支配されるようなこの感じが何なのかはまだ分からない。


「あ、あまり激しいことはちょっと……そこに誰かいるから。」


「ダメです。まだ全然足りない。」


 どうしてよ〜〜


「おーい、ヒイロいるよねー!部屋の電気付いてるもん。」


 グレッグかよ……懲りずにまた来たんだ……。

 彼の言葉を聞いて何故か家森先生が離れてくれたので、私はさっきの声に応えることにした。


「い、いるけど何ー?」


「もう家森いないー?」


 家森先生が私に耳打ちをした。


「いないと言って。」


 え!?しょ、承知しました……。


「いないけどー?」


 すると閉められたドアの向こうから返事が来た。


「やっぱお金貨して!お願いでーす!」


 ……。


「全く懲りませんね……ちょっと待っててください。」


 小声でそう呟いた後に家森先生が玄関のドアノブに手をかけた。

 こりゃまずいな。


 ガチャっと勢いよく開けられたドアのすぐそばに立っていたグレッグが、目の前に現れたのが家森先生だと気づくとすぐにその表情を強張らせてしまった。


「あ、ヒイロお前どうして嘘ついたんだよ!」


「僕がそう言うように彼女に指示しました。」


 バタン!と勢いよくドアが閉められてしまった。私は廊下の様子が気になりつつ近くの椅子に座った。


「はあ、やれやれ……」


「……。」


 やはりこの建物は壁もドアも薄いので、ドアが閉められててもその奥から話し声がもろに聞こえてくる。


「何故禁止とされていることを、注意を受けた後もしようとしますか?今まで何回同じことをしてきたんです?」


「いやっ……今回が初めてなんです。本当に、本当に!でもまあマーヴにはお昼代程度なら借りたことがあります……でも今回のような大金を借りようとしたのは初めてです!」


「では何故ヒイロにそんなに多くのお金を借りようと?防具代にしようとしたのは理解しますが、何故ヒイロ?コンテストで受賞したからですか?」


「そう、そうですよ!だってあいつはコンテストで300万と印税もらったんだから!サイトに書いてあったんですもん!」


 調べたんかい……。


「だから少しぐらい借りたって全然何ともグエエ!」


 え?なになに、何が起きてる?……


「コンテストで賞金を手に入れたからといってヒイロに無心するとは何事か!この大ばか者めが!!それもそうだが僕のことを呼び捨てにするとはいい度胸だ!ハムのように体を縛り、足首から逆さまに吊るしあげたとしても文句など言えないはずだ!例え便所に隠れていたとしても探し出して息の根を……それは言い過ぎでしょうか。そうそう、あなたはご存知無いようですが僕は教師でした。」


 家森先生の怒声が廊下から響いてきた……超怖い。多分、グリーン寮の他の皆もそう思っているだろうな……超怖いもん。寧ろ、家森先生の方がマフィア出身なんじゃないんだろうか。そう思えるぐらいに怖い。


「あぁ……それとも。ほぉ、なるほど。また飲みたい訳か。そんなに僕のこれを気に入っているのですね。やれやれ、全く……グレッグは本当に欲しがりさんなのだから困ったものですねぇ。ふふっ」


 家森先生の怒りが次のステージに入り始めたようだ……やば。


「やだ、やです、やですってーーーーー!壊れちゃいます!家森先生!家森先生!それだけは!それだけは…………なにとぞーーーー!何卒!何卒!何卒!」


 何卒って連呼してる……笑っちゃいけないのかもしれないけど笑ってしまう。


「もうお金の貸し借りしません!家森先生のことだって、もうそれは素晴らしい先生であることを僕もですが皆も知っています!それに何でもします!家森先生の為に何でもしますから!あ!そうだ!ヒイロ様に家森先生様と付き合うように進言します!だからお願いします!」


 何だか……彼が必死すぎてちょっと可哀想になってきた。でも笑いそうになっちゃう。


「……うるさい。罪は罪、罰は罰です。さあ飲みなさい!」


「虐待だーー!」


「どうしてです?これを飲むと体は健康になる健康飲料ですよ?健康飲料を飲ませることのどこが虐待になりますか?……味は知りませんがね。ふふっ、ほーらほーら。」


「やめてやめてやめて!ごめんなさいもうしないーーーー!あがっ……ごえっ……うぉえ……うぉえ……」


 ああ……ついに飲んでしまわれた様だ……。


「よしよし、いい子だ。さて、もうお金の貸し借りは?」


「しません……家森先生の言うことは絶対です。」


「よしよし。もう絶対にしませんね?」


「しません……家森先生の言うことは絶対です。」


 なるほど……グレッグは家森スペシャルを飲まされてああなるんだ。しかし初めて家森先生のガチ怒りを聞いてしまったけどまじで怖すぎる……いつか私も何かヘマをしてしまった時にああやって怒鳴られながら家森スペシャルを飲まされてしまうときが来るのだろうか。


 あ、そうだ。そうなったらベラ先生や秋穂さんに助けを求めればいいんだ。そしたら逆に彼が……いや、それはやめておこう。倍にして返されるのがオチだ。


 ガチャと扉が開いて、全てを終えた家森先生が私の部屋に入ってきたので、私は何故か椅子からその場でピシッと直立してしまった。それを見ていた家森先生がいつもの微笑みで私を見てくれた。


「ふふ、少し怖かったですか?」


「……否定はしません」


 ふふ、と微笑んだ後に家森先生が私に抱きついてきた。それでも私はまだ体を緊張させたまま直立している。


「ヒーたん、僕のこと愛してる?もう怖くなった?」


「こ、怖くない……多分ですけど。愛してはいる。」


「ふふっ……僕もとっても愛してるよ。」


 ぎゅうぎゅう抱きしめてくれる家森先生……さっきとのギャップが激しすぎて辛い。嬉しいけど辛い。


「はい、ありがとうございます……あ、もう時間が。」


「ああそうですね。ではいってきます。」


 私のおでこにちゅっとしてから家森先生がまた玄関の扉を開け、廊下の床で倒れているグレッグを平然とまたいでその場から去って行った。


 ……私はグレッグが呼吸をしていることを確認すると静かに自室へと引っ込んだ。

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