第13話 閑話1
ほとんど話は進みません。
一休みということで見逃してください。
俺は、アラン様に邪竜を撃退したことについて話した。
「本当かい!?被害なしで撃退!?すごいじゃないか!勇者様以上だよ!王様に報告しよう!」
これは?俺も英雄デビューですかい!?
前世で夢にまで見た、謁見ですかい!?
まあ、ここから王都まで片道3日かかるから、報告が届くのは6日後以降だろう。
俺は、長めの休暇をもらった。団長に口のあたりがまだ痛いって報告したら、しっかりと直してこいって言われた。
ツンデレなのかな?
お母さんにもすっごい心配された。
やっぱり、お母さんは俺を愛してくれている。俺が転生した時と比べて、老けてきているが、やっぱり母さんのことは大好きだ。前世では恩を返せなかった分、この人に返そうと思う。そんなことを思いながら、俺は家族という安心感がある喜びを噛みしめる。
俺は母さんに、その時怖かったことを吐き出しまくった。なんだか、吐き出しておきたかったんだ。
「テルはまだ子どもなんだから、母さんより先に死んじゃいけないからね!」
この言葉が、ここまでありがたく感じたのは初めてだ。
1日後
久しぶりに、魚を捌いてみる。少しなまっちゃったかな。なんだか、この平和さにありがたみを感じる。
まだ俺が料理人として働いていたときのことを思い出す。
エマは、元気だろうか?まだあいつは天使しているだろうか?
あいつを守れる男に、俺はなりたかったことを思い出す。俺は、価値のある人間のために死ぬんだ。価値のない人間は、優しい世界を作るための糧になる。そして、俺は少しでも人の役に立つ。それが俺の目標だ。
あいつは、俺が守るべき対象で、優しいやつなんだ。また俺は、決意を新たにする。
〜エマサイド〜
私が物心ついた頃には、すでにテルがいた。なんでこんなに仲良くなったのか、全く覚えていない。住んでるところが遠いから、毎日遊んでいたわけでもないのに。
けど、テルは昔から大人っぽいところがあった。なんだか私たちと見ているものが違う、遠い存在な感じがした。
そういえば、一緒に洗礼を受けに行った時に、いきなり「アホかアアアァ!」って叫んでたっけ?
あれは見てて少し笑った。けど、そのあとすんごい落ち込んでた。
「大丈夫?」
「ぁ、ああ、大丈夫だよ。」
そう言って、落ち込んでたはずなのにいきなり明るくなって、賢者になったことを祝ってくれたっけ。今では、あれが彼なりの思いやりだってわからようになった。
テルは、昔から今の私くらい頭が良かった。もっといいかもしれない。
それでいて、彼は暖かかった。人のことを気遣っていた。
だけど、洗礼の次の日、家に帰る日に、テルがなぜかイジメられてた。
びっくりして止めたと思う。そのあと、テルはイジメられてたのに、笑顔を作って「ありがとう」と言ってきた。
その時はなにも思わなかったけど、よく考えれば、テルはすごく強い心の持ち主だってわかった。
次にテルにあったのは、勇者様を村に来るから行ったときだった。
賢者の人が話しかけてきた。
「君がエマちゃん?よろしくね!」
賢者の人が私に髪飾りをくれた。
「ありがとう!」
嬉しかった。だけど、それからすぐに、「魔物が襲ってきた!」
テルのお父さんが言ってから、みんな一斉に家に入っていった。その時に、村の人とぶつかって、私はもらった髪飾りをなくしてしまった。
しばらく探し回っていたら、
「クギャッ」
ゴブリンが襲ってきていた。私は泣きそうだった。
その時、
「オラァ!」
テルが松明を持って助けに来てくれた。
「大丈夫か!?」
そう言いながら、彼はゴブリンに火をつけたり、嚙み殺したりした。
その時、私は少しテルが怖くなった。
私を守るためにやってくれたのに。
「なにやってんだ!早く家に入るぞ!」
テルは私の手を握り、家の中につれていこうとした。
その時、ものすごい振動と音がした。
私はまた怖くなった。
そのあと、砂がいっぱい飛んできたあと、上を黒いドラゴンが飛び去っていった。
そのあと、勇者様がやってきて、テルに何か話した。
それからテルに話しかけても、なにも反応しなくなった。
何か声を出したかと思えば、泣き出し、私の声は全く聞こえていない。
私は、なにも出来ない悔しさを感じた。
その後で、テルのお父さんが死んだことを聞かされた。
テルは、お父さんを殺されて、泣いていたんだってことを知った。
そして、それから私が賢者として戦うことになるのが怖くなった。
あの暖かくて、強かったテルを、あんな姿に変えたあんな恐ろしい存在に立ち向かわなければならなあことが怖かった。
それから、テルが家に遊びに来るようになった。
テルは相変わらず暖かかった。が、目の下にくまができていて、少し寂しい感じがした。
「元気になったんだね!」
少し違和感を感じながらも、テルに話しかけると、テルは嬉しそうな顔をして、
「うん!」
肯定した。それから、彼は少しずついつも通りになっていった。だけど、いつまでの目の下のくまは消える様子がない。
テルは夕食の時は毎日いるようになった。
私がテルが働きにきていることを知ったのは、少し後のことだった。
それから、いつも通りの日常が戻ってきた。少し違うのは、テルとよく会うようになったことくらい。
そして、賢者修行に出発する7日前に、テルに話しかけられた。
私は、怖いなんて言ったはずないのに、
「お前、賢者になるのが怖いんだろう?」
なんて言われた。
私はテルに言い返してやって、テルと笑い合った。
私の恐怖心は、少し薄くなった。テルは、ここまで明るくなった。
テルは強い。テルは私を守ってくれる。
なんだか、そんな気がした。
そして最近、私はテルに会えなくて寂しい思いをしている。
なんだか勇者になるらしいケインという子がうっとおしい。
「俺が守る」とか言いながらすごく言いよってくる。
すごくめんどくさい。なんて返せばいいのかわからない。
テルに言われた時と比べれば、説得力が感じられない。テルの方が勇者の風格がある。
ケインと丸ばつゲームをしているよりも、テルを守れるようになるために修行している方が楽しい。ケインはプライドが高くて面倒だ。
そして、今日、お父様からの手紙に人生で一番驚くようなことが書いてあった。
テルが、ウォルト村を邪竜から被害0で守りきった。
そんな内容だった。
テルはやっぱり強い。心だけでなく、実力さえ私とは違うところにいるんだ。
少し悔しさもあるが、心の底から尊敬する。
私は、1日中メイドさんたちにこのことを自慢し続けた。