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閑話〜アーダルベルトの為人〜

 旧ナザール帝国帝都ビリニュスに再び来ている。


 マクリル帝がナザール帝国を出た後、この地の様子がどうであったのか知りたかったからだ。


 特に、第二皇子アーダルベルトのことが知りたかったのだ。


 そのため、再び帝立学院の学院長を訪ねる。


「度々訪れてしまい、申し訳ありません。」


「かまいませんよ。皇帝からも貴方に協力するよう、通達も来ておりますし。」


 これは初耳だった。


「それで、今日はどのようなことを知りたかったのでしょう?」


「はい。マクリル帝がナザールを出た後、アーダルベルトが帰国したのですよね?」


「その通りです。人質交換に近い形で、アーダルベルトの帰還は為されました。」


「そこで、今回はアーダルベルトの帰還後の様子を知りたいと思い、再びここに来たのです。」


「なるほど、そういうことですか。」


「早速なのですが、アーダルベルトはマクリル帝に感謝していたのでしょうか?」


 その後の歴史を知る私には、そのようには思えない。

 だが、実際はどうだろうか?

 意外と感謝をしていたのではないだろうか?


 そんな気がしてしまったのだ。


「そのような様子は無かったようです。」


「無かった?」


「はい。むしろ、臣下の者が皇族の役に立つのは当たり前のことだと、そう考えていたようです。」


 私には理解できないことなのだが、アーダルベルトは本気でそう思っていたようである。


「周りもそう考えていたのでしょうか?」


「いえ、周りの者たちはマクリル帝やヒルデガルド皇女へ感謝の意を表さない、アーダルベルトに愛想を尽かしていたようです。」


「それはどういう?」


「やはり、ヒルデガルド皇女の健気さでしょう。

 ヒルデガルド皇女は、マクリル帝がキタイ族の王となることもあり、そのきさきとして恥ずかしくないよう、懸命に教育を受けておられたようです。」


 愛するマクリルと引き離され、今度こそ一緒に暮らせるようにと懸命な努力を見せる。


「泣きたい時もあられたでしょうが、少なくとも皆の前では一度も涙を見せなかったようです。」


 その姿が一層、健気に人の目には映り、マクリル帝とヒルデガルド皇女に感謝をしないアーダルベルトの人望は、それこそ地に落ちた。


 そして、そのことに我慢がならないのが誰あろう、アーダルベルト本人である。


アーダルベルトは、自分がキタイ族の虜囚となり、苦労して帰ってきた。

 それなのに、なぜ自分の苦労が評価されないのかと、そう溢していたそうです。」


「本当に、彼は自分で口にするほどに苦労していたのでしょうか?」


「彼と彼を支持する派閥の者以外は、誰もそんなことを思ってはいないでしょう。」


「それはなぜ?」


「二十人もの愛人を連れて帰って来たからですよ。

 そして、明らかに出征前よりも太って帰って来ている。」


「愛人の話は知っていましたが、太って帰って来たというのは初耳です。」


「あまり知られていない事実ですね。」


「どれほど太っていたのですか?」


「自力で馬に乗ることができないほど、太って帰って来たそうですよ。

 帰国してから少しは痩せたようですが、それでも自力で馬に乗ることは出来ず、帰国してから馬に乗ったという記録はありません。」


 そんな状態では、誰も苦労していたなどとは思わやないだろうと納得してしまう。


「キタイ族は、意図的に太らせたということはあるのでしょうか?」


「美女をあてがい、望むものを与えて自意識を肥大化させたというのなら、そうとも言えましょう。」


 なぜ、そんなことをしたのだろうか?


「そうすることで、交換が成立しなかった場合に備えていたのです。

 交渉が決裂した時には、別ルートで帰国させるつもりだったようですから。」


 そのような状態のアーダルベルトが非正規のルートで帰国したら、間違いなく巨大な火種になっていただろう。


 なにせ、正規のルートで帰国してすら、大きな火種になっていたのだから。


「自身が思っているようには、誰も評価してくれない。

 その思いが暗い情熱を燃やすことに繋がり、そして破滅へと導くことになったのです。

 自分自身だけでなく、ナザール帝国という国も。」


 その後も、幾つかのやりとりを行い、一時間ほどしてから私は学院を後にする。


 アーダルベルトの為人ひととなりを知るために来たのだが、想像以上に酷い人物だったようである。


 マクリル帝とヒルデガルド皇女の悲劇は、起こるべくして起きたのだと、私はそう確信してしまった。


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