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説得

 ブルノ男爵ユストゥスと、ブラウンシュヴァイク公の孫娘シャルロットの婚約披露会。


 マクリルは、皇帝ロタール三世と会談を持つ機会を伺っている。


 実兄クラウスとは、マクリルが皇帝を説き伏せるという条件の下で合意ができている。

 それは、ツェーザル立会いのものであり、そしてアウグストとルパートも立ち会っており、クラウスも反故にはできないものとなっている。


 後は、マクリルが皇帝ロタール三世を説き伏せる、それだけだ。


 マクリルは参列者を見て、ホッと安堵の息を吐く。


 ヒルダが参列していないのだ。

 ヒルダがいる前で説き伏せるというのは、流石にマクリルといえど躊躇われる。


 そして、その機会はアッペルフェルド大公夫人とブラウンシュヴァイク公クリストハルトの計らいによりもたらされる。


 立ち会ったのはアッペルフェルド大公夫人。


「陛下。キタイ族の交換要求を受け入れてください。

 それが、この国のためです。」


 単刀直入に言うマクリル。


「なっ?!なぜお前がそれを知っている?」


 ロタール三世は、もしかしてと姉であるアッペルフェルド大公夫人へ振り返る。

 だが、そのアッペルフェルド大公夫人は頭を左右に振る。


「私は何も言っていません。

 マクリルは、キタイ族の使節が来たことから、そのことを察していたのです。」


 絶句するロタール三世。


 マクリルが聡いことは知っていた。

 だが、ここまでのものだとは思ってもいなかった。


「貴方や廷臣たちは、マクリルの出仕を止めたことで情報が渡らないようにしていたのかもしれない。

 ですが、マクリルは自身で情報を得るための人脈を築いていたのです。」


 アッペルフェルド大公夫人も、マクリルがキタイ族の者と接触していたことまでは知らない。


「だが・・・」


 ヒルダがなんと言うか。


 マクリルを出すということは婚約の解消であり、今回の件では間違いなく永遠の別離となるだろう。

 その時、ヒルダはどのような行動を取るだろう?


 娘のことを思う父としては、暗澹たる気持ちになる。


「陛下。

 陛下は、このナザール帝国の皇帝にございます。

 私人としての想いを持たれるのは、良きことではあります。

 ですが、この国のより多くの臣民の暮らしの安寧を、よりお考えください。」


「・・・」


 逡巡するロタール三世に、マクリルは追い討ちをかける。


「このままでは、どのような形になるにせよ、この国は大きく割れることになります。

 最悪の場合は、長い内乱となりこの国が滅びます。」


「それは、どういうことか?」


 ロタール三世は、顔を上げてマクリルに下問する。


「このまま煮え切らない状況が続けば、キタイ族は腹いせにアーダルベルト皇子を解放するでしょう。」


「腹癒せ?」


「解放するにあたり、こう吹き込むことでしょう。

 皇帝は、息子であるお前ではなくマクリルを選んだのだと。

 そう吹き込まれたアーダルベルト殿下は、どう思い、どう考えられるでしょうか?」


「・・・」


「殿下は、御自身がこの国で生き延びるために戦いという手段を取られる可能性が高いでしょう。」


「そうさせない手段はないのか?」


「あります。

 ですが、陛下はその手段を取ることはできないでしょう。」


「なぜ、そう断言できる?」


「それは、アーダルベルト殿下を捕え、殺害することだからです。」


「!!」


「仮にアーダルベルト殿下と戦い、勝利して捕縛した時、陛下は御子息であるアーダルベルト殿下を殺すよう命じることができますでしょうか?」


「・・・」


「それができなければ、国は大きく乱れることになります。

 陛下は、臣民を長き苦しみに突き落としたいのでしょうか?

 そうでないのならば、キタイ族の提案をお受けしてください。」


 マクリルの言葉の後、長い沈黙が流れる。


 そして、


「わかった。提案を受け入れよう。」


 絞り出すようなロタール三世の声。


「ヒルダへは・・・」


「それは貴方がしなさい。

 まだ十六歳のマクリルが、この国のために覚悟を決めたのです。

 それなのに、皇帝たる貴方が自分の娘を説得できなくてどうするのです?」


「そう、ですな。

 ヒルダは私が説得する。

 だが、リューネブルク家はどうするのだ?」


「それは、すでにサナキア公よりゲラルトとルパートを養子とする旨、了承を得ております。」


「そうか。

 マクリル、お前はすでにそこまで手を回していたのだな。」


 そう言うと、ロタール三世は大きく嘆息する。


 これが、マクリルとアーダルベルトの交換が決定した瞬間である。


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