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ツェーザルとの対談

 ブラウンシュヴァイク公クリストハルトの孫娘アーデルハイトと、ブルノ男爵ユストゥスの婚約が発表され、その四日後に御披露目が行われることが決定される。


 その招待状を持ってきたブラウンシュヴァイク公の使者は、


「公よりの言伝ことづてがございます。

 ロタール三世陛下もいらっしゃるとのことでございます。」


「わかりました。

 公の気づかいに感謝すると、そうお伝えください。」


 使者は一礼すると、帰っていく。


 その後ろ姿を見ながらマクリルは呟く。


「義父上が戻られるのが七日後。

 ロマリア帝国使節の歓待の準備を考慮するなら、御披露目がギリギリのところになる、か。」


 それまでに皇帝ロタール三世陛下に面会し、直接自分の考えを伝えなければならない。

 いや、正確には説き伏せなければならないのだ。


 そのためには外堀を埋めなければならない。


「ツェーザル兄上に会うか。」


 本来なら、当主たるサナキア公クラウスに直接会うのが望ましいのだが、残念ながら自分は嫌われている。

 だからそう簡単にはいかないだろう。

 そこで、ツェーザルに仲介を頼むことにしたのだった。






 ☆ ☆ ☆






「よく来たな。」


 気さくな四兄は、そう言ってマクリルを迎え入れる。


「久しぶりだな、マクリル。」


 五兄、ゲラルトもいる。


「ゲラルト兄上もおられましたか。」


「ああ、今日は休みなのでね。」


 マクリルはゲラルトと握手を交わす。


 客間に通されると、マクリルは単刀直入に切り出す。

 自分がこの国を出ることを。


「どういうことだ!?

 お前はヒルデガルド殿下の婚約者だろう?

 なのに、なぜこの国を出る!!」


 ゲラルトは思わず激昂するが、ツェーザルはそれを押し留め、


「アーダルベルト皇子か?」


 そう確認する。


「はい。」


 そう返事をするマクリル。


「アーダルベルト皇子返還の条件の一つが、お前の引き渡しだという噂を聞いた。

 どうやら事実のようだな。」


 何も言わず、マクリルはツェーザルを見ている。


 ツェーザルは大きく溜息をつく。


「今更だが、あの馬鹿皇子はヴァルザル平原で死んでいて欲しかったな。」


 直裁過ぎる本音の吐露に、


「あ、兄上!そのようなこと、周りに知れたら!」


 ゲラルトは慌てる。


「お前が黙ってりゃいいだけだ。」


 ツェーザルはそう言うと、


「お前は、どうやってその答えに辿り着いたんだ?」


 そう疑問を呈する。


「キタイ族の使節団の者と接触しました。」


 ブロディルが使節団の一員だったとは思わない。

 だが、他に説明のしようがないためそう答える。


「ブロディルという名を、覚えておいででしょうか?」


 ツェーザルはブロディルの名を口の中で何度も呟くと、


「あの時の使者の名が、ブロディルだったな。」


「そのブロディルと、帝都の酒場で接触しました。」


「そこで、そのことを教えられたのか。」


 マクリルは頷き、そして続ける。


「使節団団長は、ユリド。」


「ユリド?!あの女戦士か!!」


 あの時はブロディルが使者であり、ユリドはその護衛だった。


「そのユリドは、アブーチの娘とのこと。」


「どうりで、なかなか油断できぬ相手だったわけだ。」


 そして、ユリドの名から一つのことに行き着く。


「あのユリドは、お前を欲していたのだったな。」


 ツェーザルはようやく繋がったと、そう言わんばかりに頷く。


「だがマクリル。陛下がヒルデガルド皇女の婚約者たるお前を、手放すとは思えないのだが?」


 ゲラルトが疑問を口にする。


 ロタール三世は優しい人物である。

 ことに子供達に関しては甘いくらいである。


 そんな人物が、娘の婚約者たるマクリルを手放すとは思えない。


「では、アーダルベルト殿下をお見捨てになる、そう思われますか?」


 マクリルの反問に、ゲラルトは口をつぐむ。


「第一皇子アードルフ殿下もいれば、第三皇子アルフレート殿下もいる。

 場合によっては、ヒルデガルド殿下に女帝として登極いただくという手段もあるだろう。」


 ツェーザルはそう口にする。


「はい、その通りです。後継というだけならば。

 ですが、陛下は御自身の子息・・たるアーダルベルト殿下をお見捨てになることはできないでしょう。」


 マクリルは殊更に子息という言葉を強調する。


「そうだな、たしかに。」


 ツェーザルはそう言って沈黙する。


「マクリル、仮にそうだとしても、お前を出すとは限らぬではないか。」


 ゲラルトの言葉にマクリルは頭を振る。


「交渉がまとまらなければ、キタイ族はアーダルベルト殿下を極秘裏に解放するでしょう。」


 その言葉にゲラルトは訳がわからない、そんな表情を見せる。


「極秘裏に解放された場合、どうなると思われますか?」


「どうなるって、何も起こることなどないだろう。」


 ゲラルトはそう口にするが、ツェーザルは、


「国が割れるな。」


 そう断言する。


 解放されたアーダルベルトは、自分を擁立しようとしていた派閥を頼るだろう。

 この場合は、サナキア公当主たるクラウスを頼ることになる。


 その場合、アーダルベルトはどういう思考に至るだろうか?


 自分を積極的に助けようとしなかった父ロタール三世と、それに仕える廷臣たちへの恨みを募らせるだろう。


 それが一定の武力を持つクラウスと結びついたとき、どうなるだろうか?

 そして内乱になったとき、どちらが勝利するにせよ国力を大きく減退させることは間違いない。

 すでに、中級指揮官を大量に失っており、立て直しを図っている国軍は再起するのにより長い時間を必要とすることになる。


 それを他の列強が黙って見ているだろうか?


「国を割らないためにも、この交渉をまとめる必要があるということか。」


 ツェーザルは面白くなさそうに口にする。


「それで、お前は何をするつもりなのだ?」


 ゲラルトがマクリルに確認する。


「私が陛下を説得します。」


「説得するための舞台を、俺に用意しろというのか?」


 ツェーザルの言葉にマクリルは、


「違います。舞台ならブラウンシュヴァイク公が用意してくださいました。」


 ブラウンシュヴァイク公と聞き、


「そういうことか。ブルノ男爵と孫娘を婚約させたのも、お前の差し金だったか。」


 最近の宮中の話題を思い出し、その裏にマクリルがいたことを確信する。


「だったら、俺に何をさせようとしている?」


「クラウス兄上と話をする場を設けていただきたく思います。」


「・・・」


「私とアーダルベルト皇子の身柄の交換。

 クラウス兄上には願ってもいない好機となりましょう。」


 アーダルベルトに大きな恩が売れるだけでなく、はっきり言って毛嫌いしているマクリルを国外へと追い出すことができる。


 クラウスにとって、まさに「一石二鳥」というべきだろう。


「それだけか?」


 あまりにうまい話過ぎて、クラウスの疑念を生むのではないか、ツェーザルは言下にそう言っている。


「交換条件として、アウグストとルパートの二人をリューネブルク伯爵家の養子にしていただきます。」


 マクリルがいなくなれば、リューネブルク伯爵家には後継者がいなくなってしまう。

 だから、その後継者に二人の弟を要求する。


「そうか。」


 マクリルは、アウグストとルパートの二人を目眩しにするつもりなのだと、ツェーザルは気づいた。


 一人で十分なところを二人要求する。

 いや、それだけではない。

 二人の弟を、サナキア公爵家から切り離すことで後継者問題から遠ざけ、その身を守ろうとしてもいる。


「わかった。早急にその席を設けよう。


 ツェーザルは長い沈黙の後、マクリルにそう答える。


 そして、マクリルは深々とツェーザルに頭を下げて、謝意を示したのだった。


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