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ヴァルタリア大陸記  作者: 久万 聖
第二章〜ヴァルザル平原の戦い〜
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ヴァルザル平原の戦い 5

 マクリル隊が退路を確保するために移動した頃、ナザール帝国軍は一層の混乱に陥っている。


 その混乱の原因は、上級指揮官の少なさと中級以下の指揮官が多すぎたことである。

 そのため、本来ならより簡素化されていなければならない指揮・命令系統が複雑になり、即応態勢を整えることができなかったからである。


 さらに、ブルノ男爵コンラートの戦死の報が駆け巡ると全軍に衝撃が走り、より混乱が増幅していく。


 ブルノ男爵の奮戦によりかろうじて保たれていた戦線は崩壊し、キタイ族軍の蹂躙を許してしまう。


 アブーチの鋭鋒は、アーダルベルトのいる本隊に肉薄している。


「な、な、な、な、なぜだ!?

 なぜ、敵がここまで来る?!」


 アーダルベルトには現実の光景が信じられない。


 自分の指揮する軍は、大陸北西部における覇権国であるナザール帝国軍。

 精強で鳴る軍隊であるはずなのだ。

 それなのに、なぜこんな事態に陥っているのか?


 自身が要求して編成させたことが、このような状況を生み出したなどとは夢にも思わない。


 そのアーダルベルトを補佐するエルンストは、もはや腹を括っている。

 アーダルベルトが直率する二五〇〇の兵と、自身の指揮する三〇〇の兵をまとめあげると、困難な撤退戦へと挑む。

 目的は、アーダルベルト皇子を逃がすこと。


 アーダルベルト皇子を中心に円陣を形成し、西へと動き出す。


 だが、その動きを察知したのかキタイ族軍が押し寄せてくる。


 混乱の中で、一定以上の秩序を保って移動しようとする部隊。それは敵からしてみれば目立つことこの上ないものだったのかもしれない。

 脱兎の如く、いち早く逃走していれば後々に起きる出来事は、防げたのかもしれない。


 とはいえ、エルンストの判断が間違っていたとも言えない。

 皇子を単独にさせてしまうと、敵兵に襲われた時に殺害されることすら考えられる。

 それを防ぐために、集団で守りながら移動するのは間違った行為ではない。


 一方のアブーチは、ナザール帝国軍の動きを注視していた。

 必ず、混乱の中で最後に動き出す集団がいる。

 そこに、この軍の主将かそれに準ずる者がいると確信して。

 それはまさしく、略奪者アブーチとしての嗅覚であった。

 だからこそ、アーダルベルトとエルンストの離脱に、いち早く気づき行動することができた。


「さあ野郎ども!!あの集団に敵の頭がいるぞ!!死体でもいいが、生け捕りにした奴には金貨一〇〇枚の褒美をくれてやる!!」


 即物的な物言いだが効果覿面だったようで、部下たちから歓声が上がる。


「突撃じゃあ!!」


 アブーチの号令の下、キタイ族軍最精鋭部隊二〇〇〇が濁流の如くナザール帝国軍本隊へと雪崩れ込む。


 戦いは最終局面へと移っていく。






 ☆ ☆ ☆






「負けた、な。完全に。」


 ツェーザルはそう呟く。

 混乱から立ち直ることなく、むしろ混乱は増幅している。


 ツェーザルの位置からは、友軍の動きがよく見える。

 いつでも参戦できるようにしていた位置取りが、それを可能にしていたのだ。


 それがツェーザルを助けたとも言える。


「西に移動する。」


 そう決断を下し、麾下の部隊二〇〇〇を移動させる。


「マクリルも攻撃を受けていたと聞くが、無事だろうか?」


 そう呟きつつ、軍を移動させていく。






 ☆ ☆ ☆






 決死の戦い。


 皇子アーダルベルトを逃がすため、エルンスト指揮の元にナザール帝国軍は、怒涛の勢いで押し寄せるアブーチ指揮下のキタイ族軍と交戦している。


 数字の上ではキタイ族軍を上回ってはいる。


 だが、その士気と勢いは完全に相手が上。


 ともすれば崩壊しそうになる部隊を、エルンストは懸命に指揮して支える。

 そして、近くにいたアーダルベルトの側近に、


「殿下をお連れして、ヴァルタリア城塞に逃げろ!」


 そう命じて、二〇〇の兵とともに送り出す。


 これで、後はアーダルベルトが逃げる時間を稼げばいい。

 そのためには、少しでも自分に敵の注意を引きつけなければならない。


「我こそがナザール帝国軍主将、エルンスト・サナキア!

 獅子公ルドルフが子ぞ!!」


 そう敵に向けて大声で言い放つ。


 キタイ族軍も、言葉の内容はわからなくとも、こういう場で言われる言葉はある程度は理解できる。


「大将首だぞ!奴の首を取れ!!」


 そう押し寄せはするが、当然ながらそこに至るにはナザール帝国兵の壁を突き破らなければならない。


 かくして、ヴァルザル平原の戦いにおける最後の激戦が繰り広げられる。


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