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ヴァルタリア大陸記  作者: 久万 聖
第二章〜ヴァルザル平原の戦い〜
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ヴァルザル平原の戦い 4

 マクリルとユリドの一騎打ちは、終わりを迎える。


 それは、エルンストから預けられた兵を率いて、フリートヘルムが戻ってきたのだ。


 これは、マクリルとユリド、双方にとって大きな誤算である。

 マクリルにとってはユーディンが戻ってくることを前提としていた計算が早まり、ユリドにしてみれば、ユーディンが戻ってくる前にけりをつける計算が狂ったことになる。


 マクリルにとっては嬉しい誤算、ユリドにとっては不愉快な誤算。


 今まで守勢を基本にしていたマクリルが、ここにきて攻勢に出る。

 その攻撃は、ユリドの想定を超える激烈さだった。


「くっ!?こいつ、今までのは手加減していたのか?!」


 たちまち守勢に回ることになったユリドは、屈辱に身を震わせる。


 相手の攻撃を凌ぎ、攻撃に転じようとするが簡単に封じられる。


 "自分の手をさらけ出しすぎたか"


 このマクリルという相手は、守勢に回っていた間に自分の手を完全に把握したようだ。


 ユリドの中に、焦燥感が生まれる。


 "負ける?この私が?"


 自分より強い者がいることは知っている。

 身近なところでは乳アブーチ。

 部下のギョウクを一蹴してのけた、ユーディンもそうだろう。


 だが、同年代相手に負けたことはない、今までは。


 自分よりもやや小柄な相手に負けるなど、自分の矜持が許さない。


「うおおおっ!!」


 自らを奮い立たせるように雄叫びをあげ、槍を振るう。

 それは、追い詰められた草食動物が生き残るために、形振りかまわずに暴れているかのようにマクリルには見えた。


 野生の獣相手ならば戦いを避けるところだが、人間相手ならその限りではない。

 人間がそういう状況に陥っている時は、身体に力が入り過ぎて無駄な動きが多くなる。隙が多くなり、また簡単な仕掛けにも食いつきやすく易くなるということだ。


 さらにユリドを焦らせる事態が、彼女の部下から知らされる。


「御嬢!!敵が一〇〇人ほど、こっちに向かってくる!!」


 部下の警句。


 それは、フリートヘルムが連れてきた二〇〇の兵により、完全に危機を脱したティティエがマクリルの救援に来たことを知らせるものだった。


 普段のユリドなら、ここまで不利になればすぐに引き上げている。


 しかし、今のユリドは平常心ではなかった。


「すぐに終わらせてやる!!」


 そう言って向かってくるユリドの一撃一撃は、確かに重くて強烈である。

 だが、その攻撃は単調なものとなってしまっている。


 ユリドの強烈な攻撃を受け止め続けてきた、マクリルの槍に変化が生まれる。


 その柄に亀裂を生じさせたのだ。


 そのことを自身の振るう槍の感触から気づいたユリドは、より強い攻勢に出る。


 この時、ユリドは気づかなかった。

 いや、気づけなかったと言う方が正解か。


 わざとマクリルが一点で受け続けてきたことを。


 渾身の一撃を浴びせ、それを受け止めたマクリルの槍を破壊する。


 勝利を確信したユリドは、持ち直した槍を再びマクリルに向けて大きく横薙ぎに振るう。


 "勝った!"


 そう確信していたユリドは、信じられない思いでマクリルを見ていた。


 マクリルは避けるでもなく、後退するでもない。前に進んで飛び込んで来たのだ。


 武器を破壊された者の行動ではありえない。


 振り回したユリドの槍は、マクリルの頭部に当たり、その兜を吹き飛ばす。

 その当たりは、会心のものとは程遠い。

 大振りであったがためにより懐に入られ、大した打撃になっていない。


 "誘い込まれた!?"


 ユリドの疑念は、マクリルの行動によって確信に変わる。

 動きを止めることなく、流れるように腰の剣を抜き放ち、ユリドに斬りかかる。


 "死んだ"


 ユリドはそう観念する。


「御嬢!!」


 部下の声が聞こえる。


 死んでいない。


 そう気づくと馬首を巡らして、相手へ向き合おうしてバランスを崩す。


「斬られたのは手綱・・・」


 手綱を斬られては、いくら騎馬民族といえど戦いの続行は難しい。


 "なぜ私を斬らなかった?"


 そう聞こうとして、できなかった。


 兜を吹き飛ばされた相手の素顔。

 銀髪の、美少女と見間違いそうなほどの美貌の少年。

 まるで、美しい絵画の中から出てきたような少年を見て、息を飲んでしまう。


 その少年は、自分たちを一瞥するとそのまま馬を走らせて仲間のところに向かっていく。


「お前たち。もしも私が殺されていたら、どうしていた?」


 ユリドは部下に問いかける。


「そりゃ、もちろんアイツに戦いを挑みましたよ!」


 皆がそう断言する。


「それが、私を生かした理由か。」


 ユリドはそう呟いた後、走り去るマクリルに向けて大きな声で呼びかける。


「マクリル・リューネブルク!!

 必ず、お前を私のものにしてくれる!!

 そのことをゆめゆめ忘れるな!!」


 その自分の言葉に振り向いたような気がしたが、おそらくはその通り気のせいだろう。


「引き上げるぞ。

 もっと刈り取ってやりたかったが、あのマクリルの存在を知れただけで十分だ。」


 部下に引き上げる合図を出させると、ユリドは戦線を離脱していく。


「親父殿に報告せねばな。

 私はあのマクリルを婿にすると。」


 そう呟きながら。






 ☆ ☆ ☆






 フリートヘルムと合流したマクリルは、本陣でのやり取りを知るとすぐに行動に移させる。


「ヴァルタリア方面に移動する。」


「本隊に合流しなくてもよろしいのですか?」


 フリートヘルムの当然の疑問。


「殿下の読み通りなら、私の出番はない。多少、本隊から離れたところで、私が怒られる程度で済む。

 だが、殿下の読みが外れたなら、混乱の中に飛び込むことになる。」


 混乱の中に飛び込んだところで、その混乱の大波に翻弄されるだけで、やはり役に立つことはない。


 それよりも、退路を確保することの方が重要になる。


「マクリル卿は、この戦いに敗れると予想されているのか?」


 フリートヘルムの問いに、マクリルは肩をすくめる。


「だから、敵の女戦士を逃したのね。」


 ティティエが口を挟む。


「殺しても、生け捕りにしても復讐戦を挑まれる。

 そんな状況じゃ、退却戦なんてできないものね。」


 ティティエはそう言って微笑む。


 こうして、マクリルにとってのヴァルザル平原の戦いは、退却戦へと移行する。


 そして、戦線の崩壊したナザール帝国軍本隊は、混乱状態のまま終盤戦へと向かっていった。


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