表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァルタリア大陸記  作者: 久万 聖
第二章〜ヴァルザル平原の戦い〜
21/47

敵影

 ヴァルタリア城塞から出たマクリルは、アーダルベルト皇子の方針に最も忠実であり、それを具現化していたともいえる。


 なにせ、自隊の近くにいる部隊の指揮官に働きかけ、守勢になった時という限定つきながらも、その指揮権を委譲させることに成功していたのだ。


 その結果、自隊を含む八つの部隊二〇〇〇名を、守勢限定とはいえ指揮することになった。


 この時、他の指揮官を口説き落とすのに使ったのは三つ。


 実父ルドルフの武名と、皇帝の娘であるヒルデガルドの婚約者であるという権威。そして、配下に遊牧民であるユーディンらを従えているという事実。


 その三つを持って説得し、限定的な指揮権を委譲させたのだ。


 "その時になれば中心となれるだけの能力を持った者が、頭角を表す。"


 このアーダルベルトの言葉を、まさにマクリルは実践したと言えよう。


 また、守勢限定としたのも、彼らが説得に応じた理由かもしれない。


 だが、そのマクリル自身も大きな不安を抱えている。


 ひとつは敵の指揮官。


 伝令からもたらされた報告から類推するに、夜襲の手際は見事としか言いようがない。


 末端にいるマクリルな届いた情報でさえ、そう思わせる見事さ。


 併走するユーディン、サティエ、ティティエに視線を向けると、三人ともにそれぞれの表情で頷いている。


 三人は間違いなく、アブーチが出てきていると判断しているということだ。


 そしてもうひとつ。


 いざ守勢に回った時、本当に指揮権を委譲する者がどれだけいるか。


 そしてなにより、自分の経験の無さ。


 行政官として、小規模は演習の経験はあっても、実戦経験はない。


 ふと視線を感じて横を見ると、ユーディンがニヤリと笑ってみせている。

 任せておけ、そう言っているようだ。


 反対側では、サティエが大丈夫と微笑みかけてくる。


 サティエのやや後方にいるティティエも、大丈夫だと言わんばかりに、軽く弓の弦を鳴らす。


 そこで改めて、頼もしい仲間が周りにいてくれていることに気づく。


 そして、軽く頭を振り前を向き、馬を走らせていく。






 ☆ ☆ ☆






 半刻(約一時間)ほど進んだ頃、マクリルのいる最後尾に騎兵が単騎、駆け込んでくる。


「伝令!ナムソス王国、ニルス・アーベル将軍より遣わされた!

 アーダルベルト皇子に取り次がれたし!!」


 その名乗りを受け、マクリルはフリートヘルムを付けて、本隊へと送り出す。


 だが、ここで違和感を覚えて考え込む。


 その様子を見て、併走するティティエが話しかける。


「どうしたの?なにかあった?」


「いや、今頃になって伝令が来たけれど、よく無事だったな、と。

 そう思ったらなにか違和感を感じて・・・」


 そこまで口にして、違和感の正体に気づく。


「無事だったんじゃない!無事でいさせたんだ!!」


 伝令の後を追えば、こちらの居場所がわかるのだから。


 マクリルは背中に冷たいものを感じながら振り返る。

 視線の先には、今はまだ小さな砂埃が舞う。

 だが、確実にこちらを追ってきている。


「敵襲!!右後背から敵襲!!」


 マクリルはそう叫ぶと、指揮権を委譲する約束を交わした隊長に、履行を求める使者を送り、そして本隊に伝令を送る。


「右後背より敵影あり。

 ただし、これは陽動と思われる。

 油断無きよう求む。」


 と。


 こうして、ヴァルザル平原の戦いは幕を開ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ