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ヴァルタリア大陸記  作者: 久万 聖
第二章〜ヴァルザル平原の戦い〜
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応集司令書

 帝都より応集司令書を持った使者がやって来た時、マクリルはヒルダを後ろに乗せてフルダ村まで馬を走らせていた。


 供をするのはユーディンとサティエ、ティティエの三人。


 ヒルダが来た時の、いつもの出来事。


 そして、このマクリルとヒルダの姿を微笑ましく見ている、村人たち。


「お似合いのおふたりだね。」


 そんな言葉を口々に言いながら。


 小川のほとりに馬を繋ぎ、マクリルらは休息を取る。


 頰を撫でる風が心地良く、小川の水の冷たさも気持ち良く感じられる。


 そこに馬を走らせてやって来たのは、傅役もりやくとしてマクリルに仕えているアーベルだった。


「マクリル様!帝都より火急の報せが届いております!

 すぐに戻られますようにと、エルマー殿より言付かって参りました!」


義兄上あにうえから?」


「はい。使者の方も、マクリル様に直接伝えたいとのよしにございます。」


「わかった。すぐに戻る。」


 マクリルはそう返答すると、皆に戻ることを告げる。

 そして、不服そうな表情を浮かべるヒルダを宥め、馬上の人となり手を差し伸べる。


 不服そうな表情を見せるヒルダも、その手を取ってマクリルの後ろに乗る。


 ふたりを乗せた馬を先頭に、ユーディンらが続くのだった。






 ☆ ☆ ☆






 帝都よりの使者フリートヘルムは、マクリルに続いて入ってきたヒルダを見て固まる。


 そして悟る。


 同僚たちがここに行きたがらなかった理由を。


 ヒルデガルド皇女は、聡明かつ気さくな人柄で知られている。

 ただし、ひとつだけ例外がある。

 それはマクリルが絡むこと。

 マクリルが絡むと、この皇女殿下は感情的になってしまい、時には暴走してしまう。


 そして今回の任務、応集司令書を届けてその説明をするのは、マクリルに大きく絡むことになる。


 司令書を受け取ったマクリルが、文書に目を通す。


 "騎兵一五〇騎を率いて参集せよ"、そう記されている。


 ベルン行政区の駐留兵力が五〇〇。騎兵はそのうち二〇〇。


「騎兵のほとんどを連れて行くことになりますが、よろしいのでしょうか?」


 マクリルの問いに、フリートヘルムが答える。


「ベルン行政区は治安も安定しており、また帝都から近いこともあるので、その不安はないものと考えて良いと。」


「それと、私が不在となる間の代行を、エルマーに継続したいのですが、それも承認いただけるのでしょうか?」


「それも問題ない。期間は長くても二ヶ月と想定されている。」


「二ヶ月ですか?」


「そう想定している。」


 フリートヘルムは繰り返し答える。


 そして、最も重要なことをマクリルが切り出す。


「この度の出征は、どこに向けてのものになるのでしょうか?」


「北東の、諸王国からの救援要請を受けての出征だ。

 敵は遊牧民族。たしか、キタイ族といったな。」


 キタイ族、そう聞いてユーディンと、サティエ、ティティエの表情が変わる。


「敵兵力は一万から一万五千。

 我が軍は三万の軍を派遣する。

 現地の軍を合わせれば、五万を超える大軍となるだろう。」


 それを聞き、マクリルは返答する。


「わかりました。早急に整え、帝都に向かいます。」


 マクリルの返答を聞き、フリートヘルムはヒルデガルド皇女が何も言わないことを訝しみながら、退室した。






 ☆ ☆ ☆






「総数五万以上、ですか。」


 リュディガーの呟き。


「それが本当ならば、これはやはり・・・」


 エルマーがその呟きを引き継ぎ、そしてその場にいるアーベルやアマーリアがマクリルを見る。


「私の経歴に箔をつけるため、だろうな。」


 皆の視線を受けながらソファに座るマクリル。

 そして、当然のようにその隣に座るヒルダ。


 ヒルデガルド皇女との婚約に先立ち、軍歴をつける。しかも、最大で敵一万五千に対して総勢五万以上。

 負ける要素の少ない戦いで、その軍歴に勝利を刻み込む。


「だけど、陛下がこのようなことを考えるとは思えない。」


 ロタール三世ならば、いきなり対外戦争に駆出そうとはしないだろう。

 せいぜいが国内での盗賊退治。

 そうやって少しずつ経験を積ませるのが、ロタール三世の性格だ。


「すると、近臣の者が気を使ったということでしょうか?」


 アーベルの問い。


「父上がそんなことをするとは思えないから、別の誰かなのだろう。」


 マクリルは、実父であるルドルフを思い浮かべる。


 マクリルと同じように、ルドルフを思い浮かべたアーベルが苦笑しながら、


「たしかに、ルドルフ様ならそのようなことはなさらないでしょうな。」


 それどころか、最も危険な状況に放り込むことさえ考えられる。


「誰が気を使ったかなんて、もはやどうでもいいこと。

 しっかりと生きて帰ることこそが、重要ではないか?」


 エルマーがそう口にしながら、ユーディンらを見る。


「そうだな。キタイ族の奴らは強い。だが、それだけの兵力差があるなら、まず大丈夫だろう。」


 ユーディンがそう返し、それをサティエが引き継ぎ、


「ただし、アブーチが出て来なければ、ね。」


 キタイ族の族長であり、遊牧民族たちをまとめ上げ、大陸中央部の平原地帯の三割を支配するまでになった男の名をあげる。


「ですが、それを考えるのは我々の仕事ではありません。

 遠征軍の指揮官となる者が、判断するべきことでございましょう。」


 話が長くなり、また下手な情報を入れるとヒルデガルド皇女が暴走しかねないと判断したのか、リュディガーがまとめにかかる。


 その意を汲んだマクリルは、


「我らは早急に帝都へ行く準備を整えよう。後は、帝都での軍議に委ねる。」


 そう指示を出すのだった。

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